2ndステージ2:神話の悪人
俺はオールドアのある部屋にいた。
そこには誰もいなかった。
あの時の仲間たちや、あの場にいたディル―――いや、ロギウスすらいなかった。
みんなはどこにいるんだろう?
そう思いながら、俺は辺りを探す。
しかし、人っ子どころか、怪物さえいなかった。
それどころか、前回の戦闘による破壊の後すらなくなっていた。
時空間魔法で直したのか?
そんなことを思いつつ、扉の前にて、俺は奪われた魔法が使えるのかどうか試してみた。
あの時、ロギウスに奪われた神魔法の光天神。
発動はできないと思ったのだが、一応それらしいものは発動できた。
だが、やはり奪われているだけあって本来の力の10分の1ほどしか出せていないな。
寄せ集めのような一時的な輝き。
未完全な、神魔法。
背中には、羽が生えるが、ちっちゃい。
鳳凰のような美しく、気高き翼は、スズメの大きさほどの翼に早変わり。
これは、驚き。
「よし、この状態を神魔法:未完全版光天神と名付けよう」
そういって、俺は塔からまず出た。
そして驚いたのは、空が真っ黒であったことだ。
そして、色々なところで煙が上がっている―――何があったんだろうか?
「この現状はもしかして、ロギウスが?――――いやそれよりも」
俺はまず、フルートに力を借りるべく、彼女の元へ訪れようと夢幻峡谷へと向かうのであった。
魔法で俺は飛んで、向かう。
行く途中、おぞましい光景と、嫌な臭いがした。
黒い何かが、町を埋め尽くし、何かが焼ける臭い。
一刻も早く、フルートの元に向かわなければ。
そして、俺は夢幻峡谷へと到着した。
その場所の光景を見て、俺は再び唖然とする。
前まであった美しい森は、凍り付いていた。
そして、その奥の小屋だけが唯一残っていた。
しかし、その周りを黒い何かが囲んでいた。
あの黒いものは、先ほど道中で見かけた奴か?
あれは―――人なのか?
俺に気付くと奴らは俺に襲い掛かってきた。
「捕マエテ、洗脳スルノダ―――」
「ロギウス様ノ名ノ元ニ―――」
黒い何かは俺を捕縛しようと襲い掛かって来るが
「そうはいくか! くらえ! 風の魔法:小竜巻!」
そういって、小さな竜巻が奴らにあたって奴らは遠くへ飛んでいった。
なんか、倒せそうな相手じゃなさそうだったから、引き離すことにした。
しばらくは、戻ってこれまい。
「急いでるから、無駄な戦闘は避けないと―――」
それにしても、奴らはいったい
俺は小屋の中へと入って行った。
そこにいたのは避難させたであろう植物たちと、甲冑を着込んでいるフルートと、そして意識がなく、かなりの傷を負っているボルだった。
「誰だ!」
フルートが声を荒げたが、俺だとすぐに気付き
「翔琉君ではないか」
フルートは俺に駆け寄るように近づき、こういった。
「君の力を貸してくれ!彼を助けてやってくれ!」
と、ボルを指さして言う。
俺は光の魔法:光治を発動させた。
しかし、思った以上に傷が深いようで、中々傷口がふさがらない。
「深いな―――いったい、誰がこんなことを―――」
こうなったら、精神力に物を言わせるしかない。
神魔法未完全版光天神を光治に融合させた。
こうすることで、完全状態の神魔法使用時と、同等の力は出るだろう。
でも、思った以上に消費が激しい。
「――――でも、治して見せる! ボル、死なないで!」
力に物を言わせた結果、ボルの傷はみるみるふさがっていき、完治した。
「良かった―――」
そう言って、俺はその場で意識を失ってしまった。
精神の器を完成させていたとはいえ、これはやや強引な離れ業だった。
神魔法と、自然魔法の融合なんて―――未完全な状態では、身体や精神に相当の負担を押し付けた。
でも、ボルが助かってよかった――――
暗い意識の中で、声が響いた。
懐かしい声?
いや、聞きなれた声だ。
あの声の主は、さっき俺が助けた―――
「翔琉―――おい、しっかりしろ! 翔琉‼」
目が覚めた。
すると、ボルが俺を抱えて、涙をこぼしていた。
大粒の涙は、俺の顔や首筋に落ちて、床に流れていく。
「おいおい、病み上がりなんだから、大人しくしておけよ」
と言うが、俺の声なんかかき消してしまうような大声で泣いている。
そんなに泣くことないだろう。
大の大人が。
大の虎が。
後ろの方で、フルートが笑みを見せている。
どうやら、彼女もボルの事を少なからず心配していたようだった。
なんにせよ、俺は仲間に出会えたのであった。
「ボル―――今はあれからどのくらい経ったんだ? そして、あの時何が起こったんだ? 説明してくれ!」
「あれか――――そうだな、なんて説明すればいいのか―――」
そういうとボルの表情は暗くなった。
「―――そうだな……まだ、あれからは1週間しか経っていない。 翔琉がオールドアの中に消えたあの日から―――そして、あの時起こったことは惨劇だった」
とボルは語るのであった。
「翔琉が衝撃波で、扉に吸い込まれた後―――俺たちは、奴と戦った。
教祖ブラッドを封じたように、どうにかあいつを封印できないか、試みたんだ。
でも、残念ながら敵わなかった。
とてもじゃないが、勝てそうになかった。
あいつは―――ロギウスは、翔琉から奪った神魔法を、発動させたんだ。
しかも、全属性の神魔法を1人で―――
始めは均衡していたんだけど―――みんな、先ほどの戦闘で消費しきっていたから。
負けてしまった。
そして、俺たちは光の十字架に磔にされたんだ。
ロギウスは、ふふっと笑って、語りはじめたんだ。
「我の名は、ロギウス―――太古の支配者なり。 先ほど神域魔導士から奪い去りし、この神魔法は実に素晴らしい。 この力があれば、今度こそあいつを倒せる―――偽りに終止符を討てる……。 汝ら、我の配下になり、この世界を平和にしないか? 真の平和を手にし、新たな未来へと生きないか?」
そういってきたんだ。
俺たちは勿論断った―――
特に、ライとリュウとヒョウが、激怒していた。
「お前‼ 翔琉になんて事しやがるんだ‼」
「翔琉ちゃんが、今ので傷ついていたら、お前―――殺すわよ」
「ワタクシは、そんな勧誘には一切乗りませんわ、この下種野郎」
でも、ロギウスが指を鳴らすと3人は気を失っちゃったんだ。
恐らく、異常状態系の魔法をかけたんだと思う。
「やれやれ―――せっかちな青二才どもめ。 少し眠っていてもらおう」
そして奴は、オールドアの前に歩み寄ったんだ。
「我は今一度、神を滅する―――すべては、古の戦の続きだ―――」
そういって、扉をくぐろうとしたんだ。
その時、7人の大魔導士達の身体から、7つの鍵が飛び出して扉を封じ込めたんだ。
どうやら、先人の意思によって、強制的に扉を封じ込めたみたいだった。
「なるほど―――あいつらの、弟子がこいつらなのだな? 面白い――ん? お前は何だ?」
そういって俺の方に近づいてきたんだ。
ゆっくりと。
静かに。
「ああ――――お前は、暗黒魔法教団とか言うものの、元暗黒賢者とな? ふーん。 お前はいらないな」
そして、近くに落ちていたオブジェの剣を手にして、俺の腹に突き刺したんだ。
そのあと、すぐに7人の大魔導士を連れて、飛び去って行ったんだ。
一瞬にして、姿を晦ませた。
光の十字架が解けて、ようやく解放されたんだけど――――剣が深々と、刺さっていた。
そこから、必死になってこらえたんだ。
気を失っちゃダメだって。
すると、フルートが駆け付けてくれたんだ。
「これはいったい―――」
彼女は現状を理解できずにいたけど、俺を見つけて
「あなたは、ボル! しっかりして‼ 傷が深すぎる―――ここじゃあ、ダメね。 取りあえず、私の家まで運ぶわ」
その後、俺は傷に苦しみながら、必死に意識を保ち、さっきに至った―――という訳さ」
そうボルは語り終え一息つく―――




