1stステージ8:戦闘狂の女
「ライ―――まだ会って1日も満たないのに……そんなことをすると翔琉に嫌われてしまうよ。 そんなことしたら、運命の人に逃げられちゃうんじゃないのかい?」
とライを落ち着かせるように、宥めるように、彼女は言うのであった。
そうディルが言った後に、ふっと赤々しい目が消え、いつもの青色の目の色になった。
「そそそそ……そうだな。 嫌われたら、元も子も無いし、それに相思相愛じゃなきゃ、意味がねえもんな‼ 危ない危ない」
とライは上空から降りてきた。
危ない危ない、じゃねえよ。
危ない通り越して、自主規制に入らなきゃいけなくなるとだぞ。
ライはじっと俺を見つめていたようで、俺の背筋に氷のような寒さが走った。
「ふう……危うくこの辺の土地一帯が消えてしまうところだったわ。 せっかくの別荘が台無しになってしまうとこだったわ」
とディルは言う。
そりゃあ、世界でもトップクラスの戦闘力を誇る魔導士が、暴れたらただでは済まないだろうな――――
ここに来てどっと疲れが来たようで
「なんだか、疲れた。 寝る……か……な――――」
と俺はその場で眠りについてしまった。
眠りにつくというよりかは、気を失ったという表現が正しいのかもしれない。
後から聞いた話、その後ベットまでライが俺を運んだらしいのだが……あいつ俺に何もしてないだろうな?
次の日、俺たちは次の目的地に向かう事になった。
昨日は本当にカオスだったな……
外に出ると、すでにディルとライが準備を終えて待っていた。
「リュウがいるのは癒しの泉にある古城だよ。 彼女はそこで、人々の治療を行っているのよ」
とディルがいい、じゃあ出発しようか、と昨日のように空中浮遊の魔法を使う。
そして俺、ライと続いてディルの後を追う。
相変わらず、説明が少なすぎる――――
「次の目的地はどんな場所なんだ?」
と俺はディルに聞くとライが、”俺が教えてやるよ”と言い懇切丁寧に説明してくれた。
「次の目的地は癒しの泉、別名:自然療養所だ。 その場は世界最高クラスの回復魔法の使い手が集まる場所で、年間100万人の病人やけが人が来るんだと。 そしてリュウは弟子たちと共に、その地で治療をひたすら毎日毎日行っているんだ」
「じゃあ、リュウって人は医者ってことかな?」
「ああ。 そうなんだけどな……」
とライはディルの方をちらっと見る。
ディルもやや表情が険しくなって
「ええ……」
と言う。
え?何があるんだろう?
と言うか、2人は何を隠しているんだろうか?
「まあ、緊張しないで普通に接してあげれば問題ないわ」
ディルは苦笑いで言う。
「ああ、怒らせたりしなければな……」
とライも苦笑いで言った。
「怒らせるようなことって何をすればそうなるのかな?」
俺はそう聞くがディルは、そろそろ着くわ、と話しをはぐらかされた。
この先、俺に待ち構えているのは、なんなのだろうか?
目的地に着いた。
癒しの泉。
その名にふさわしく、絶景であった。
光り輝く木々に水がまるで滝のように辺りから流れ、その中に城が見える。
城の方へと続く道には、長い行列ができていた。
あの城が、言ってしまえば病院という事なのだろう。
「ここに、水の大魔導士が……」
泉に近づきながら俺は言う。
次の瞬間ディルとライが戦闘態勢に入った。
俺はディルに引っ張られて、泉から引き離された。
「え?何しているの?どういうことなのか説明してくれ!」
「あなたも早く戦闘準備しなさい! 来るわよ!」
と怒鳴られてしまった。
一体、何が来るんだ?辺りを見回すと、先ほど列をなしていた人々がいつの間にかいなくなっていた。
次の瞬間ライが
「危ない!」
と俺を突き飛ばした。ライは上から降ってきた水の柱に足を刺されてしまった。
ぐっ、と痛そうにライは声を漏らした。
「ライ! 大丈夫か?」
俺は駆けつけようとしたがライは”来るな!”と大声で言った。
すると水の柱が崩れ、ライの刺さって出来ていた傷は完治していた。
どういうことなのだろうか?
「相変わらず粗い歓迎だな。 リュウ……」
ディルは正面の泉に向かって言う。
すると、泉が割れそこから髪が長く、巫女のような装束の女性が現れた。
「なんだよ。文句あるなら帰れよ。 久々に顔合わせたけどなんともまあムカつく」
と女性――――リュウは言う。
女の人だったんだ……
「翔琉、この女が水の大魔導士リュウだ。 リュウは医者であるのと同時に、戦闘狂で、戦うことが何よりも好きな女性なんだ――――」
とディルは言う。
だから、そういうことは早く言ってくれよ。
「戦闘狂で何が悪いのさ。 全く。 人の趣味を馬鹿にしないでよ。 戦って戦って戦って戦って、全身から溢れるこの高揚感がたまらなく、快感なんだから――――」
とリュウは言う。
大魔導士って変態多いのかな?
とか思ってしまった。
まあ、なんにせよ自己紹介しておこうと
「俺の名前は……」
と言いかけるとリュウは
「あーあ、自己紹介しなくても大丈夫よ。 天野翔琉でしょ? 翔琉ちゃんって呼ばせてもらうね。 あたしが水の大魔導士のリュウだよ~よろしくね♪」
え?なんで俺のこと知ってるの?
そう考える間もなく、俺の周囲に水の槍が全方位に展開させられていた。
「えっと、リュウさん? これはいったい?」
「え? 目が合って、自己紹介したら……バトルしかないでしょ!」
ポケモ○かよ!
全方位の攻撃が俺に襲い掛かる。
えっと、確か防御の魔法は……
「光の魔法:明鏡」
といい、全方位攻撃をガードした。
光属性の魔法である明鏡は、自身の周りに特殊な鏡上の盾を展開させて、ありとあらゆる攻撃を防ぐ魔法である。
「へえ……光属性の魔法か……いいね。 しかも、高等魔法である明鏡を使えるだなんて、凄いじゃない。 これは、久々に楽しめそうじゃない――――」
ぺろりと舌なめずりをするリュウ。
さながら、獲物を見つけた時の蛇のようである。
「しかし、あの歳で光属性の魔法を、使えるとは驚いたわね……将来が期待できそうだわ――――」
ふふっ、とリュウは笑った。
明らかに何かをたくらんでいる様子だった。
怖い――――
「ねえねえ、翔琉ちゃん。 この勝負、1つ賭けをしないかい?」
「賭け?」
「そうそう。 あなたが勝ったら、あたしはあなたのいう事を1つ何でも聞いてあげるわ。 でも、あなたが負けた場合は――――あたしのいう事を1つ何でも聞くこと……」
ディルは顔色一つ変えずに、こういった。
「いいわよ、翔琉は負けないもの。 その勝負受けたわ‼」
お前に言ってねえだろ!
と言うか、なんで俺の事なのにディルが勝手に決めてんだよ‼
「ディル‼ お前何言ってるんだよ‼」
とライはディルを怒鳴った。
しかし、彼女は何も反応せずに、俺に視線を戻した。
”大丈夫、あんたなら行けるでしょ!”
と言わんばかりの期待の眼差しであった。
相変わらず、無茶ぶりが好きな奴だな――――
「ディル! あの魔法は使用していいのか?」
そう聞くと、ディルは首を横に振り
「ダメよ! その魔法以外で勝ちなさい! これも特訓よ」
そう返答してきた。
相変わらず、無茶を言うな――――
「何をごちゃごちゃ言ってるの? さあて、そろそろ始めましょうか。 翔琉ちゃん」
パチン、とリュウが指を鳴らすと、巨大な水のキューブができた。
中は空洞で、空気が満ちていた。
俺とリュウはその中に閉じ込められしまった――――否、リュウが閉じ込めた。
外の声は全く持って聞こえなくなってしまった。
つまり、ライやディルの助言は期待できない。
「水の魔法:湖底概念。 純度の高い水でコーティングした箱の中に相手を閉じ込める魔法―――ってのが、本当は正しい使い方なんだけどね、こういう使い方もできるのさ」
「なるほど……水の中のデスマッチってところかな?」
「話が早くて助かるよ。 じゃあ、男と女の真剣勝負をしましょう……行くわよ‼」
そういって激しい戦いの幕が開けた――――