Lastステージ41:人間天野翔琉vs神の管理者セカンド
冷徹な視線は、冷酷な死線へと変わった。
俺はその時、なんの油断もしていなかった。むしろ、緊張のあまりいつも以上に警戒心が高い状態だった。
なのに……なぜ、俺は攻撃を避けることができなかったのだろうか。なぜ、俺の身体は半分無くなっているのだろうか。なぜ、なぜ……というか。
「痛ぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
神経ごと、感覚ごと、なにもかも吹き飛ばされてしまったようで、一瞬分からなかったが、瞬時に痛覚は機能した。
その痛みは、尋常ではないほどの痛みだ。人間の痛覚で、もっとも痛いのは「陣痛」などの出産時におけるときの痛みだと聞いたことがある。だが、俺の今の様子はとてもじゃないが、それ以上だと言うことが分かるだろう。
「人間風情が、耳障りな声を上げるな……」
「えぐぅ……光治‼」
光が俺を包み込むと、あんなに重傷で、死にかけていた俺は全回復した。
「ふん……人間風情が、神の力を使役するなど……侮辱だな」
「なんとでもいえ……俺は、神の友達から力を貸してもらってるだけだ。みんなを守るための力をな……」
セカンドは、苛立っている。人間という愚かな生物が、神である自らに歯向かっていること……更には、神の力である【神魔法】を使っていること。彼女にとって、それは堪えられないことなのだろう。あんなにも不快そうな顔でこちらを睨んでいるのだから……。
「翔琉、気を付けろ‼セカンドは、もう攻撃を仕掛けているぞ‼」
「なに!?」
アマデウスの忠告が俺に届く前に、既に俺の周りには透明な光の球体が無数に浮かび上がっている。しかも、それぞれが大魔導士レベルの巨大な魔力を感じる。
「これは……」
「死ね人間……神罰魔法:【裁きの御霊】」
セカンドの声と共に、透明な球体は淡い光を帯始め、辺りを埋め尽くす。
愚かな人間が発明した化学兵器において、もっとも強力でもっとも邪悪なものがあるーーーそれを開発した科学者は自らを死神と名乗った上で、兵器の凶悪性は奇しくも俺の居た国で実証されてしまった原子爆弾……。
その映像でしか見たことがないような兵器のような、強烈な光と共に……辺り一面は焼け尽くされたのだった。
花々が咲き誇っていた神界が、一瞬で地獄絵図となったーーー何てことはなく、花たちは美しく咲き誇っていた。
あんなに大爆発があったのにも関わらず、焼け尽くされたはずだったのにも関わらず……生命力溢れる植物たちは無傷だった。
爆発を起こしたセカンドも無事であった。
アマデウスや、ジンライたちも無事であったーーーまあ、彼らに関しては自力で張ったバリアと、俺がとっさに展開した結界によってなんとか助けることができたのだけどな。
代わりに俺は、瀕死の重傷を負ってしまった。
至るところが焼けただれ、いくつか骨も折れている。自分自身にも結界を展開させたのだが、ほんの数秒遅れてしまったために、爆風と熱風を少し受けてしまった。
だが、どうにか直撃を避けたので、このレベルで済んだのだが……直撃を受けていたら、確実に死んでいた。
さすがの俺も、魔法が使えないほどにバラバラに木っ端微塵にされてしまったら、チート的な回復魔法をもってしても治せないだろう。否、治せるかもしれないけど、俺の力ではなく他の誰かの力による復活だろう。俺自身は、木っ端微塵で喋ることも考えることも出来ないのだから。
「……光……治……」
辛うじて発せられた弱々しい声からはうって代わり、光が俺を包み込み全ての傷を癒した。だが、圧倒的な痛みという苦痛は精神を確実に蝕んでいた。
もう痛い目に合いたくない……もうあんな思いしたくない……。そんな事が心を支配しようとしている。
それの意味することは、即ち敗北を意味する。
なぜならば……痛みを受けないということは戦いの最中、戦いを放棄すると言うことだからだ。




