2ndステージ15:地を求めて
早朝、結果的に俺は眠れなかったため、昨日の作りかけのサラダをボルをたたき起こして一緒に、仲良く仲良く、仲・良・く作っていた。
すると、フルートやアニオンたちも起きてきた。
「どうしたの? ボル。なんかボロボロじゃない?」
と言っていたが、まあボルは何も言わなかった。
「もしかして、数日前のおもらしして翔琉の服で拭いたことがばれちゃったの?」
とフルートが言うと、虚どったボル。
「やっぱり、知ってたんだなフルート。そういうことは早く説明しろよ!」
と言う俺に対してフルートは笑みを浮かべながら
「だって、黙ってた方が面白いじゃない」
と言う。
たちの悪い人だな……
「でもさ、翔琉。 暴力はよくないよ、暴力は」
こんな正論を言うのは、先ほどまではいなかったディルである。いつの間に……
「ボルだって、悪気はないんだからさ」
「子供の姿でいるときなんだから、思考も子供になってるのよ。それくらい、許さないんじゃ、ダメでしょ」
めちゃくちゃ、女性陣に言われまくられています。
学校でよく見る光景。
仲間外れにされてる子を、庇う女子の集団。
これじゃあ、俺が完全に悪者になってしまっているな。
そして、女性陣は温泉入りに行きました。
自由かよ!
ボルがウル目で俺に何かを訴えている。
やっぱり、気にしているのかな?
だけど、まあ最終的に暴力をふるってしまった俺は悪い。
特にボルの過去を知っているのに……
暴力を与えたらまたあの時のボルに戻ってしまうのではないだろうか?
俺も考えなしに色々やりすぎたな……
ボルの過去。
それは暴力によって洗脳された物語であると言える。
そんな過去の過ちを俺は繰り返すつもりだったのか?
そんな風に思うと、俺は申し訳なくなった。
俺は、馬鹿かよ……一時の感情に流されて、友達を失うことになりそうになったのだ。
今の優しいボル消えて、昔のように暗黒賢者に戻してしまうところであった。
闇に生き、闇に動く、恐ろしき者に……
「ごめんな、ボル」
と俺はボルに謝った。
深々と頭を下げた。
するとボルは
「いいよ。 お互い様だしな……」
と言う風に笑って言ってくれた。
俺は引き続いてボルに言う。
「この先、俺は決して言い争いになっても、暴力はしないよ。 そんなことしたら、友達失格だもんな。 お互いに隠し事はしないで、素直になるって約束しよっか」
と、ボルの小指に俺の小指をかけて、指切りの形にして
「指切りげんまん♪ 嘘ついたら針千本飲ーます♪ 指切った♪」
そういって手を振る俺にボルはきょとんとしている。
「翔琉……今のは何だ?」
そうか、この世界の人間は指切りを知らないのか。
「今のはね……友達と約束するときの、俺の世界でのおまじないみたいなものだよ」
と言うと、ボルは顔を赤くして
「友達との約束……か……」
とつぶやくのであった。
嬉しそうにしやがって、こいつ。
「じゃあ、翔琉……俺も1つ約束事してもいいか?」
とボルは言う。
そして再び指切りのポーズをしたので俺はついついつられてしまいしてしまう。
「指切りげんまん♪ 嘘ついたら針千本飲ーます♪ 指切った♪」
とボルはニコニコしながら言う。
「あれ? ボル。 約束って何だったの?」
そう聞くと、ボルは顔を真っ赤にして言うのであった。
「え? 翔琉と俺が、いつまでも友達でいるように……って」
そういうとボルは俺に抱き付いてきた。
なんだろう、すごくかわいい約束だ。
身体や見た目は、強面なのに、心は凄く純粋で可愛らしい。
幼児化すれば、もっと可愛いよ。
この約束は一生守るであろう。
どんな状況でも……絶対に。
そう胸に誓い、再びボルとサラダを、今度こそ仲良く作る俺たちであった。
ちょうど女性陣が温泉からあがったころにエンも起きてきた。
いつにもまして、眠そうなエン。
だが、師匠アニオンの姿を見るとすぐさま目が覚めたようで
「おはようございます! 師匠」
と何故か敬礼しながら言う。
ここは軍隊だったっけ?
そんなエンをよそに、俺とボルは朝食をテーブルに並べて
「朝食できたぞ」
と周りに知らせ、席に着く。
何故か、ボルが俺の膝に乗っかっている……
いつの間にか、幼児体型になってやがる。
どうして膝の上に乗っているのかと言えば、ボル曰く”食べさせてもらうため”だそうなのだが、この体制だと、逆に食べづらいと思うのだが……
その膝に乗っている光景を目にしたアニオンが”いいな”とぼそりとつぶやくのが聞こえた。
そしてすぐにエンの足が踏まれる音が聞こえた。
それをかき消すように、いただきますの号令がかかった。
ご飯を黙々と食べている俺たちを眺めているディルは
「ところで、今日は地の大魔導士の神殿に行くわけだけど……グランをどうやって攻略するの?」
と聞いてきた。
確かにそこは最大の課題である。
地の大魔導士グランは、7人の大魔導士の中で、一番強いと言える。
実際に戦闘をやった経験から言わせてもらうなら、グランを倒すには強力な攻撃を用いて鉄壁と言えるべき強固な守りを破る必要があるし、油断すると封印されてしまう隙のない戦闘である。
そして、前回の戦闘では9人がかりで、ようやく倒せたくらいなのである。
「あいつの強さは桁違い……だからこそ、万全の対策が必要になるわ」
「確かに、そうだね。 もぐもぐ……どうやって倒そうか。 もぐもぐ……」
「そうね……パクパク」
「どうしたものかね……バクバク」
「あいつは規格外って言うのがモグモグ、相応しいからなモグモグ……」
「一回食べ終わってからにしようか」
とディルは空中で俺たちが食べ終わるのを待っている。
そして、10分後くらいたって俺たちの食事が終わると、再び対策について俺たちの議論は始まったのである。
「さて、グランにどうやって対抗する?」
そんなディルの切り出しから再び、俺たちは考えた。
「翔琉の神魔法で攻撃しつつ、私たちが左右上下から攻めるのは?」
「いや、それなら全員に神魔法を付加させて……」
「いやいや、それだったら……」
とまあ、議論がなかなかまとまらない。
そんな中、俺の体内からアマデウスが飛び出してきて
「君ら、1つ忘れていないか?」
と言う。
何事だと思い、全員がアマデウスの話に聞き耳を立てる。
「神魔法は現在、ロギウスに奪われていて辛うじて発動できている。 そんな中で、全員に神魔法を貸し与えることは不可能だ。 そして、おそらくグランはロギウスから神魔法を与えられて、神魔法を使ってくる……」
というアマデウス。
そうだった。
その可能性を考慮に入れて考えなければならないことを、すっかり忘れていた。
「まあ、一応その対策はできると思うぞ」
「本当か!? アマデウス」
「うん。 神魔法にはもちろん属性があるのだから、弱点属性で攻めればいい。 そうすれば、通常より早く解けるぞ」
「神魔法にそんな弱点があったなんて……」
「まあ、僕の属性は光だから、この方法は僕には通じないけどね。 光属性は、強さで勝負が決まるから……でも、そのグランと言うのは地属性、つまりは風属性の魔法が弱点だよね」
「風魔法と言えば……」
「変態! じゃなくて、トルネだよね……」
「そうそう。塵だね」
「屑か……」
なんか女性陣のトルネの呼び方がひどくなっているような……気のせいか?
「でも、トルネはいないけど……」
「大丈夫。その点は問題ない」
「なんで?」
「私の負極魔法は実は、風属性の魔法だからよ」
とアニオンは俺に言う。
負極魔法ってどちらかといえば、闇属性か雷属性だと思っていた。
まさかの風属性!
でも今回ばかりはそれがいい結果になった。
しかし神魔法の対策はできたとしても、次はグラン自身の対策をしなければならない。
「もしグランを純粋に動きだけ止めるだけなら、私にいい考えがあるわ」
とフルートが言う。
「私の魔法の中に、花の香りで一瞬相手を止める魔法があるから、その一瞬さえ止めてしまえば……」
「光天神状態の俺が、グランに聖邪光纏を放って、洗脳を解けるってわけか」
「その代り、この魔法を使うには少し溜めが必要なの。 その間、他のみんなは私を守りつつ、グランを牽制していてほしいの」
とフルートは全員に頼む。
そして俺たちはその事を承諾し、いよいよ地の大魔導士の神殿へと向かうのであった。
地の大魔導士グラン。
地属性の達人にして、7人の大魔導士の中でも上位の実力者。
果たして、この難題をクリアできるだろうか?




