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魔法世界に来てしまった結果、最強の魔導士になってしまった  作者: ただっち
ファントムソウル編:第3章‐解き放たれた恐怖‐
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2ndステージ23:最期の朝食

 空が明るんで来た頃、俺とボルは、すっかり冷めてしまったマグカップを手にして、悪しゅ……いい趣味をしている家へと入って行った。

 これまで”徹夜をする”と言うことは、辛いものだと思っていたのだが、今回はその徹夜と言う行為はむしろ楽しかったと言える。

 星空を眺めながら、互いの話で盛り上がったりしたからだろう。

 中に入ると、さすがにまだ誰も起きていなかった。

 時々、グランの部屋からどんどんっと音がするのだが、寝相の悪いグランの事なので、また壁を蹴っているのだろう。

 俺とボルはせっかく時間があるので朝食を作ろうと、台所へ足を運んだ。

 前回はやや不機嫌であった俺なのだが、今回はボルと本当に仲良くご飯を作ることができると思う。

 今日は何を作ろうかと、ボルと話をしていたのだが、先に台所に入ったボルが驚いたような顔をして固まっている。

 何事かと思い、急いで台所を見に行くと既に人数分の食事ができていた。

 しかし、すごく見た目がグロテスクだったので、俺も思わずそれを見て固まってしまう。

なんだこれは!

そんな中で、ボルは固まった自分の口をこじ開けて


「これって、誰が作ったんだ?」


 とぎこちなく言い、その料理に鼻を近づけて、匂いを嗅いでいる。

 すると、ボルは微妙な顔でこちらを向いて


「大丈夫! 毒は入っていないぞ」


 と俺に言う。

 毒が入っていたら、シャレにならないよ……

 そう思っていると、寝室の扉が開いて、目をこすらせた、アニオンが起きてきた。

 眠そうにあくびをしていたが、俺がそれを見ていたのに気付くと顔が赤くなり


「ちょっと! みないでよ!」


 と恥ずかしそうに言うのである。


「なあ、アニオン。これ、誰が作ったかわかる?」


 と俺が例のグロテスクな料理を指さすと、アニオンは眠たそうな声を振り絞って


「それ? ああ、私が夜中にこっそり起きて作ったのよ」


 と言い頬を赤める。

 その発言に対して、俺とボルは顔を見合わせていた。

 そして、次の瞬間には家中に響くような声で


「「ええええええええ!!!!!」」


 と叫んでいたのであった。



 先ほどの叫び声に反応して、グランとフルートとエンが慌てて飛び出してきた。


「どうしたんじゃ?」

「何かあったの?」

「どうしたん?」


 すると、俺とボルが指さすものを見て、3人の顔が曇り


「「「おやすみなさい」」」


 と言って、部屋に戻っていく。

 その光景を見たアニオンの顔には、眠気など見られず、真顔になっていた。


「あんたたち……何してんの? 食べないの? 朝ご飯」


 と冷淡な声が、静かになった家に響く。

 そして、それに呼応して3人共戻ってきた。

 顔色が悪く小刻みに震えるフルート、目がうつろで汗がびっしょりなグラン、そして白目に膝ががくがくしているエン。

 なんだ? こんな3人見たことないぞ!

 そう思っていると、フルートが俺に近づいてきて耳元で


「どうにかして、アニオンを説得して……料理作り直して……」


 と言う。

俺もどうやら雰囲気的にやばそうなことに気が付いて、フルートを台所の奥の方に連れていき


「どうゆうことなの?」


 とアニオンに聞こえないように小声で話す。

 するとフルートも同様に声を潜めて


「あのね。 アニオンの作る料理は、見た通り酷いでしょ? 実は味もすごいことになってるのよ」

「え? でも、さっきボルが匂い嗅いでたけど、毒は入ってないって……」


 ぐはっとボルの声が聞こえた。

 そっと、奥からボルの方を見ると、泡を吹いて倒れている。

 え?

 何々?

 何が起こったの?

 そう思っている俺の顔を再び、自身の方へ向けフルートが


「あれは、危険なものなのよ!」


 と言う。

 フルートの俺の顔をつかんでいる手がかなり揺れていて、その振動が頭に伝って、軽く気持ち悪くなってきた。


「え? そんなにやばいの?」


 と聞くとフルートは涙目で


「おそらく、その辺の野生の不死鳥なら倒せるくらい……」


 不死鳥倒せるのかよ!

 その発言に俺は恐怖し、俺の身体も震えだし、汗が出てきた。


「何してんの?」


 とアニオンが笑顔で近づいてきた。


「「いや、何でもないよ!」」


 と俺とフルートは声を揃えて言う。

 アニオンは”なら、早く食べましょうか”と言って、台所にあった食べ物をテーブルの上に並べていく。

 そして、アニオンの号令とともに、地獄(あさごはん)の時間が始まったのである。



「いただきます!」


 アニオンの声には活気があってハキハキとしている。

 そんな中、俺たちはというと……


「い……いただきます……」


 とビクビクとしていた。

 そんな俺たちをよそに、アニオンはモグモグと勢いよく食べ始める。

 俺たちも食べようとするのだが、恐怖心から中々食べることができない。

 それをみたアニオンが不満そうに


「みんな? 食べないの?」


 と言う。

 慌ててアニオンが


「いやいや、その……食べるわよちゃんと! ねぇ?」


 と俺にふってきた。

こっちにふるなよ!

 何してんの、フルート!

 いやな汗が出てくる中、俺は


「まあそうだよね。 食べるよアニオン……」


 そう言うとアニオンは笑顔で


「残さず、食べてね」


 といって、ウインクしてきた。

 そのウインクは今、死神の微笑みと同義だよ……そう思いつつ、俺は食べ物を口に運ぼうとするのだが、手が震えてうまく口元に運べない。

 これ食べたら、俺死ぬのか?

 周りをみると、アニオンはこちらをじっと見ていて、他のみんなは、こちらに向かって手を合わせて目を閉じてる。

 やめろ!

 まだ、俺は死ぬ予定ないから!

 縁起の悪いことするの止めて!

 心臓の鼓動が早くなっているのが分かる。

酸素がめぐりにくくて、目が少し霞む。

 そんな状況でも俺は、震える手を抑えて口に食べ物を入れた。

 モグモグ……


「どう? 味は?」


 とアニオンが笑顔で聞いてきた。

 なんだこれ!

 見た目もグロテスクだけど、味もグロテスクだぞ……

血生臭い……舌が痺れる……。

 俺は頑張って笑顔を作って


「うん……美味しいよ……」


 と震える声で言う。

 正直言って、そろそろ限界である。

口の中に広がる、悪夢のようなお味……アニオンは満面の笑みで


「よかった! 美味しいって言ってくれて! じゃあ、他のみんなも食べてね」


 と言って、再びご飯を食べ始めたアニオン。

 その発言を受けて、覚悟を決めて全員が食べ物を口に入れる。

 その数秒後、俺たちの意識は消えたーーーー

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