表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法世界に来てしまった結果、最強の魔導士になってしまった  作者: ただっち
オールドア編:最終章‐扉が開くとき‐
43/349

1stステージ42:思い

 外に行くと、ディルがいた。

湖のきれいな砂浜の上に、座っている。

あれ?

珍しいな。

ディルがこの時間まで起きているなんて、すごく珍しい事だ。

美しい湖の畔に、綺麗な女性……

景色が、より一層と輝きを増している。


「ああ、翔琉。 また夜中に起きちゃったの?」


どうやら、俺の存在に気がついたらしく、にこりと此方に笑うディル。

まあね、といって俺は彼女が座っていた場所の隣に座る。


「明日の事が不安なのかな?」


 そういって、ディルは俺のほっぺに指をつんとする。

 俺はそのままで


「ほふだな(そうだな)」


 意外にも強く押してきたため、あまりうまくしゃべれなかった。

ディルは、指を離して、ニコリとして


「ははっ、変な声」


 そう笑いながら、立ち上がり湖の水に足をつける。

そして、そのまま水を掬い上げては、元に戻し、掬い上げては元に戻していた。

水の流れ落ちる音が、辺りにこだましていた。

相変わらずマイペースだな。

そしてすぐにこちらを向く。


「ねえ、翔琉―――もうすぐ旅が終わっちゃうね……」

「え?」

「恐らく、明日でこの旅は終わりを迎える――――つまり、翔琉は明日、元の世界へと帰るの」

「それって、予言か?」

「――――まあ、そうなるわね。 時魔法を使える女だから、分かることね」

「そうか、明日か――――いよいよって感じだな」

「そうね―――」


 そう悲しげにも聞こえる声で彼女は言った。

あのような冒険は俺の世界では味わえないだろう。

科学の世界へと戻ってしまう俺には、魔法はもはや無くなってしまう能力だ。

ああ、この世界で最強の魔法であるところの、神魔法すら――――残り僅かにしか使えない、能力。

宝の持ち腐れとは、このことを言うのだな――――。


「流石に、翔琉でも、寂しいと思うのかしら?」

「失礼な‼ そりゃあ―――そりゃあ、俺は寂しいし、悲しいよ。 みんなと別れなきゃいけないのもさ……」


静かに湖を眺めて、俺は言った。

自然と涙が、零れ落ちそうになっていた。

目が、夜空に輝く星々を照らして、まぶしかった。


「―――翔琉、泣いてるの?」

「……かもな。 研究以外で、こんなにも胸躍る世界や、友達が出来た世界を離れるんだから、心が締め付けられるくらい、痛んでいるよ」

「そっか……そうよね。 私も、翔琉と別れてしまうのは寂しいな―――」


ディルがやや頬を赤めながら俺に向かって言う。


「あのね、翔琉。 私―――実はね―――翔琉の事が――――」


え?

と言いかけたところで、トルネが外に出てきた。


「おやおや、濡れてる美女発見! うひょーい!」


 そういいながら、トルネはディルの方へダッシュしてくるが――――

 ディルはそれを難なくかわし、湖の向こう側の岸付近までトルネを蹴り飛ばした。

 ここに来て女性陣、力やばいな。


「えっと、ディル―――で? 俺が何? どうしたんだ?」


 そう聞くとディルは。


「何でもないわ―――」


 といい、別荘へ戻って行った。

 何だったんだろうか?

ずいぶんと思いつめたような顔をして、別荘の方へと戻って行ってしまった。

結局何が言いたかったのだろうか?

俺には分からなかった。

この時は―――全く、理解できなかった。

でも、後にこの言葉を聞かなかったことが、後悔と邪念を生んでしまう事を、俺はまだ知らない。

否―――知らなかったからこそ、この先に待ち受けた物語は、少しねじ曲がってしまったのかもしれない。

正しい道筋を逸れてしまった。

運命の歯車は、変化に弱い――――そして、人間の心も時としてひどく脆いものになるのを俺は知っている。

だからこそ、あのような結末は必然だったのかもしれない――――



 しばらくして、トルネがやってきた。

奇跡的に、骨は折れていなく、顔に擦り傷が出来ているくらいだった。

強すぎだろ……身体。


「痛いぞ――――加減を少しはしてほしいものだな」

「いやいや、セクハラする君が悪いんでしょ」

「何を言うか‼ 我は別に、ハレンチでえげつない悪戯なんぞ、しようなどと考えておらぬわ‼」


そんなこと考えてたのかよ――――怖いな。

変態って、ここまで行くのか?


「―――む? ところで、ディルはどこに行ったんだ?」

「いやいや、帰っちゃったよ別荘に」

「ムムム! 何故、帰ったんだ? 照れ隠しか?」


違うだろ。


「まあ、いいや。 翔琉、おぬしはまだ家には帰らぬのか?」

「うん、もう少しだけ、この景色見ておこうと思って―――」

「そうか、せいぜい風邪をひく出ないぞ」


トルネなりの気遣いを見せてくれたようで、優しい言葉をかけてくれた。

なんだ、ただの変態じゃないじゃないか。

―――優しい変態なんだな。

そのまま、トルネは別荘の方へと戻って行った。

ややスキップしている風に見えるのは、気のせいだろうか?


「これで、旅が終わる――――そして、元の世界へと帰って、あの研究を完成させるんだ……はなから、それが俺の夢であり、最終目標なんだよな――――でも、もしそれが完成したら――――完成したら……」


完成したら―――俺は何をしたいんだろう?

俺は、何をするんだろうか?

俺は――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ