2ndステージ30:翔琉死す……
まるで歯が立たない。
そんな言葉が相応しい。
3人の太古の魔導士でさえ、歯が立たない。
元暗黒賢者でさえ、歯が立たない。
「ボル! くそ!」
と俺は言う。
するとジンライはそんな俺の顔を見て
「ママ……パパは、助かるよね?」
と服の袖をぎゅっとつかんで言う。
俺はそんなジンライの頭を撫でて
「今、助けてくるから……大人しく待っててね」
と言って、ジンライに壁の方に寄っているように促す。
そしてエンに
「エン! みんなを頼む! ライとは俺がやる!」
そういってエンに全員の介抱を任せ、俺はライと対峙する。
張り詰めた空気の中、俺は無詠唱で神魔法:零式光天神を発動し
「さあ、始めようか!」
そういってライとの1対1の戦いが幕を開けたのであった……
「ママはパパと戦うの?」
そう心配そうに、ジンライはエンに尋ねている。
エンは結界が張られたものを除いて、全員の介抱をしている。
その中でエンはジンライの方に笑いかけ
「大丈夫! 君のママは強いから。 パパを元の優しいパパに戻そうとしてるんだ。 だから、君はそれを見守っててあげなさい」
その言葉には強いものを感じたようで、ジンライは頷き再び俺とライの方へと目を向ける。
「よお! ライ。 しばらく見ないうちに、ずいぶんと悪趣味な服なんか着せられちゃって……マントが無かったらカッコいいけどな」
無表情に冷淡にライは俺の言葉にこう返した。
「天野翔琉……貴様ヲ捕獲スルノガ我使命!」
その言葉が言い終わると、ライの姿が消えた。
気が付くと、俺の後ろにいた。
「コレデ終ワリダ……」
そういって俺に重い拳を振り下ろす。
俺はどうにか間一髪のところで、避けることに成功したがこちらが反撃しようとしたときには、再び姿がなかった。
「どこ行った!」
俺は神経を集中させる。
魔法にも使ってる分、余計に疲れる気がした。
頭が痛くなってきて、吐きそうになった。
しかし、そのおかげでライの場所を捕えることができたのだ。
「そこだ!」
と言って、俺は聖邪光纏をライに向けて放つ。
攻撃は当たった。
しかしながら、その当たったのは、ライが雷で作った囮であった。
「残念ダッタナ」
そういって、ライは俺の後ろにいた。
そして再び、俺に対して重い拳を振り下ろす。
今回、魔法を放った反動で俺は避けるタイミングが無くなってしまったために、ガードする他なかった。
しかも、魔法の発動は間に合わない。
瞬間、俺は左腕を前に出してガードした。
そして拳が当たった瞬間に、ぼきっと言う大きな音が鳴って、俺の左腕の骨が折れた。
「っっっっ!!!!!」
俺は声にならない悲鳴を上げた。
そして、ライから距離を取る。
「ママ! 大丈夫!?」
ジンライの声がこだまする。
俺は、やせ我慢して、笑顔をジンライにおくる。
そして無詠唱で光治を発動させて、左腕の傷を治した。
そのおかげで、骨折はすでに完治した。
しかし、痛みは記憶に焼き付いた。
痛い!
「大丈夫だからね!」
と言って、左手でジンライにピースをする。
その時、再びライが俺の後ろに回り込んでいるのが、ジンライの瞳に映っているのが見えた。
俺は急いで攻撃をかわして、再び距離を取る。
「いつから、後ろから攻撃するようになったんだよ」
そう俺が言うと、ライは何も言わずに消えた。
またかよ。
いい加減にしろよな……どうせまた後ろなんだろうけど……!
しかしながらこの読みは外れてしまう。
次に奴が狙っていたのは、ジンライだったからだ。
「危ない!」
そう言い切る前に、俺はジンライの前にいた。
そして、ライの攻撃からジンライを守るために、自らを盾にした。
今回の攻撃は、いささか誤算があった。
先ほどの拳の打撃ではなく、爪を使った攻撃に変わっていたということだ。
その結果どうなったのかと言うと、俺の腹にライの鋭い爪がえぐりこんで、貫通した。
お腹に大きな風穴があいた。
そして、ライが手を引き抜くと、そこから大量の血が出てきた。
ドクドクと、流れ落ちる血を眺める。
そして、俺は
「あれ? ……こんなはずじゃ、なかったのにな……」
と言って、その場に倒れる。
意識が朦朧としながらも、周りの様子や声は分かった。
大量に血が出てしまったのを見てしまっていたジンライは、その光景にただただ、茫然と立ち尽くすだけ。
エンのおかげで目を覚ますことができたアニオンと、ボル、そして雷の結界内で身動きが取れないフルートと、皆を介抱しているエンの悲痛な叫び声と、俺の名前を呼ぶディルの声が聞こえた……
心臓の鼓動がよく聞こえる。
そして、それが静かになっていくのも……な……




