2ndステージ20:神は見捨てなかった
絶望は降臨した。
畏怖を与える、この世の者とは思えぬ殺意。
そして、圧迫感が、空間を支配する。
怖い。
こんなに、怖いと思ったことは、これまであまり無かったかもしれない。
ふと、私ーーーーアニオンは、そんな事を考えていた。
「我の主の敵はその中の空間か……悪いが、天野翔琉と言うもの以外には用はない。 消えてもらおう……」
メイオウはそういうと、黒い炎を空中聖域に向けて放つ。
この攻撃に当たれば死ぬ……そう思うと、走馬灯が見えかけたが、メイオウの攻撃は当たらなかった。
空中聖域の強力な結界によって弾き飛ばされてしまう。
「ほう……なるほど。 その神域の魔法がいまだ健在であったとは……少し驚きだ。 しかしながら、今の我には主がいる……かつては破れなかった結界だが……今はこれがある!」
そういうと、メイオウは黒い炎を全身から出す。
黒々強い炎の後ろには、悪魔のような翼が生える。
あの姿は……神魔法!?
その光景に、私は再び絶望した。
「この姿は、神魔法:炎天神・地獄と言うものだ……これなら、その結界を破れる」
そういって、メイオウが結界に触れると、結界はいとも簡単に破られてしまう。
音を立てて、割れる。
さながら、ガラスのように。
さながら、氷のように……。
「師匠……結界が‼」
「ええ……終わりよ、もう……」
まだ死にたくない。
誰か。
誰か。
誰か、助けて。
その瞬間、ディル達の空間が壊れた。
何事かと思い、振り返ると、ボル、フルート、ディル、グランが立っていた。
そして、少しばかり身長が伸び、好青年のような人物がいた。
「お待たせ、アニオン、エン」
と青年は言う。
あの青年はもしかして?
いや、絶対そうだ。
「遅いじゃないの……翔琉!」
絶望で押しつぶされた私の心に、希望の光が差し込んだ。
それは、光属性の魔法を扱い、私の恋した少年の姿であるーーーー
涙が止まらなかった。
ーーーー天野翔琉……つまり俺なのだが、先ほどまで修行のためにとある空間にいた。
その空間では、外での1分が空間内では1日と言う、桁外れな時間間隔になっている。
俺がその空間にいたのは4時間と30分。
単純計算で270日間、つまりは半年以上その中で修業していたことになる。
そんなわけで、中学1年生だった俺の身体は成長期を迎えてしまったので一気に10cm近く伸びて、現在は170cmほどある。
まあ、身長の事はどうでもいい。
今目の前にいる敵に集中することにしよう。
目の前の敵……すなわちは、メイオウと呼ばれるまがまがしい姿をしている奴の事である。
「よし、じゃあみんな! ここは俺に任せてくれ。 ディル達はアニオンとエンに修業をしてパワーアップさせてあげてくれ、念のためにボルは残ってくれよな」
そういうと、全員が各自行動を開始した。
え?
ちょっと、待ってよ。
そう思ったアニオンは、ディル達に向かって言う。
「ちょっと、ディル、フルート、グラン! 翔琉一人でやらせていいの?」
そういうアニオンと、きょとんとしているエンに対して、3人はこういった。
「「「大丈夫!」」」
その言葉に何故だか信用性と強い信頼を感じたアニオン。
神魔法を扱うチートモンスターに、果たして勝てるのだろうか?
翔琉……気を付けて。
と、言わんばかりの顔をしているアニオンに、俺はにこりと微笑んだ。
そしてアニオンは、俺を見つめつつ空間の中へと消えていったーーーー
「我がいる前で、堂々とよくもまあ修業だのなんだの好き放題いえるな貴様……」
メイオウは俺に対して、殺意を飛ばしてくる。
しかし、俺は臆することなく、言う。
「うん。 だって、守れるし」
その発言がメイオウにとっては気に入らないであろうが、この挑発に対してメイオウは落ち着いた様子で俺に指をさし
「まあ、いい。貴様が我が主からの指令にあった、天野翔琉だな?」
そういって俺をにらみつける。
俺は更に奴を挑発しようとして
「だったら?」
そういって、指をメイオウの真似をしてさす。
「貴様を、我が主に差し出す」
「嫌だね。 絶対に行かないよ」
「別に貴様の同意など聞いていない。 我は任務を遂行するのみだ! 抵抗する場合は、殺しても構わないらしいからな……さっきのように、いたぶってやろう」
そういってメイオウは俺に向かって襲い掛かってきた。
ここじゃあ、ディル達やボルも巻き添えをくらってしまう。
そう思った俺はメイオウをこの場所から遠ざけるため、急いでこの場から離れた。
「逃すか!」
とメイオウが後ろから追ってくる。
ボルは飛んでいく2人を見つめているのであった。
この辺でいいだろう。
と思い、俺は止まる。
勿論、空中だ。
「どうした? 逃げないのか?」
メイオウが俺に対して、挑発をしてきた。
しかしながら、俺も奴を挑発する。
「馬鹿かよお前……」
俺のこの発言に対して、メイオウは特に何も言わずに黙って俺の方をにらみつけている。
そして、俺はこういう。
「じゃあ、お前を倒させてもらいますね」
そういって、神魔法:光天神を発動させる。
前の未完成版とはもはや違う姿だ。
背中に生えた翼は、すべてを包み込む美しく翼。
完全版の神魔法とは、また違う形である。
「なんだ、貴様! その姿は?!」
そういう、メイオウに対して、俺は目を見据えて言うのだ。
「神魔法:零式光天神……発動」




