Lastステージ51:神の最期
ヨルヤ=ノクターンはキレていた。
これ以上なく、この上なくキレていた。
愛する女を食われ、愛する眷族たちを食われ、そして自らが守りしこの世界を食い尽くそうとするその【なにか】に対して。
その怒りは、彼の力となって、この目でハッキリと分かるレベルの禍々しいオーラを放っている。
「お前‼俺の女によくもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
ぐちゃ。
その音が鳴り響いた直後、ヨルヤ=ノクターンの首から下が全て【なにか】に食べられていた。
「ノクヤ!」
「やめろ!翔琉!来るんじゃない!」
ヨルヤは、頭だけになってもまだ息があった。
普通、即死だって……流石は、悪魔の神。
「いいか、翔琉……今から、そこにいる連中を全員連れて、冥界から脱出しろ」
「そんな……ノクヤは……」
「頼んだぞ……あとほら、これをやるよ」
そうノクヤが言うと、ファーストの服の切れ端が俺の方に向かって飛んできた。
その切れ端の中には、【時空図書館】への通行証が包まれていた。
「それを使えば、今すぐ全員を脱出させられる……」
「ノクヤも逃げよう……お願いだ。もう、誰かが死ぬところを見たくないんだ……頼むよ……」
「すまないな翔琉……その頼みは聞けないな……俺の愛する女を殺し、俺の愛する眷族を殺したこいつへの敵討ちと、俺の愛する子供たちと眷族を守るために……俺は、俺の命を使う……」
そういった瞬間に、絶対神域内のアマギと、俺の身体の中に眠っていたレネンが飛び出した。
「「父様~‼」」
二人の息子たちは、今……全てを守らんと命を捨てる父の元へと集う。
涙で溢れるヨルヤの目……彼は今まで生きていて、ここまで泣いたことはきっと無いだろう。
そして、もう二度と……泣くことも無いだろう。
「さあ、翔琉‼あとは、頼んだ!」
子供たちを俺の方へと吹き飛ばした悪魔神ヨルヤ=ノクターンは、特攻するーーー【なにか】に向かって……。
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「父様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「ノクヤ……すまない……」
そう言って、俺は時空図書館への通行証を使う。
それと同時に、冥界という世界が閃光を放ち、この世界から永遠に消滅した。
始まりの神ファースト……悪魔神ヨルヤ=ノクターン……両者の死を持って、冥界は【なにか】ごと消滅を果たしたのだった。
悪魔たちは、泣いていた。
時空図書館の目の前で、延々と……。
元いた世界が消滅したことより、眷族たち、同胞たちがやられたことより……自らの主【ヨルヤ=ノクターン】の死が、彼らには衝撃的すぎた。
俺は、唯一【なにか】について知っている風な事をいっていたアマギに話を聞いていた。
「……アマギ……さっき、【なにか】について何かしらの情報を知っているような口ぶりだったよな?」
「……ああ」
「それがなんなのか、教えてくれないか?」
「……なんで?」
「なんでって……」
「あいつは死んだだろ?なら、必要ないじゃないか……」
「……ごめん」
「なんでお前が謝るんだよ……」
「いや、俺……なにもできなかった……」
「……そんなことない。絶対神域張ってくれてなかったら、みんな死んでたよ」
「うん……」
「……あれの正体は、概念だ」
「え?」
アマギは唐突に話を始めようとしたーーー先程の【なにか】の正体について……。
その時、図書館の中からディルたちも現れた。
みんなボロボロで、疲弊しきっていた。
アマギは話を中断し、俺をディルたちのところへ行くように促して、悪魔たちの治療をし始めた。
結果としてなんだったのだろうか。
【なにか】は【概念】?
時空図書館でなら、それが分かるのかな……。
「おい!ディル!」
と、俺が声をかけると、ディルたちは、目を見開いて俺を見ていた。
そして、涙を溢しながら、全員が俺の方に走ってきた。
「「翔琉!!!」」
「うわぁ!」
ドシンっと、俺は彼女たちの突撃に飛ばされて、後ろに倒れてしまった。その上に、ドサドサとディルたちは倒れ込んできた。
「無事でよかったよ……翔琉……」
彼女たちの涙が、まるで洪水のように流れ落ちる。
やれやれ。
これじゃあ、今日の朝みたいだな……。




