2ndステージ46:仲間達の行方
翔琉とポセイドンが激しい攻防を繰り返す中、市街地ではグランやボルたちが時限亡者たちと戦っていた。
いずれにしても上級ばかりなので、相当手こずっているようだ。
「はあ……はあ……こいつらいったいどこから湧いてくるんだ?」
思わず愚痴をこぼすボルに、グランは知らぬ!
と苛立ちをぶつけるがごとく言う。
その苛立ちからか、次第に余裕がなくなって来ているのが、うかがえる。
体力と精神力を同時に消費させているので、当然と言えば当然なのであろう。
他の事に構っている余裕がないという状況だ。
さらに言えば、大魔導士たちは町の住人の安全も考慮に入れて戦っているので、純粋に戦闘に集中することができていない、というのも大きいだろう。
さらに翔琉とリュウ達の安否など、いまだに事情を完全に把握し切れていない彼らにとっては、終わりの見えないこの戦闘は苦しいものである。
しかしこの苦しい戦いも突然の光が上空を覆ったことで終止符を迎えた。
時限亡者たちはその光にうち滅ぼされたかのように消えていく。
まるで幽霊が成仏するかのように―――――
グラン達にはこの光には見覚えがあった。
言うまでもなく、これまで何度か見たからだ。
彼らの結論、思考が導いた答えは、光属性の最強魔法である神之憤怒であるという確信である。
光属性の魔法は、邪悪なものを滅する性質に加えて、光属性の最強魔法、神之憤怒は強力な破壊をもたらす魔法である。
時限亡者たちが消えたのは、神之憤怒による強力な光属性によるものだという証明ともいえる。
しかしながら彼らの結論はこれでは終わらなかった。
その理由が”天野翔琉以外の個体から放たれている光景”が目に映ったからだ。
光の元には、先ほど自分たちを飛ばした、ポセイドンがいる。
そしてポセイドンの周りには、おびただしいほどの光が収縮されていて、何よりポセイドンが纏っている光は神魔法:光天神そのものである。
「行かん! あの攻撃をまともに食らえば町が沈むぞ!」
「ジンライやリュウ達も気になるし……何より翔琉自身も危ない! 急ぐぞ!」
そういってグラン達は、すでに瓦礫と化した神殿へと向かうのであった――――――
ほぼ同時刻、この都市の近くには、ディル達が来ていた。
新たな衣を纏いし、乙女たちと、一人の青年。
そしてボロボロの姿で、ロープでぐるぐる巻きにされている男がいる。
「やっぱり、まだ時間かかってたか! まあ、ジンライちゃんいるから当然と言えば当然なのかね?」
そんな悪態をつきながらも、アニオンは翔琉たちの事を内心では心配していた。
そしてアニオンの他にも、ディルやフルート、エンも……
ぼこぼこの顔のトルネに至るまで全員が全員翔琉を……え? ぼこぼこ?
「痛いんだけど、花魁ども。何故殴る! 何故蹴る! 何故痛めつける? しかもよりによって顔だし! これじゃあ、女の子たちと夜遊びできなくなる、ロープでぐるぐる巻きに何故する!?……痛い!」
最後まで言わせねーよ、的な勢いでフルートがトルネに殴り掛かる。
血反吐を吐きながら、その場に倒れるトルネに誰も同情の目を向けなかった。
扱い雑すぎ!
その時、町の上空で神々しくて、強い光が現れる。
「あの魔法は……光属性の最強魔法、神之憤怒!?」
「と言うことは、翔琉が?」
アニオンとフルートはお互いに顔を見合わせて嬉しそうに言うが、ディルは冷静に”違う”と言う。
「みんな、あれは翔琉の魔法じゃない……根源的に邪なるものの気配があの光にはあるし、なにより翔琉の持つ優しい光をあの下から感じる……」
そういった後、2人の顔は険しいものになった。
まさか、敵に神魔法を使用されている。
そう思うと、翔琉の安否が心配なのだろう。
「じゃあ、あれは敵?」
「このままじゃ、やばいんじゃないの?」
急ぎましょう!
と翔琉の元へ、女性陣たちは急ぐ。
一方エンは、トルネの体力と身体を回復させていた。
リュウのような強力な治療魔法が使えないので、道具魔法を用いて回復させている。
このエンの行動が、のちに翔琉たちを助けることになるのを、この時女性陣たちは知らなかったのだった……
場面は再び俺、天野翔琉の戦闘風景へと戻る。
俺は、全力で輝天鏡を生成する。
現状で出来うる、最大で最高で最上の鏡を、自身の精神が壊れてしまっても構わないというくらいに、必死に必死に振り絞って作る。
次の瞬間には倒れてしまうかもしれないくらいに、精神はすり切れていたが、何とか輝天鏡を生成するのに成功する。
後は、あの神々しく、まがまがしい光の塊を跳ね返すことができれば俺の勝利となる。
ただ、問題なのが”本当に跳ね返すことができるのか”という点である。
残念ながら、可能性として最も一番いい方法を取っただけであって、完全に攻略できるとは言われていない。
現代ゲームで言うところの、F○Ⅸで裏ボスを、絶対に倒せるよって言えるレベルくらいで微妙なところである。
まあ、ゲームの話はこんな時にしている場合ではない。
今は現状の打破のために、全力で取り組むのが一番いい。
こんなことを考えているといつの間にか光は迫ってきていた。
くそ!
考える余裕があるなら現状を打破しろ!
俺!
「神之憤怒! 頼む! 跳ね返ってくれ! 光の魔法:輝天鏡・最大出力!」
そして俺の盾と、ポセイドンの攻撃がぶつかる。
激しい衝撃波が辺りを襲い、瓦礫が塵となっていく。
「お願いだ! 跳ね返れ! この野郎がぁ!」
声は響けど、光は跳ね返らない。
そして次第に押されていく。
腕がきしみ、足が地にめり込んでいく……そして驚くことに、輝天鏡にひびが入りはじめるのである。
”馬鹿な! あの輝天鏡が割れるなんて……ありえない!”
アマデウスは思わずポロリと言う。
過去にさかのぼっても、こんな事態は考えられなかったとアマデウスは後に語った。
最悪の結末を想定しなければならない状況になってしまっている。
勝てる可能性があったのが一転、死の危機に瀕している。
”すまない、翔琉。計算違いだった。ここで終わってしまうことになるなんて……”
アマデウスは声を擦切らせ、懺悔をするかのごとく静かに言う。
盾のヒビは次第に広がっていく。
”翔琉……”
もう何も言うな、アマデウス!
そう彼に言い聞かせる俺は、アマデウスと共に死ぬことをすでに覚悟を決めていた。
どのみち助からない。
あがいたけど、どうにもならなさそうだ……
「ありがとうな、アマデウス。そしてみんな! 俺が死んでも、頑張ってくれ!」
走馬灯のように俺の思い出はめぐりにめぐる。
記憶は繋がり、感謝の言葉であったことが心の中でこみ上げる。
そして俺は光に飲まれた。
結果から言うなら、天野翔琉は直撃を受けた。
情状酌量の余地なく、かわす余裕もなく直撃した。
死んだことだし、閻魔大王様がいれば、今すぐにでも裁いて天国か地獄へと俺を飛ばしてしまうんだろうな。
しかしながら、閻魔大王様の力は及ばなかった。
何故なら、俺はまだ生きていたからだ。
ん?
生きている?
あれ?
「光属性の最強魔法、神之憤怒の最大を食らったのに……なんで?」
そう思って上空を見ると、ポセイドンも唖然としている。
「お前! どうやってこの魔法を!」
どうやらこの魔法をどうにかしたのは術者でも、俺でもない。
つまりは第三者の仕業と言うことになる。
第三者なんかどこに……!
と辺りを見回した……まさに、その時だった。
「ぐっ……」
辺りを見回す余裕もなく、俺の身体に何者かの腕が刺さったことに気付く。
そいつは、黒いフードをかぶって、不敵に笑みを浮かべる男だった。
そしてやつは言った。
「お疲れ様、天野翔琉。 お前の役目はここで終わりだ……」




