1stステージ35:最後の1人へ
籠の中の鳥ーーーー現在の俺を示すに当たっては、これ以上に妥当な言葉はないだろう。
俺は、ガイルの魔法によって、見事に封印されてしまった。
神魔法ですら、脱出不可能な、籠の中に。
しかし、俺は思うのだ。
こんなか弱い鳥を捕まえたところで、なんの意味もないものだと。
所詮、俺の実力は不死鳥程度……
ごめんなさい。
飛躍させ過ぎました。
鳥だけに。
……。
はい、お後が宜しくないようで。
ここは可愛らしく、雀かヒヨコといこうかな。
雀を捕まえたところで、外に凶悪な鷹やカラスがいるならば、むしろ籠の中の方が安全ではないだろうか?
「まさか、神魔法でこんなことができるだなんて――――」
とガイルが言い終わる前に、ライによって鳥かごを奪い取られる。
ガイルは一瞬何が起こったのか理解できなかった。
それほどに、今の彼は素早い―――
「神魔法:雷天神! 雷属性の俺の動きは、雷と同様の速さに―――いや、それ以上のものになるのさ」
そういって、かごの中の俺を見る。
「翔琉―――籠の中の翔琉。 やべえ、可愛い。 このままいけば、翔琉は、俺の―――」
おいおい、変なこと考えていないで早く出してくれよ。
と言うか、出せ!
今すぐ出せ!
この状態危険すぎるだろ!
リュウの目も、ヒョウの目もすごい目でこの籠見てるぞ!
ヤバいって!
「やれやれ、早く、解放してやれよ」
とエンが、ライの隙をついて籠を破壊する。
俺は籠から、出られた。
身体も、元の大きさになったし、良かった。
何より、恐ろしい事態は回避できたことだし―――
「助かったよ、ありがとう」
「どういたしまして、翔琉君」
エンをすごく睨んでいる3人は放置しておこう。
状況をいまいち呑み込めていないガイルは、この状況に焦るのだ。
「ぶつぶつ……なんだ、この状況……ぶつぶつ……」
「しかたねーな……皆の者、俺の攻撃をくらうがいい!」
慌てるガイルをよそに、トルネは攻撃を続ける。
先ほどより酷い、暴風を―――
台風どころでは済まない。
スーパーセル並だ。
ああ、ドラゴンボールの方じゃなくて、災害とか天候の方ね。
しかし、もはやトルネの攻撃は誰にも通用しない―――何故なら、神魔法を全員が発動しているからだ。
「トルネよ―――これまでの攻撃を受けよ!」
そういってホルブの吸収魔法の攻撃を受ける。
闇天神状態での、吸収魔法―――これを先ほどの俺を封じた壁でトルネは防ごうとした。
しかし、その攻撃を完全に防ぐことができずに壊され、さらにダメージを受ける。
それは当然だ。
神魔法だもの。
「俺の最大防御を―――ホルブが壊すだと!」
「隙あり!」
そういって、ヒョウの氷がトルネを覆う。
動揺したため、かなり隙があった。
そして、トルネは氷の中に封じられてしまった。
可哀想に―――
「トルネ! ふん、役に立たない駒だな―――それでも、7人の大魔導士の中でも、1・2を争う実力の持ち主か? まあいい―――」
そういって、とうとう玉座から立ち上がるガイル。
重々しい空気が、周囲を襲い―――
「まさか、俺自ら手をくだすとはな――」
「―――いや、さっきからちょくちょく、手を出してたじゃん。 何言ってんの? 馬鹿なの?」
「……」
と、リュウがぼそりと言ったのだが、どうやら聞こえていたらしく―――図星であった。
次の瞬間、俺たちは黒い風に襲われたのだった―――
暗黒賢者ガイル。
彼の魔法は太古魔法:重力魔法である。
この魔法は、その名の通り、重力を操ることが出来る魔法である。
そして、様々な魔法にその重力を付加できる。
先ほどの黒い風は、風属性の魔法に重力を付加したものであるようだ。
「風の魔法:重力化大竜巻!」
俺たちは、壁に投げ出されてしまった。
遠心力が、半端じゃない。
ミキサー機に、入れられているのと同じだ。
このままじゃ―――本当に―――
「っく! ディル!」
渾身の力を振り絞って出た、助けを呼ぶ言葉は、1人の女性の名前だった。
彼女は、すさまじい重力下で、体勢を直し
「任せて! 時の魔法:平衡崩!」
そう言って、魔法を放った。
彼女の手が、黄色く光ったと思ったら、ガイルと同様の魔法が飛び出て、重力化大竜巻とぶつかって打ち消しあった。
「平衡崩は、相手と同様の魔法を一時的に過去から、引っ張ってこれる魔法―――でも、タイムパラドックスとか発生しちゃうから、後処理大変なのよね……」
まあ、なんにせよ助かったよ。
ありがとう、ディル。
「―――くそ、分が悪い。 ここは、一時撤退だ」
そういうと、ガイルは懐から水晶をだしその中に消えていった―――ガイルが入りきると、水晶玉は割れて消えた。
「逃げたか―――チッ」
リュウの舌打ちが聞こえた。
なんにせよ―――取りあえず、ひと段落ついたようだ。
風城内部の王の間―――取りあえず、トルネを氷の中から出してあげよう、という事になった。
そりゃあ、当然か。
だが、洗脳状態である彼を見す見す出してしまうのは、再び戦闘になる恐れがあったので、勿論氷から出す前に、リュウの異常状態回復魔法によって洗脳を解いた。
良かった、無事で―――
「無事なもんか! お前ら、もう少しまともな方法で助けろ、馬鹿どもが‼」
助けなきゃよかった―――
そう一瞬でも思ってしまった俺がいた。
「翔琉―――こういう男なのよ、トルネは……」
ため息交じりに、ディルは言う。
やれやれだよ―――
「お前が天野翔琉だな? 俺の名前はトルネ、この風城の王だ。 全く、神魔法なんか危なっかしい魔法なんか覚えやがって―――そもそも、お前がな……ゴフッ」
トルネに、ディルとリュウとヒョウのパンチが炸裂した。
痛そう―――
「―――何するんだ、花魁ども! 王に向かって、こんな仕打ちをして、ただで済むと思うな―――ガハッ」
偉そうなことを言いかけた、偉そうな王様は、女王様―――いやいや、リュウに頭を踏みつけられている。
そして彼女は、笑顔で、笑顔で、笑顔で―――こう言った。
「トルネ―――死ぬ? ああ、間違えた。 あなた、地の大魔導士グランの行方を知らないかしら? あたしの魔法でも探せないのよ―――」
グリグリ、とトルネの頭を足で撫でている。
まあ、正確には踏んでいるのだが―――
そしてなんだろうか?
トルネは若干嬉しそうにしている。
ドMの変態かよ。
「いてててて! そろそろ、快感フィーバーが……ゲフンゲフン。 そろそろ、やめてくれよ。 話すに話せないじゃないか!」
なんか今、すごいダメな発言があったような気がするが―――
気のせい、気のせい。
トルネは、女王様の足をどけて、すっと立ち上がり、軽く咳払いをして、話し始めた。
「―――地の大魔導士グランは、現在行方が知れずになっている。 しかし、最近聞いた話では、グランの故郷である、地底の国である大地之中心に、いるのではないかと言うのを耳にした」
大地之中心?
深そうな名前だな。
「大地之中心―――鎖国国家にして、軍事国家。 多くの戦闘能力の高い魔導士が在籍し、歴史的に古い建造物のある、特別指定区域―――そして、暗黒魔法教団総本部がある場所だ」
敵の本拠地のある国。
危険度MAXじゃね?
「そう―――そこに、奴らもいるのね。 残りの暗黒賢者、そしてブラッドも―――」
ディルの目は怖かった。
目が座っていた。
威圧感のような、凄まじい気迫を感じた。
ブラッド=ブラックと、ディルの間には何か、あったのか?
「でも、鎖国している国に、どうやって入るのですか? 密入国する――――と言う訳にも行きませんし―――」
とヒョウが言った。
確かに、そこはどうするのだろうか?
いくら有名な魔導士だとしても、犯罪を犯していい理由なんてないのだ。
密入国―――これは、れっきとした犯罪行為だ。
しかし、仕方ない場合もあるのも現実だ。
さて、どういった解決策をディルは出すのだろうか?
と、考えていると、彼女はあっさりと、きっぱりと言った。
悪ぶれもせず、おどけたりせず、ただただ冷淡に言った。
「連合の最高権力者を頼りましょう―――私と同じ、太古の魔導士にして、大地之中心出身の植物魔法の使い手―――フルートをね」




