Lastステージ57:バイバイ
空想の世界に終わりを告げる【消去者】は、再び動き始めた。
ディルの【時空間魔法】によって、俺が倒した前の時間に戻しているようだ。
「嫌だ……死にたくない!」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
と、エンとリュウは、【消去者】に魔法攻撃を放つが、全て弾かれてしまう。
そして……。
「「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」」
バクッ……ぐちゃぐちゃと、歯で丁寧に砕かれ、彼らは【消去者】に食われてしまった。
炎の大魔導士エン死亡。
水の大魔導士リュウ死亡。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「おい!死に損ない!なぜ助けない!仲間だろ!」
ライとジンライは騒ぎ、慌てていた。
そして……。
「やめろ!離せ!うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……‼」
「翔琉ママ……助けろよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
バクン……ゴリゴリ……。
もぐもぐ……。
念入りに噛み砕かれ、彼らは【消去者】に飲み込まれてしまった。
雷の大魔導士ライ死亡。
神魔法の後継者にして俺の息子ジンライ死亡。
「人民を盾にするのじゃ!」
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ホルブとトルネ、そしてグランは、このシェルター内にいた、【魔がさす楽園】の住民を盾にした。
各々の魔法で、武装させ、纏って……。
だが、そんなものは意味をなさなかった。
球体のように丸く固まった武装など……。
ガバッと口を広げ、一飲みで、【消去者】に食べられてしまったのがオチだ。
闇の大魔導士ホルブ死亡。
風の大魔導士トルネ死亡。
地の大魔導士グラン死亡。
そして、魔がさす楽園の住民全員死亡。
「ヒョウ、私と同時に魔法を……」
「凍ってしまえ‼」
アニオンとヒョウの合体魔法が放たれるが、その魔法ごと【消去者】に食われた。
太古の大魔導士アニオン死亡。
氷の大魔導士ヒョウ死亡。
「うふふ……達者でやりなよ、翔琉くん♪」
「翔琉……すまなかったな……。俺は、お前と友達になれて嬉しかったよ。ありがとう……」
バクッ……。
ボルとフルートは、最初に首から上を食べられ、その後、全て捕食された。
辺りに残ったのは、彼らの着ていた服の一部と、大量の血痕だけだった。
太古の大魔導士フルート死亡。
光の大魔導士にして、最大の親友ボル死亡。
「うん。俺たちも楽しかったな……な?」
「そうだね。空想の世界だとはいえ、神様って役割を……しかも、主人公の大事な力の源って役割だったからね♪」
「だね♪」
レネンとアマデウスは笑っていた。
ニコニコと笑っていた。
そのまま、笑いながら捕食された。
パクンっと、ゴクリっと。
創造の神レネン死亡。
神魔法の化身アマデウス死亡。
閃光矛の化身ライト死亡。
「さあて、翔琉……私で最期ね」
「ディル……」
俺は全員が捕食されゆく最中、黙ってみているだけだった。
この空想の世界を終わらせるのを黙って見ていた。
かつての仲間たちは無惨に殺された。
否、消去されたと言った方がいいのかもしれない。
「……ごめんな、ディル……」
「なにを謝ってるのよ、翔琉……私はこう見えて幸せだったのよ。仮初めとは言え、あなたの空想の世界で、こうして生きれたのだから……」
「……仮初めだなんて、言うなよ……少なくとも、俺には現実と、なんら変わりないように思えたんだから……」
「……でも、これは空想で妄想……。だから、あなたが現実世界に戻る選択肢を取った以上……ここも終わる。終わらない夢なんかないように……」
「……俺、頑張るよ。現実に帰っても、ディルたちのことは忘れない。それに俺の空想だったら、もしかしたらまた会えるかもそれないし……だから……だから……」
「翔琉……」
ディルは、泣いて俯いていた俺の顔をそっと手で持ち上げて、口づけをした。
甘くてほんのり柔らかい……。
口づけを終え、顔を真っ赤にした俺に向かって、ディルは笑顔で言った。
「バイバイ、翔琉。元気でね♪」
そうして、彼女は【消去者】によって捕食された。
バクリ……その捕食されたときの血飛沫は俺に大量にかかった。
時の監視者ディル死亡……。
「サアテ、コレデ全部食ベ終エタット……ア、忘レテタ……」
そう言って、【消去者】は最期に……自らを捕食した。
足からむしゃむしゃと……どんどん食べていく。
そして、最期には、なにも無くなった。
そして、最後には、この世界は俺一人だけになってしまったんだ……。
こうして、俺の【魔がさす楽園】での冒険は幕を下ろした。
この世界の住民たちの命全てを犠牲にして、この妄想で空想の世界は終わったのだった。




