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山道での戦い

 アレンは木の陰に身を隠し、男達が通り掛かるのを待った。

 相手の数は、確認できるだけで八人。

 クレアが言っていた数よりも少なかった。

 恐らく、他の道を見張っていたのだろう。

 山道の両脇には、大きな木がいくつも立ち並んでおり、まだ日が昇っているのにも関わらず、不気味な雰囲気を(かも)し出している。

 男達は、そんな薄暗い道の中を、一塊になって進んでくる。

 アレンの傍まで来るのに、もうそんなに時間は掛からない。

 飛び出すタイミングを見計らい、アレンは息を(ひそ)める。

 できれば、最初の不意討ちで、二、三人は仕留めておきたいところなのだが、

「ん~?」

 先頭を歩いていた赤毛の男が、アレンの隠れている少し手前で足を止める。

「どうしたんですか、ギールさん?」

「いや、何だか臭うなぁって、思ってよぉ」

 どうやら相手は、アレンの存在に感付いたらしい。

「ちっ、どうやら鼻が利くようだな」

 待ち伏せが上手くいかなかった事に、舌打ちするアレン。

 こうなってしまえば、打って出るしかなかった。

 覚悟を決めたアレンは、足下に落ちていた石を拾い、相手の前へと姿を現す。

 アレンの姿を確認した男達は、慌てて武器を構えたが、赤毛の男、ギールだけは違っていた。

 アレンの登場に驚きもせず、悠然(ゆうぜん)とした態度を取っている。

「やっぱり隠れていやがったか。お前か? 俺の手下どもを斬った野郎っていうのは?」

「手下? ああ、街で斬ったゴミの事か。俺はただ、ゴミ掃除をしただけなんだがな」

「テメェ!!」

 アレンの挑発に、部下達は怒りを見せたが、やはりギールだけは違った。

 面白そうに、アレンの事を眺めている。

 想像以上に厄介な相手だと、アレンはそう判断した。

 挑発に乗ってくる事もなく、戦いの前だというのに緊張している様子もない。

 殺し合いに慣れている。そう思わせる相手だった。

「何で俺の事を追ってきた? 奴隷を取り返す為か? それとも手下の仇討ちか?」

 アレンの質問に、ギールは鼻で笑う。

「別に、奴隷のガキなんざ興味もねえし、あんな奴らの仇を討つ必要も感じねえよ」

 その言葉に嘘はないだろう。

 ギールの態度は、心底どうでもいいような感じだった。

「ただ、俺に逆らった奴を、生かしておく気もないんでな」

 獰猛(どうもう)に笑う、赤髪の男。

 そしてギールは片手を上げ、

「理由は分かっただろう? じゃあ……とっとと死んでくれや」




 ギールの合図と共に、手下共がアレンへと押し寄せてきた。

 アレンも剣を抜き放ち、相手へと備える。

 幸いな事に、男達の武器は剣やナイフであり、槍や弓といった物はない。

 遠距離からの攻撃を気にする必要がないのは、アレンにはありがたかった。

 先頭を走る男に対し、アレンは隠し持っていた石を投げつける。

 投石に(ひる)み、勢いを落とす男。

 そのすぐ後ろを走っていた男が、慌てて避けようとするが、間に合わなかった。

 ぶつかり合い、転倒する男達。

 アレンはここぞとばかりに前に出て、男達へと斬り掛かった。

 剣を振るい、転倒を(まぬが)れた者達を、斬って捨てる。

 出鼻をくじかれた男達は、ろくな抵抗もできぬまま、(またた)く間に二人が斬られた。

 そのままアレンは、倒れている者達の頭を蹴飛ばし、戦闘不能にする。

 戦いはまだ始まったばかり。

 それなのに、アレンはすでに敵の半数を無力化させる事に、成功していた。

「何だ、コイツは……!?」

 残る男達が、アレンを警戒して距離を取る。

 その様子に、アレンは剣を構え直しつつ、内心で安堵していた。

 戦いの勝敗は、一瞬で決まる。

 今回は上手くいったが、一歩間違えれば、自分が(しかばね)を晒す事になるのだ。

 残る相手は四人。まだ気を抜く訳にはいかない。

 気合を入れ直しつつ、アレンは次の一手を打とうとしたのだが、

「なかなか面しれえなぁ、お前」

 奥に控えていたギールが、剣を片手に歩き出した。

 残っていた部下達が、恐れるかのように脇へと逸れ、ギールの為の道を空ける。

 アレンの下へと、ゆっくりと向かうギール。

 ギールから放たれる圧力(プレッシャー)に、アレンは危険を感じた。

 牙を研ぎ澄ませた狼を前にしたような感覚。

 いや、そのような高尚(こうしょう)なものではない。

 どちらかといえば、狂犬のような、何をしでかすか分からない狂暴な雰囲気を、アレンはギールから感じ取っていた。




「さぁ、少しは楽しませてくれよ?」

 間合いへと入ったギールは手に持っていた剣を(ひらめ)かせ、アレンへと襲い掛かる。

 横薙ぎの一撃を、剣で受け止めるアレン。

「へぇ、コイツを受け止めるか。じゃあ、もう少し本気出すぜぇ!」

 アレンに剣を受け止められたギールは、力任せに剣を振るう。

 型も何もない、ただ暴力のままに襲いくるギールの剣。

 だが、その力と速さは尋常ではなく、アレンは防戦一方に追い込まれる。

「ほらほら、反撃しねえのか? このままだとお前の首が飛ぶぞぉ?」

「……じゃあ、お言葉に甘えるとしようか……ね!」

 タイミングを見計らったアレンは、ギールの剣を弾くと共に、反撃の一撃を繰り出す。

 ギールの顔へと、伸ばされる剣。

 だが、赤毛の男は首を横へと傾け、アレンの一撃を避ける。

「ちっ」

 アレンの一撃は、ギールの頬を裂くだけにとどまった。

 反撃を警戒して、一旦距離をとるアレン。

 しかしギールは反撃する事無く、その場で笑っていた。

「いいねぇ、お前。こんなに楽しいのは久々だぜぇ」

 頬を切り裂かれたのにも関わらず、ギールは平然と、楽しそうに笑う。

「楽しませてもらった礼に、こっちも面白いものを見せてやるよ」

 そう告げたギールは、アレンへと向かわず、倒れている手下へと近付いていく。

「何をするつもりだ……?」

 アレンが(いぶか)しむ中、ギールは剣を逆手に持ち直し、己が剣を、倒れている男の背へと突き立てた。




「何だと……!?」

 アレンにはギールの行動が理解できなかった。すでに戦闘不能の状態にある、自分の手下にトドメを刺す理由が。

 だが次の瞬間、アレンは自分の目を疑うような光景を、見る事になる。

 ギールの持っていた紅き剣が、脈打つように明滅し、その都度、禍々(まがまが)しい気配を生み出していくのだ。

 よく見れば、刺された男は段々とやせ細っていき、最後にはミイラのような、みすぼらしい物へと変貌していた。

「あれは……まさかっ!?」

 今に至って、アレンはギールの行動をようやく理解した。

 あの紅い剣は、人の血を吸い、己の力へと変えているのだ。

「これくらい血を吸わせれば、充分かね」

 二人目の血を吸い取ったところで、ギールは満足したようだ。

 紅き剣からは、先程よりも凄まじい威圧感が感じられる。

「それは魔剣なのか?」

「ああ、そうさ。血を欲する魔剣(ブラッディソード)って言ってな。俺のお気に入りなんだぜぇ?」

 アレンの質問に対し、ギールは愉快そうに笑う。

 まるで、お気に入りのオモチャを自慢するかのように。

「さて、血を吸ったコイツは狂暴だからなぁ……頑張って耐えてくれよ!!」

 叫びと共に、ギールはアレンへと、再び襲い掛かった。

 禍々しく光る、紅い剣を、真っ向から振り下ろす。

「ぐうぅっ!?」

 何とか剣で受け止めたアレンだったが、ギールの斬撃は先ほどよりも重くなっており、押し潰されないよう、耐えるだけで精一杯だった。


 このままでは、やられるのは時間の問題だろう。

 勝つ為には、こちらも奥の手を使うしかない。

 アレンにもその事は分かってはいたのだが、後々の事を考えると、使うのにはまだ迷いがあった。

 他に手はないかと、焦る頭で必死に打つ手を考えていた時、

「キャアッ!」

 小さな悲鳴が、アレンの耳へと飛び込んできた。




 アレンに置いていかれたクレアではあったが、彼女は言いつけを破り、アレンの後を追って来ていた。

 力になれずとも、せめて見届けるくらいの事はしたいと。

 その事が、(あだ)となった。

 木の陰でアレンとギールの戦いを見ていたクレアは、運の悪い事に、ギールの手下に見つかってしまう。

「逃げた奴隷のガキだな! こっちへ来い!」

「キャアッ!」

 クレアを見つけたギールの手下は、クレアの首根っこを引っ張り、地面へと引きずり倒す。

「テメエが逃げたせいで、俺達は……!」

 仲間がやられた事と、戦闘の空気に当てられていた男は、興奮状態にあった。

 クレアを斬ろうと、その剣を振り上げる。



 

 唐突に聞こえてきたクレアの悲鳴。

 そして、目に映る少女の危機。

 クレアの危機を目にした瞬間、アレンの中の迷いは消えていた。

 アレンは静かに、己の剣へと命じる。

 

「喰らえ、魂を喰らう剣(ソウルイーター)



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