2ndステージ7:はぐれ者
炎の大魔導士エンのいる神殿は、本当に近くで、アニオンの隠れ家からほんの3kmほどであった。
その割に、何故アニオンの隠れ家が発見されていなかったというのならば、彼女の使う魔法に起因する、という事が言えるだろう。
彼女の使う魔法……負極魔法はどんなものに対してもマイナスにする事のできる魔法ーーーー単純に言えば、ゼロにする魔法である。
かつての暗黒魔法教団首領であるブラッドの使う加重魔法の真逆である。
そのため彼女が行っていたのは、隠れ家の存在を0に近づけるということである。
その結果彼女は見事に隠れ抜いていたのである。
だが、隠れ家だけでなく自身の存在を0にすればいいでは無いだろうかという疑問を持つ人もいるであろうが、それをしなかったのは俺たちのせいである。
俺たちが今日訪れるかもしれないから……そういう理由でどうやら彼女は自身に魔法をかけなかったらしいのだ。
「さあ、馬鹿弟子をぶちのめしに来たわよ!」
そういって、うれしそうな顔をするアニオン。
そして、俺たちの目の前には炎の大魔導士の神殿があるのであった。
その炎の大魔導士は、先ほどから嬉しそうにニヤニヤしている、アニオンの弟子で1週間前までは俺たちの仲間であった。
彼との出会いは、温暖帝と呼ばれる、温泉地帯であった。
初めて出会った時には、雑魚そうなどと、失礼なセリフを言われてしまったが、最終的には頼れる仲間となってくれた。
そんな彼と戦わなければならないのは少しばかりか、抵抗があるのだが、初めて会った時も実際は戦闘をした、と言っても過言ではないであろう状況であった。
しかし前回は、ライとリュウの戦闘を止めるために参戦したので実際は戦闘とは言えないかもしれない。
だが今回はその件とは完全に違い、敵として彼は俺たちの前に立ちはだかるのである。
そんな彼を助けるとともに、俺たちはディルに憑りついた神話の罪人ロギウスを完全に倒すために、必要な情報が書かれているかもしれない書物を手にするためにも、この神殿へと足を運ばなければならないだろう……。
そんな感じで長々と説明文が長くなったところで、早速敵が現れた。
前回の説明で分かった、黒い何か……時限亡者と呼ばれる生物ではない生物が、俺たちに向かって襲い掛かってきたのだ。
「貴様ラヲ捕縛スル」
「抵抗スル場合ハ、状況ニヨッテハ殺ス……」
前回の戦闘の時と同じようなセリフを言っているけど、こいつら他に感情なんかは存在しないのかな?
奴らが言った後に、アニオンは
「ここは私に任せてくれるかな?」
と自信満々に言ってきたので、俺たちはその場を任せることにした。
そして、俺たちを襲う時限亡者たちをアニオンは魔法で攻撃する。
「負極魔法:無印」
そういうと、次の瞬間には時限亡者の姿は消えていた。これは、何が起こったのだろう……。
そう思い、俺はアニオンに聞いた。
すると、彼女は満面の笑みで答えた。
「ああ彼らは元々、生物としては完成していない不完全なものだからね。 さっきの私の魔法で、その存在自体を0にした。 さっきの魔法は、私が隠れ家にかけていた魔法と同じやつなんだけどね、それを時限亡者たちにやると、形ないものの存在が0になる。 すなわち、消えてしまうんだよーーーー」
怖いな……その魔法。
俺とボル、そしてフルートはそう思った。
その気持ちを察してか、アニオンは微笑みかけながら答えた。
「でも、安心して。 彼らは、存在が0になったおかげで魂としてはリセットされたわけだから、この世にきちんと転生することができるようになったって事さ。 だから、この魔法は時限亡者たちの浄化だと考えてくれて構わないと思うよ」
その説明になら納得がついた。
しかしながら、浄化と言いつつ存在を消す作業を笑いながら行っている彼女の方が恐ろしいのではないだろうか。
まあ、とにかく道が開けたので俺たちは神殿へと進む。
炎の大魔導士エン……待っていてくれ‼
【そのころ、ロギウスとアマデウスは】
アマデウスは必死に抵抗し続けていたのだが……結果的に彼の意思が残されたまま、ロギウスに取り込まれてしまったのである。
心の世界で、アマデウスは翔琉に謝る……しかしながら彼の声はもはや、外に漏れることはなくなってしまったのである。
「はっはっは~。 ついに神魔法を我の物に完全に融合したぞ。 はっはっは~」
高笑いするロギウスの声は時空城一帯に広がる。
そして、彼の笑いが終わるころに玉座にある各属性を模したモニュメントの内、炎のモニュメントが怪しく光りだす。
それを見たロギウスは
「ついに、連合の魔導士が動き出したのか。 ならば、丁度良い。 先ほど融合し終えた、神魔法を炎の小僧に貸し与え、侵入者どもの戦意をそいでやろうではないかーーーー」
そういって、モニュメントに触れ集中するロギウスであった。
威風堂々と、禍々しいオーラが、モニュメントに流れていくのであったーーーー




