2ndステージ26:突破口
時限亡者たちが山のように押し寄せてくる。
何度も何度も倒すけど、無限に近いほど溢れてくる時限亡者ども……
これじゃあ、きりがない。
他のみんなも、体力的にはもうそろそろ限界だ。
早く決着をつけないと、ライとの戦闘に使う体力が残らない。
次第にみんな焦ってきた。
そんな憤りをぶつけるかのように
「グラン、まだなの?」
と怒鳴ったように言い、フルートはグランを睨めつける。
だが、すぐに中級たちが襲い掛かってきて、すぐに迎撃に入る。
フルートも先ほどから、かなりの魔法を使用しているので、表情に余裕が見られない。
「あと、1分だ! なんとか持ちこたえてくれ!」
そう全員に聞こえるように叫び、再びグランは、作業を進める。
あと1分の辛抱……しかし、敵の量があまりにも多すぎる。
上空を覆うほどの敵に対して、こちらは7人(その内1人は現在戦闘不可)。
敵は休まず、絶え間なくこちらを攻めてくる。
「こうなったら……あの魔法を使うしかない!」
そう俺が言った瞬間に、中級たちが一斉に俺に向かってきた。
俺が神魔法を使うタイミングでも、見ていたのだろうか?
「まずい! 翔琉にあの魔法を使わせない気だ!」
そうディルが言い切る前に、アニオンとボルはすでに動いていた。
2人の顔にはまるで別人のように変わっていた。
鬼とも思うべき形相で、颯爽と俺の前へと現れて、中級たちに向かって
「てめーら! 何調子に乗ってんだ?」
「あんたらなんか、私たちだけで十分なのよ……」
その声は、感情のない時限亡者たちですら一瞬止まってしまうほどの威圧感があった。
心が無い時限亡者たちでさえ、恐怖と言うのを覚えたのではないのかと推察する。
そして、アニオンとボルの猛攻が始まった……
2人は敵をなぎ倒しながら空へと向かう。
「空間魔法:宴之下!」
ボルを中心とした半径10mの、目で見えるほどはっきりとした円形の結界が展開された。
そして、その空間に時限亡者が触れた瞬間に時限亡者たちが消える。
「この魔法は、触れたものを亜空間へと強制的に飛ばす魔法……ただし、俺が敵と認識したものに限ってだがな……」
そういってボルはすさまじい速度で、時限亡者たちを倒していく。
ただし、時限亡者たちは無傷で、別の空間に送っているらしい。
それも当然か。
肉体を奪われていた人たちには、何の罪もないのだから、当然であるのだが……ここまで幅が効く魔法だったとは、恐れ入る……。
と言うか、そんな魔法があるなら最初から使えよ!
そんなボルが突っ込んでいく中、アニオンは冷淡に空を見つめ
「負極魔法:無印……」
と小さくささやく。
前回の戦闘において、この魔法は時限亡者の中級たちには効かなかった。
それは、アニオンが時限亡者たちの事について、情報が足りなかったからであるといえる。
情報は、負極魔法にとって、絶対的なものであるといえる。
その理由は、負極魔法において、誤情報と言うのが一番の弱点であるからだ。
間違えて認識したものには、この魔法が発動しない……
しかしながら、今回は違う。
前回は情報が少なかったけど、今回はアマデウスから情報を得ている。
つまり、この魔法を使う条件がそろっているということである。
「前回のようにはいかないわよ……」
このアニオンのセリフ通り、時限亡者は身体だけを残して、黒い何かだけが身体から出てきて消えていく……
次第に、人間や獣人たちの肉体で辺りは埋め尽くされていく。
足場が無くなることや、肉体を傷つける危険性があったため、ディルが時魔法を発動させて、落ちてくる肉体の落下速度を遅くしている。
このことによって、地面に直接落下しても、スピードが緩いため、その分肉体にかかるダメージも減らせることができる。
さすがはディルである。
しかし、この数となると、さすがに3人共辛そうにしている。
やはり、相当の負荷がかかるのだろう。
そんな中でようやくあれが完成する。
「みんな! 我が輩の橋ができた! 急いで、向こうの島へ渡るぞ!」
いいタイミングでできたな……狙ったんじゃないのかーーーーグラン。
すでにエンとグランは渡り始めている。
「ボル! アニオン!」
そう呼ぶと、2人は急いで地へと降り立ち、橋へと向かう。
俺も、橋へと向かい全力で走る。
すさまじい数で襲い掛かってきた時限亡者たちは、てっきり追ってくるものだと思っていた。
しかし、橋の上へとたどり着いた俺たちを追うものはいなかった。
それどころか、時限亡者たちはいつの間にか消えていた。
あんなにも、空を覆い尽くすほどにいた中級たちは消えていた。
時限亡者たちのいなくなった肉体は、先ほどいた場所に強力な結界を張っておいたので大丈夫だとは思うのだが、それより問題なのは”先ほどまでいた時限亡者たちがどこに消えたのか”と言うことであろう。
やはり何者かによって、導かれていたのか……あるいは、別の何かが……
そんなことを考えながらも、俺は島へと渡る。
その表情に曇りがあっても、今は前に進むしかないのだ……
「はあ……はあ……着いたわね……」
息を切らしつつ、アニオンは目の前にある神殿を指さして言った。
雷の大魔導士の神殿。
そびえ立つは、特別な形をした避雷針のような建物。
この建物の祈りの間に、ライはいる。
「じゃあ、行きましょうか」
フルートの言葉に押されるように、俺の足は自然に一歩を踏み出し、神殿へと入っていく。
そんな俺の後に続いてみんなも静かに歩み始めた。
祈りの間に向かって……
そして何より、かつての仲間を救うために、前へと進むのだ……




