1stステージ36:神話を語る王様
太古の魔導士フルート―――彼女の現在地は、実は炎の大魔導士エンがいた、温暖帝の近くにある、自然豊かな秘境である、夢幻峡谷という場所にいるらしい。
この場所は、俺のいた世界で言うところの、自然保護区らしく、彼女はそこで、守り人をやっているらしい。
自然と心を通わせ、自然を愛する魔導士―――それが、フルートという女性だと、ディルは語った。
「ところで、トルネ。 あなたも行くわよね?」
そうリュウが言うと、トルネはムスッとして
「やだ、怠い―――なんで、俺がお前らについていかなきゃいけねーの?」
「それは、俺がします。 風の王よ―――」
そう言って俺が、これまでの経緯や、【オールドア】の封印を解く必要があること、などを懇切丁寧に説明した―――のだが、説明中ずっとリュウとヒョウの胸を眺めているトルネに、若干苛立ちを覚えてしまった。
「――――という訳なので、どうかお力を貸していただけないでしょうか?」
と言うまで、結局胸ばかり眺めていた。
そして言い終わるのと同時に、こちらを向いて言った。
「いいだろう―――お前と一緒にいた方が、花魁ども――いや、リュウ達といれそうだしな」
えへへ―――と、胸をもむしぐさをこっそりとっている、トルネに呆れてしまった。
まあ、とにかく仲間になってくれるなら、別にいいか。
トルネが仲間になった――――今回は、BGMいらないや。
と言うか、鳴らしたくない。
割愛したい。
取りあえず、魔方陣を使って城下町であるロールに降りた俺たちは、ジャクさんに、風城で起こったことをすべて話した。
ジャクさんに頼まれたことを―――俺たちは1つ、達成出来なかった。
彼の願い―――暗黒賢者となってしまった息子を救う事。
ジャクさんは、それを決して咎めることなく―――ただただ、何も言わずに話を聞いてくれていた。
時折身を震わせながら――――静かに、静かに。
そして話を終えた時、彼は言った。
「息子を―――どうか、頼みます……」
我が子を愛する、父親の言葉は―――息子の無事を願う言葉だった。
俺たちは、彼の言葉を胸に深く刻みつけ、次なる目的地へと向かうのだった――――
俺たちは、変態を仲間に加えて、次なる目的地である夢幻峡谷を目指すのであった。
しかしながら、そこまでの距離があまりにも遠く、現在いる風城から、ディルの魔法を使ったとしても、到着するのは夜になってしまう。
―――という訳で、本日は目的地に最も近い温泉帝にて一晩を過ごすことになったのであった。
温暖帝は前に、俺やディル、ライ、リュウの4人で泊まった経験のある場所ではあるものの、俺には監禁された場所という事で、若干トラウマになりかけた場所である。
そして、炎の大魔導士エンとの出会いの場所でもある。
今夜はエンの家に泊まることになった。
前回は、ディルのおかげで、この温泉地帯全体は、完全貸し切り状態、となっていたのだが、流石に今回はそうは行かないだろう。
もうすでに、夜に近い。
夕闇が、辺りを埋め尽くす頃、俺たちは炎の大魔導士エンの家へとついたのであった。
エンの家にたどり着くと、一悶着があった。
「翔琉と一緒じゃなきゃ、いやだ!」
「翔琉ちゃんと、今夜こそ、あんな事やこんな事をするのよ! あたしは!」
「翔琉さんと、ワタクシは結ばれるためにも、他にも色々と知ることがあるのよ!」
さてさて、何故ライやリュウ、そしてヒョウが言い争いをしているかと言えば、今晩誰が俺と寝るのか―――という事を、言い争っているのである。
ライは我がままだし、ボルは俺を護衛する気満々だし、ヒョウは俺の何を知りたいんだよ―――
そして、1番問題なのは、リュウの言った台詞だ。
あんな事やこんな事って俺に何する気だよ――――と、俺は内心びくびくしている。
それを見て、ディルは笑ってる。
ゲラゲラと―――
あの野郎……他人事だと思って。
こんな時は、温泉にでも浸かろう。
エンの家の中には、この温泉地帯の中でも、秘境とされる露天風呂へと繋がっている。
俺は、ボルとエンを誘って、この場に来ていた。
ちなみに、ライは、いまだ女性陣達ともめている様だった。
だから、こっそりとボルを連れてきた。
なんか、一番安心できそうだったから、連れてきた。
「気持ちいいね、ボル……」
「そうだな、翔琉―――空が綺麗だな」
「あ、本当だ!」
満天の星空を眺めながら、俺たちは温泉に浸かっている。
水面には、夜空に輝く美しい星々が反射している。
ここには、星以外に光が無いので、当然と言えば当然なのだろうか?
2人で、のんびりと浸かっていると、ざばっと水を裂くような音がした。
誰か、来たようだ。
「―――なんだ、ここには花魁どもは居ないのか? つまらないな……」
どうやら変態のようだ。
「おやおや、そこにいるのは―――翔琉じゃないか」
うわー、気が付きやがったよ。
「おいおい、そんなあからさまに嫌そうな顔をするなよ。 俺は女子の裸にしか興味ないんだからさ」
誰がそんな理由で嫌な顔してるって言った!?
「いやいや、そんな事をいきなり語るなよ―――」
「まあよいではないか―――よいしょっと……」
湯が波打ち、彼は俺の正面に座った。
何故、正面に座るんだよ!
「さてさて……こんな、星空の中に、1人と一匹がいるのだから、俺が少しばかり、子供なお前たちに昔話でもしてやろうかな」
「ああ、いいや結構です」
「そんなこと言わずに―――」
「いや本当に、そういうのは……」
「うるさい!」
どっちがだよ―――
「黙って話を聞けばいいんだよ、俺の」
あー、面倒くさいな。
本当にわがままなんだから。
やれやれと、俺はボルと目を見合わせていた。
コホン、とトルネは軽く咳払いをしてから、自身たっぷりに、語りはじめたのだった。
「オールドア……それは太古の昔に、この世にまだ神がいた頃、当時の神が創り出した異世界への架け橋――――そして神は、その扉をくぐり様々な世界へ渡ることができた。
神は様々な世界の話を人々に聞かせる。
魔法のない世界―――神の世界―――楽園のような世界。
そして神は、人々にそれを授け、神は違う世界へと旅立っていった。
人々はそのドアを用いて、平和に暮らしていた。
しかしながら、とある欲望にまみれた1人の人間とその仲間たちのせいで、世は混沌を招く時代になり、この世界どころか、オールドアで繋がる違う世界においても混沌へといざなっていった。
神は深く嘆き、怒り、神は直々に降臨した。
そして神は、神に仕えた3人の偉大なる魔導士と7人の聖なる魔導士と協力して、欲望にまみれた人間と、その仲間たちと対峙した。
神は、3人の偉大なる魔導士と7人の聖なる魔導士とともに、その者たちを打ち破った。
その者の仲間たちは降伏したが、その主導者と思われる欲望にまみれた人間は、最後まで抵抗した。
そして、最後まで抵抗した欲望にまみれた人間は、神によってその場で即座に処刑された。
現代において、その人間の事を世に伝えるため、書物に書き残した。
神は事を終えると、7人の聖なる魔導士たちに、オールドアが2度と悪用されないように―――と、封印術を授けた。
そして、3人の偉大なる魔導士の1人に、世の理を監視する役目を与えた後、元の神の世界へとお戻りになられたという―――」
と、トルネの話が終わる。
案外聞き入ってしまっていた。
「3人と7人ってもしかして?」
「そうだ―――後に連合を設立し、初代の3人の太古の魔導士と7人の大魔導士の方々だ、と言われている。 俺たちは、代々あの方々が受け継いだ封印術と、それを解除する魔法を継承して来た―――そして、理を監視する役目は、ディルの一族が担うことになった―――という訳さ」
なるほど、なるほど。
納得のいく説明をしてもらって大変恐縮である。
「ところで、その処刑された人間っていったい?」
「その人間の、その男の名は、ロギウス―――あまたの魔物を従えさせる異能を持ち、英雄のように慕われ、絶対な力を持っていたとされている者。 そして、神に唾を吐き、異世界への移動を強く望んだ、歴史的、神話的な大悪人だ―――」
辺りは一層の静けさを保っていた。
まるで、何かにおびえて身を潜めているのかのように―――
「オールドアを通るために何故俺たちが必要か―――分かったか?」
「うん、その鍵で封印を解かなければならないって事だね。 神話の時代から聖なる魔導士より受け継がれた、聖なる魔法で――――」
「その通りだ―――さてと、そろそろ花魁どもの下着でも盗みに―――いやいや、拝借しに行くとするかな。 じゃあな、翔琉―――と、のぼせかけてる虎君」
ざばっと、トルネは勢いよく湯をはねのけて、走り去っていった。
いや、ちょっと待て。
あいつ下着盗みに行くって言ってなかったか?
拝借とか、言い直してたけど、結局下着盗みに行っただけだよね?
折角、貴重な話をしてくれて、俺の中では株があがってたのに――ものすごい勢いで、最下位まで下がったわ!
ん?
待て。
あと、もう1つ大事な事を言っていたよな。
……
……
あ!
と、気が付いた時には遅かった。
ボルは顔を真っ赤にして、目が虚ろだった。
身体をふらふらとさせて、頭はくらくらしているようだった。
「ボル!? 大丈夫か?」
「あ……う……かけ……る……」
と、言って湯の中へ沈みかけたボルを、俺は引き上げて、湯から出た。
そして、そのまま抱っこして風呂から上がった。
え?持ち上げられたのかって?
それは心配ない。
何故ならボルは、現在ライと同様に幼児化しているからである。
この程度なら、楽勝。
ボルの場合は、任意で幼児化できるらしく、この時はたまたま、幼児化していただけなのだ。
何故、幼児化していたのかと言えば、ボルの元の大きさに対して、湯船が小さかったからなんだよね。
湯の中では、のびのびと足を延ばしたかったらしいから、小さくなっていた―――という事だ。




