1stステージ38:マイペース
夢幻峡谷―――ここには不思議な植物や、動物が生息している。
この世界において、貴重な植物や、絶滅しかけた動物たちがこの地には多く存在するらしく、そのため、密漁目的で訪れる魔導士たちが後を絶たないという。
それを迎撃するためにフルートは、この地で守護神の役割をしているらしい。
彼女は、そういった植物や動物たちに、魔法によって様々な耐性を極限までに上げているというのだ。
しかも、耐性を極限まで上げた結果、植物たちは自我を持ち、話すこともできるようになったあげく、自由に移動ができるようになったという。
植物が歩く―――そんな光景を俺は見るまで信じられなかったが、心のどこかではきっとこの世界で起こることだからな―――と思っていたのだろう。
目の前を花々がかけっこをして走り回っていても、木々が川の水で乾杯をしていても、意外にも驚かなかったのがいい証拠だろう。
「うわ、ほんとに走ってるな!」
俺は、ついつい大声を出してしまった。
すると、花々や木々は俺たちに気付いてすぐに、警戒態勢に入ったのだが、ディルがいることに気付くと、あっさりと警戒を解き、俺たちに近づいてきた。
「ディル様ですね―――フルート様がお待ちです。 どうぞ、こちらへ―――」
そういうと植物たちは俺たちをフルートの元へと案内すべく、深々と生い茂る森の中へと進んでいくのであった。
道中、様々な美しい木々、花々が見られたが案内してくれている植物の一人が
「ここの木々や花々は、危険な毒をもっておりますので、お触れにならない方がよろしいかと―――」
おいおい、なんて恐ろしい場所なんだよ。
見た目は天国でも、中身は地獄かよ。
「着きました、こちらです―――」
森の中心にある、大きな樹―――その下にある一軒の小屋に着くと、彼らはそのまま、木々の中へと消えていった。
木を隠すには、森の中――――と言ったものだ。
俺たちが家の前に来た時に、1人の女性が出てきた。
どこかのお姫様のような顔立ちに、綺麗なドレスを着て、その上からエプロンをつけている。
どういうファッションなんだ?
「ディル――――待ったじゃないの、遅いじゃないのさ」
「ごめんごめん、フルート。 ちょっと昨日は遅かったから、温泉に寄ってたからね」
「え? 温泉!? いいな~私もたまに、のびのびと疲れをほぐすために、温泉行きたいわ――――あれ? そんで? あんた達……何しに来たんだっけ?」
ディルが盛大にこけた。
いや、驚いた。
「昨日連絡したばかりじゃないの!」
そういい、ディルが身体に着いた土ぼこりをほろいながらフルートに、がみがみ説教をしている。
フルートはどこからか取り出した紅茶を飲みながらそれを聞く。
「相変わらずの天然ね~フルートは」
「全くだわ……」
と、リュウとヒョウは近所のおばさんみたいに談笑している。
あの2人、本当は何歳なのだろうか?
この間、聞こうとしたら怒られちゃったから、結局分からずじまいだし。
「相変わらず美しいな、フルート! 抱き付いて、軽く揉んでもいいかな?」
トルネの手付きがいやらしい。
トルネの目がいやらしい。
トルネの鼻息の荒さがいやらしい。
トルネはいやらしい。
見境なしの、超変態怪物かよ……
「うん、間違いなく殺されるよ、トルネ」
「お主は懲りぬのう――――昨日もあんなに血の池地獄を作っておったのに……」
「ホルブ――――言うだけ無駄だろ」
とライとエン、そしてホルブまでもが談笑を始めた。
ディルによるフルートの説教は未だに続いている。
フルートは、今度はクッキーを食べ始めている。
どこに持ってたんだよ……
そして、そのクッキーを求めてやって来た花たちや、動物たちに、こっそりと、クッキーをあげている。
何故ディルは気が付かないんだろう?
俺は近場の切り株に腰を下ろして、説教が終わるのを待つことにした。
ライたちも話で盛り上がっているから、すごく暇だ。
「うーむ……暇だな……」
そう呟き、空を眺めている。
雲が流れていく。
ふと、地面を眺めると、猫じゃらしのようなものにじゃれている虎が1匹――――ボルだった。
しかも、3歳時の姿より、遥かに幼い容姿だった。
あれ?
「なにしてんの、ボル」
と歩み寄ると、足元にすり寄ってきた。
完全に猫になってる?!
「可愛い!」
と思わず、抱っこしてしまった。
やべぇ、この肌触り。
このモチモチとした、肉球。
そして、この暖かさが、半端じゃない!
暖かい♪
「翔琉~くすぐったいじゃないか」
尻尾を振りつかせて、嬉しそうにほっぺを擦りつかせるボルが異常なまでに可愛い!
子猫とか、子犬とかも可愛いけど、今のボルの方が、遥かに上なんじゃないかな?
と、ボルとじゃれついていると、ライとリュウとヒョウが、物凄い勢いで走ってきた。
「ボル~! その位置代われ!」
「翔琉ちゃん、あたしもだっこして~!」
「翔琉君~♪」
やべぇのに見つかってしまったな。
俺の下に3人がたどり着きかけたとき、森の方から爆音が聞こえた。
そして、爆煙が空に立ち込めたのだった――――




