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街の手前にて

「街が見えてきたか……」

 太陽が中天を過ぎた頃、遠くに街を発見したアレンは、何とも言えない表情をしていた。

 チラリと後ろへ視線を向けると、静かに付いてくるクレアの姿。

 結局アレンは、クレアを連れたまま数日を歩き、次の街へと辿り着いてしまったのである。

 道中、ずっと後ろを付いてくるクレアを振り払う事も出来ず、かと言って無視する事も、アレンには出来なかったのだ。

「面倒事を抱え込むのは、御免なんだがな……」

 過去の経験からも、非情になった方が楽だと思っているアレンだったが、それを実践出来ずにいた。

 分かってはいても、元々の性分(しょうぶん)は、なかなか変えられないのである。

「街へ向かわないのですか?」

 不意に立ち止まったアレンを不思議に思いつつ、クレアは疑問を口にする。

 アレンが悩んでいる事など、彼女には知る(よし)もなかった。

「ああ、そうだな……」

 気乗りしない返事をしつつ、アレンはどうしたものかと頭を悩ませ、そして、一つの答えを出した。

 クレアを、この街へ置いていけばいいのだ。

 街道とは違い、危険も少なく、人も居る。運が良ければ、優しい人間に拾って貰う事も出来るだろう。

 ここでなら、クレアを置いていっても、後味の悪い思いをしなくて済むはずだ。

 そう考えたアレンは、改めてクレアの方を見る。

 クレアの姿は、出会った時と同じまま。

 髪は長く、ボサボサで、着ている物は申し訳程度のボロキレ一枚。

「おい、ちょっとこっちに来い」

 よくもまぁ、自分は道中気にしなかったものだと思ったアレンは、街へと入る前に、少し寄り道する事にした。




 街道脇にある、鬱蒼(うっそう)とした林を抜けた先、そこで川を発見したアレンは、その中へとクレアを放り込んだ。

「何をっ……!?」

 溺れぬよう、慌てて身を起こすクレア。

 幸いな事に、川の水位はクレアの胸下くらいの高さであり、クレアは立ち上がる事ができた。

「うるせえな、お前ちょっと臭うんだよ」

 怒りのままアレンに食って掛かろうとしたクレアは、その一言に固まってしまう。

 恐る恐る自分の腕へと鼻を近づけ、匂いを確かめる。

 奴隷であったとはいえ、クレアとて年頃の乙女だ。

 臭うと言われれば、ショックを受けるに決まっている。

「いいか? 街に入る前に、しっかりとそこで洗っておけ」

「でも……」

「何だ? 何か問題でもあるのか?」

 川で身体を洗う事には、クレアとて賛成なのだが、

「服を、脱がなきゃいけないじゃないですか……」

 そう言って、顔を赤らめ、身体を抱きかかえる様に身を(よじ)るクレア。

 そんなクレアに対し、アレンは冷めた視線を向ける。

「ハッ、ガキが何言ってるんだ? そう言う事は、もうちょっと色気を身につけてから言えよ」

 アレンの言葉に、ムッとした表情を浮かべるクレア。

 何か言い返そうと思ったが、己の平たい胸が視界の中へと入ってしまい、結局、何も言い返す事は出来なかった。

「ま、俺もガキの裸なんて見ても面白くないし、散歩でもしてくるから安心しろよ」

 意気消沈したクレアを川の中へと残し、そのままアレンは、林の中へと入っていった。




 周囲に誰もいなくなった事を確認したクレアは、身に着けていたボロを脱ぎ、その裸身を(あら)わにする。

 ろくな食事を与えられていなかったクレアの身体は、全体的にやせ細っており、同年代の少女達に比べて、発育も良くなかった。

 川の流れへと、身を(ひた)し、クレアは身体の汚れを洗い流す。

 手元に、身体を(こす)れる様な物が無かった為、仕方なく、脱いだボロを丸め、身体を擦る事にした。

 今まで、汚れるままになっていた身体からは、擦る度に、垢が落ちていき、クレアは、身体が清められていく様な感覚を味わっていた。

 長い時間を掛けて、ひと通り身体を洗い流したクレア。

 そろそろ川から上がろうかと思った時、

「おい」

 林の方から、アレンの声が聞こえてきた。




 クレアは慌ててしゃがみ込み、川の中へと身体を隠す。

 だが、アレンの声は聞こえても、姿は見えなかった。

 どうやら、木の陰から話し掛けてきている様だ。

「水浴びが終わったら、こいつを羽織っておけ」

 木の陰から飛んできたのは、今まで着ていたボロよりは、多少マシなだけの、薄汚れた外套(マント)

 もう少しマシな物が良かったと思うクレアだったが、自分の境遇を考えれば、これでも贅沢な方だと思い返した。川から出て、落ちていた外套(マント)を拾い上げる。

「それと、腹が減ったからそろそろ飯にする。そこで火の準備をしておけ」

 次いで飛んできたのは、紐で(くく)られた枝の束と、火打石だった。

 クレアが水浴びをしている間に、林の中で拾い集めてきたのだろう。

 空を見上げてみると、陽はまだ沈みきっておらず、夕食をとるには、早い時間だった。

 だが、水浴びをし、身体が冷えていたクレアには、火の(そば)に居られるという事は、ありがたかった。

「あの……ありがとう」

「別に、お前の為じゃねえよ。俺の腹が減っただけだ」

 自分の為の行為だと言い切り、クレアの感謝の言葉を、バッサリと切り捨てるアレン。

 アレンの言葉に戸惑ったクレアだったが、

「じゃあ、しっかりと準備はしておきます」

 言われた事だけは、しっかりとやる事にした。

「ああ、俺は上流の方で魚でも採ってくる。ちゃんと火を起こして、(そば)で調節をしておけよ」

 そう言い残してアレンはまた、林の中へと消えて行くのだった。



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