表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

真実

 互いに駆け出した両者が、部屋の中央にて激突する。

「そらぁ!!」

 ギールが振り下ろした魔剣を、横へと避けるアレン。

 振り下ろされた魔剣はそのまま床へと叩きつけられ、建物に大穴を開ける。

「ちっ、昨日戦った時とは桁違いの力だな……」

 いくら魔剣の能力で身体能力が強化されているとはいえ、正面からあれを受け止めるのは、今のアレンでも厳しいだろう。

「お前の為に、数十人分の血を集めてやったんだ! ありがたく思えよなぁ!」

「迷惑な話なんだよ!」

 剣を振り下ろしたギールへと、アレンが斬り掛かる。

 だが、

「甘えよ!」

 ギールが力任せに横へと振るった一撃に、アレンは剣ごと弾き飛ばされる。

 その威力は凄まじく、アレンの身体は、そのまま壁へと叩きつけられた。

「かはっ!?」

 痛みと衝撃に、アレンの口から、苦悶(くもん)の声が吐き出される。

 しかし、休んでいる暇は無かった。

「ほらほらぁ! 休んでいると死ぬぞぉ!!」

 獣じみた動きで、ギールがアレンへと襲い掛かる。

 何とか身体を(ひね)り、その一撃を(かわ)したアレンだったが、その後もギールの猛攻は、休む事なくアレンを襲い続けた。




 アレンとギールの戦いを、クレアは祈るような気持ちで見守っていた。

 戦いの素人のクレアでも分かるほど、アレンはギールに押されている。

 ギールの隙を見つけては、時折反撃を繰り出すものの、ギールは信じられない速度で一撃を放ち、アレンを攻撃ごと叩き潰す。

「どうしたぁ、その程度のもんかぁ!?」

 魔剣を軽々と振り回し、アレンを追いつめていくギール。

 その勢いは、さながら竜巻のようだった。

 アレンだけではなく、障害となる物すべてを薙ぎ払っていく。

「まぁ、仕方ねえよなぁ? この村の住人は全部、俺の魔剣の餌にしたからなぁ!」

 薙ぎ払った燭台が火の粉を散らす中、ギールが大振りの一撃を、アレンへと叩き込む。

 何とか剣で防いだアレンだったが、勢いは殺せず、入口近くまで吹き飛ばされる。

「お前も、魔剣にもっと魂を喰わせていたら、もう少しはマシだったかもなぁ」

 余裕を見せるギールは、追撃をしてこなかった。

 剣を構え直し、アレンは体勢を立て直す。

 そこへ……。

「……何の用だ?」

 クレアが、硬い表情でアレンへと歩み寄る。

「邪魔だ、下がっていろ」

 にべもなく、クレアを追い払おうとするアレン。

 だが、クレアは下がらなかった。

「このままで、勝てるのですか?」

 クレアの質問に、アレンは黙ったまま。

 その沈黙が、もはや答えているも同じだった。

「どうするべきか、分かっているのではないのですか?」

 幸いなことに、ギールはアレン達の様子を眺めているだけで、手を出してこようとはしなかった。

 黙ったままのアレンに対し、クレアは自分の願いを告げる。

「私を、斬って下さい」



 

 クレアの言葉に対し、アレンが動くことはなかった。

 代わりに、建物の中に嘲笑(ちょうしょう)が響く。

「健気じゃねえか、お嬢ちゃん。そいつの為に、犠牲になろうってかぁ?」

 笑い声は、ギールから発せられていた。

「いいぜぇ、面白いじゃねえか。ほら、邪魔はしないでやるから、とっととやれよ。もしかしたら、俺に勝てるかもしれないぜ?」

 面白い余興とでも思っているのだろう。

ギールは剣をぶら下げたまま、動こうとはしなかった。

 そんなギールの言葉に耳も(かたむ)けず、クレアはアレンを見詰め続ける。

 そんなクレアに対し、

「……必要ねえよ」

 アレンが放ったのは、否定の一言だった。




「どうしてですか!?」

 この期に(およ)んで、自分を斬ろうとしないアレンに、さすがのクレアも声を荒げる。

「このままでは勝てないのは分かっているはずです! それなのに、なぜ躊躇(ためら)うのですか!」

 アレンに拒まれ、クレアの感情は爆発した。

「私に情でも湧きましたか!?」

 アレンへの苛立ちと共に、想いをぶつけるクレア。

「私は貴方の後を勝手についてきただけの、ただの奴隷です! 戦いの役に立つどころか、貴方に迷惑ばかり掛けているお荷物です!」

 叫ぶクレアの瞳から、涙があふれ出る。

「そんな私が、貴方の役に立てる唯一の事なんです……どうか私に、恩を、返させて下さい……」

 最後の方は涙交じりになり、上手く言葉に出来なかった。

 それでも、

「……ありがとうな」

 クレアの想いは、アレンにしっかりと伝わっていた。

 穏やかな顔で、クレアへと礼を言うアレン。

「だが、お前を斬る必要はない」

「そんなっ……!?」

 (なお)も、何かを言おうとしたクレアに対し、アレンは首を横へと振る。

「そもそもが間違っているんだよ。この剣は、斬った人間の魂を力にしている訳じゃない」

「でも……」

 アレンの言葉に、クレアは困惑を隠せなかった。

 そんなクレアへと、アレンは以前、自分が聞いた話を伝える。

「魂を喰らう剣、なんて名前が付けられているせいで誤解されてはいるがな、元々この剣は、そんな呼ばれ方をしていなかったらしい」

 それは幼い頃に、友と一緒に聞いた話。

「長い年月が経つうちに、持ち主が何人も代わり、正しい呼び方を知る者もいなくなり、いつしか魂を喰らう剣と呼ばれるようになったんだとさ」

「じゃあ、その剣は……?」

 本当の名前は何なのか、そして能力を使う為に本当に必要な物は何なのか。

 クレアの疑問に対し、アレンは一つの事を教える。

「本来この剣は、魂を喰らう剣じゃなくて、魂を捧げる剣と呼ばれていたそうだ」

「それって……」

 クレアの頭の中に、一つの答えが浮かぶ。

 それを肯定するように、

「そう、力の代償は、使用者の魂なのさ」

 アレンは剣の真実を、告げるのだった。

 



「そんな……」

 絶句するクレアをその場に残し、アレンはギールへと向き直る。

 心の中にあるのは、クレアに対しての感謝。

 そして、想いに応えてやれない事への謝罪。

 それらを胸の内へと秘め、アレンは剣の真なる力を解き放つ。

 

「目覚めろよ、魂を捧げる剣(ソウルイーター)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ