1stステージ39:女は怖いな
爆煙が見えた瞬間、説教を受けているフルートの表情が変わった。
先ほどまで、のほほんとしながらディルの説教を受けていた彼女はそこになく―――強く険しい表情をしている。
なんというか、威圧感がある。
大気が震える……そんな気がした。
ディルも、その威圧感に押さえれ、口が空いたまま固まってしまっている。
「――――また、私の可愛い子供たちを奪いに来た、外道が来たようだ。 すまない、皆―――先に小屋に入っていてくれ。 私は……そいつをちょっと狩ってくるから……」
そういうと、口調の違うフルートは、森の奥へすさまじいスピードで走って行った。
生身の身体で、あんなF1マシーンみたいな速度で走れるだなんて……やばいな。
後に聞いた話なのであるが、3人の太古の魔導士の中で、一番しっかりとしているのはディルだが、3人の中で一番敵にまわしていけないのはフルートらしい。
なんでも、彼女は普段はマイペースで、ニコニコして、悠々自適に自分勝手に行動するらしいのだが、怒っている場合、そして1度敵として認識した相手を目の前にした時の彼女は、容赦する――――という言葉を知らないのではないのか?と言うほどの、振る舞いをするらしく、3人の太古の魔導士の中で怒ると一番怖いらしい……
あのディルや、リュウ、ヒョウですら、彼女が怒っている際には、必死に土下座して、許しを請うらしい。
俺たちは、とりあえず彼女の言うとおり、小屋の中で待つことにした――――ご機嫌をそぐわないように。
小屋の中で数分待つと、扉を勢いよく開き
「お待たせ~」
とフルートが帰って来た。
彼女の服にはたくさんの返り血がついていた。
昨日から、血をかなり見ている気がする。
「今回の狩りもうまくいったわ―――これで、あいつらは私の子たちの肥料になったわ……」
肥料?
ああ、埋めたんですね。
分かります。
「ほらほら、女の子が返り血が浴びた状態なんてだらしないわよ―――服脱いで、シャワーでも浴びてきなさい」
そういって、ディルはフルートの服を脱がす―――
ってええ!!
ここで着替えるの!?
ライやエンなどの多くの大魔導士と、ボルは別に動揺していなく。
いたって普通に後ろを向くなどの対処をした。
しかし、俺は動揺したため少し遅れてしまった。
下着姿のフルートを見てしまった。
「いやーん、エッチ♪」
そういって、フルートは俺に言う。
「ご、ごめんなさい!」
俺は慌てて、目を塞ぐ。
しかし次の瞬間
「いや―――――――――――‼ 変態――――――――――――‼」
フルートの声がしたと思ったら、何やら痛そうな音がして、壁に吹っ飛んでいった男がいた。
トルネだ……。
片手に、フルートのパンツを握りしめている。
何が起こったのか、だいたい察した。
「トルネ―――あんた一回死んでみる?」
と、ディルが、低いトーンで言っているのが聞こえた。
トルネは立ち上がり、こういい放った。
「―――女子のパンツには未知なる可能性が秘められているんだ‼」
ディルは、リュウとヒョウにアイコンタクトを送った。
そして、リュウとヒョウに連れられ(連行され)て、外へと行ってしまった。
外からは
「状況考えてもの言いやがれ!」
と、怒号が聞こえる。
そして外で、すごい痛そうな音が響いてるな―――まあ、いいや。
「じゃあ、シャワーから上がるまでもう少しまっててね~」
と、フルートは奥の部屋へと消えていった。
ディルも一緒についていったようだ。
シャワーの音が聞こえ、外からは生々しく痛々しい音が聞こえる。
どんな状況だよ、これ―――
ちょっと気になったので、外に様子を見に行くことにした。
すると
「おら、このクズ!」
「女の下着を盗むなんて、いい度胸してんじゃないのよ!」
どうやら、もはや意識を失うほどに虫の息のトルネをいまだにリュウとヒョウがいたぶっていたようだ。
いたぶっているリュウと目が合ってしまった俺は、怖くなって小屋の柱の裏に隠れた。
それを見たリュウが、ヒョウに何か言って音がようやく修まった。
「あら、翔琉ちゃん。いたの!やだあ~」
「まあ、ワタクシ達ったら―――」
と非常に女性らしいしぐさをして、可愛らしい声をあげてはいるものの、俺には悪魔にしか見えない。
だって、そういってる彼女たちの後ろにいるトルネは瀕死なのだから―――
「女の下着を盗み見る輩は許せませんけど―――ワタクシ達でしたら、翔琉さんに裸を見られたりしてもいいのですわ~」
「そうね~翔琉ちゃんになら見られてもいいわ」
そういい、笑いながら近づいてくる2人。
怖い怖い。近寄らないでよ、と心の中では叫べても現実には叫べない。
叫ぶどころか、恐怖で声が出ないのだ。
「さあ、翔琉ちゃん―――」
「ワタクシ達と―――」
と彼女たちが言いかけたところでディルが外に出てきて
「フルートが上がったからみんな来て―――」
と言うので、俺はダッシュで向かった。
怖かったな・・。
トルネが、か細い声で
「俺も……連れてってくれ……」
と言っていたが、誰も何もしないのでお外に放置されてしまったのであった。




