1stステージ46:7人の大魔導士
一般相対性理論に量子論からの観点を加えることによってブラックホールが蒸発する可能性があるという報告がある。
対照的な粒子がブラックホールに存在する際に、片方の粒子がブラックホールに飲み込まれたとする。
すると、もう片方の粒子は遠方に逃げることができるというのだ。
その際に、ブラックホール内に飲み込まれた粒子はマイナスのエネルギーを持っている。
そのエネルギーによってブラックホールは自身の重力のエネルギーを失っていき、最終的にはブラックホールは蒸発し消えるのだ。
だが、現状では机上の理論。
本当にそのようなことができるのかは明かされていない。
成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。
そんな賭けにすがるしかないのだ。
やらないでやられるなら。
足掻いて足掻いて、出来ることをしつくしてからやられる方がまだましだ。
後悔だけは絶対したくない……。
なにもしないままで、終わるのだけは絶対に嫌だ。
机上の空論?
今証明してやるよ。
その理論が正しいかのかな!
「光魔法:正負光」
そういって俺はブラックホールに向かって巨大な光の光球を投げ入れる。
この世界の物質を、正と位置付けるのならば、今はなっているあの光球は、この世界のものではない光……
反物質。
そして、それはブラックホールに飲まれていった。
あの黒々しい闇の中へと、どんどん飲まれていく。
「何をいまさら……貴様の攻撃が光属性である限り……この魔法にはあらがえん!」
ブラックホールの勢いは留まらず、いまだに引きずり込まれそうだ。
「まだまだ!」
俺は、次々と光の光球を投げ入れる。
反物質の光を。
玉入れのようにどんどん投げ入れていく。
こんなとこでやられる訳にはいかないんだ!
約束を果たさなきゃいけないんだ!
ジャクさんの、願いを……
息子を思う気持ちを‼
今度こそ、裏切るわけにはいかないんだ!
「はっはっは。 無駄無駄。そんなことに意味はないぞ。 神域魔導士よ……我が軍配に下るがいい‼」
「負けてたまるか!!!!!!!!」
光を絶やさず……
光を与え……
光を食らわせる……
闇よ……打ち払え!
「いけぇ!!!!!!!!!」
全身全霊で、巨大な光球をブラックホールへと投げ入れた。
次の瞬間、光天神が切れて、俺は闇の中へと投げ出された。
「うぁぁぁぁぁぁ!!!!」
闇へと……ブラックホールの中へと飲み込まれる。
その時、ブラックホールは突如消えた。
まるで、蒸発したように……。
俺は、ブラックホールの重力から開放され、床に投げ出された。
「馬鹿な!光属性の魔法で、この魔法を破るなんて……」
ガイルとグランはお互いに顔を見合わせていた。
俺は、安堵の表情を浮かべ、その場に立ち上がる。
すっかり、服はボロボロになってしまっている。
「やれやれだな……地属性の魔法ちゃんと覚えなきゃな……」
もし、次にこの世界に来るような事があればだがな。
「まあいい……やつの神魔法を解くことには成功したのだからな」
「それは、俺も同様の台詞を言えるな」
「なんだと?」
そう……
神魔法は解けてしまっているが、時間は稼げたのだ。
ということは……
「お待たせ、翔琉ちゃん。 待たせたね」
そういって、リュウが後ろに立っていた。
他のみんなも……
「ガイル……ここまで、翔琉ちゃんをいたぶってくれちゃって……覚悟は出来てるかしら?」
「全く……厄介な封印魔法なんぞかけおって……解くのに少し苦労したわい……」
「ワタクシ……グランに余計な魔法を教えてしまっていたようですね。 不覚」
「まあ、いいんじゃないか? 花魁たちよ。 結果オーライだろ?」
「誰が花魁だ! でも、翔琉が無事だったんだし……」
「――――さあて、反撃開始だ!」
ライのこの言葉を合図に、俺は全員に神魔法を貸す。
炎天神。
水天神。
雷天神。
闇天神。
氷天神。
風天神。
そして光天神を各自発動させて、俺たちは2人に総攻撃を仕掛けるのであった。
「先ほどのあの、重力を破った方法をあとで教えてくれよ。 翔琉君」
そういって、まずはエンが仕掛ける。
手を正面にかざし
「炎の魔法:煉獄炎零式」
そういうと、ガイルとグランの周りを小さな太陽がいくつも現れる。
太陽の太陽系。
太陽を中心にして、太陽達が回っているかのような攻撃だ。
「これは、炎属性最強魔法……ならば、地の魔法:夜見之孔」
グランがそういうと、太陽はグラン達の周りにできた黒い穴の中へ飲み込まれていった。
太陽は、ブラックホールに飲み込まれてしまった。
「なるほど……そう来るなら氷の魔法:氷河樹」
とヒョウが黒い穴を凍らせてしまう。
ブラックホールを凍結させた。
なんて威力なんだ。
「これはしてやられた……その魔法は凍らせている間、2度と発動できない氷属性最強系の封印魔法ではないか」
グランは冷静に分析をしつつ、辺りを警戒している。
その警戒の中で、彼らは動く。
「これじゃあ、終わらないぜ!」
そういってライはトルネと空高く飛ぶ。
「ライ、お前と技を重ねるのは久しいな……」
「そうだな! 昔はよくやってたコンビネーションだからな。 あの時の感覚……忘れてねえだろうな?」
「ああ。だが、昔の技では物足りないだろう。 ここは1つ皆にあやかって、我らも属性最強魔法を出すのはどうだ?」
「はなからそのつもりだ! 行くぞ!」
そういうと、2人は上空で呪文を唱え始める。
「天を切り裂く雷よ……」
「天を舞う伊吹よ……」
させるか!
とガイルは上空に向かうが、それをリュウとホルブが阻む。
「邪魔はさせないよ。水の魔法:水龍波音!」
「その通りじゃ!闇の魔法:暗転闇雲!」
2人の水と闇の波状攻撃により、ガイルは叫びながら地上に落下する。
「轟きとともに、我が願いを受け入れ……」
「更なる風を纏いて、ここに集い……」
落下したガイルをグランは上手く受け止めて
「これはいかん! 地の魔法:地過壁画!」
グランとガイルの元に巨大な岩の壁が現れ、彼らをガードする。どうやら、この魔法をグランは受けて立つようだ。
「邪を滅せよ! 雷の魔法:雷轟稲妻・滅!」
「悪を討て! 風の魔法:疾風怒号巻!」
2人の放った、巨大な雷の槍と風の槍はあわさり、巨大な剣となってガイルとグランを守る壁を突き破り潜んでいた2人にあたった。
断末魔のような凄まじい叫び声が聞こえ、グランとガイルは空中に投げ出される。
ディルとボルはその隙を狙い、彼らを拘束することに成功した。
この勝負―――俺たちの勝ちだ!
ディルの能力とホルブの能力で、ガイルの魔法能力を極限まで封印して、ロールの町に転位させた。
ジャクさんには、息子を助けてくれと言われたが、俺らでは何を言っても聞きそうになかった。
ので、ここは思いきって、父親であるジャク本人に説教して貰うことが、改心に繋がると考え、このような措置をとった。
本当に改心した暁には、封印している魔法は解ける仕組みだ。
その後、リュウにはグランの洗脳を解いてもらった。
「我はいったい……何をしていたのだ?」
グランはそういう。
どうやら洗脳中の事を忘れてしまったようだ。
ディルがこれまでのいきさつや、事情を説明するとグランは、俺達に深々と頭を下げ
「では、翔琉君……私も、オールドアの封印者の1人として、7人の大魔導士として、君を元の世界へと送るために、同行させてもらうよ」
と言ってくれた。
グランが仲間になった!
BGM的にはファンファーレもの。
オーケストラの音楽が響いたらいいのにな―――なーんて。
俺たちはオールドアを目指して頂上に向かう。
このまま行くと、頂上に暗黒魔法教団首領のブラッドがいるらしい。
いよいよ、最終決戦だ!
7人の大魔導士がそろった今、俺たちはいよいよ伝説の扉オールドアへ向かい、塔の階段を登っていくのであった――――




