1stステージ32:狙われた天野翔琉
次なる目的地は、風の摩道士トルネがいるとされている風城
しかしながら、そこに行くためには特別な手段を用いなければならない。
その理由としては、風城の周辺には風による防御魔法が展開されており、そのため外部からの直接侵入は不可能なのである。
神魔法ですらはじく強力な魔法壁――――とディルは言っていた。
風城に行くには、風城の真下にある町ロールの神殿のエレベーターを使用するほかないらしい。
だが、その神殿について詳しい説明をディルはしてくれなかった。
彼女には、何かしらその場所に、嫌な思い出があるようだった。
いったいディルとその神殿には何があったのか―――それはのちに神殿内部に入ると分かることだろう。
そんな話の中、俺たちはロールへとたどり着いた。
しかしながら、町の様子は異様だった。
町は破壊つくされた後だった。
しかしそれ以上に、ロールの町の入口には、おびただしいほどの人々が磔にされていたからだ。
その多くが、鳥族である。
鳥族とは魔法無しで飛行のできる種族で、風属性の魔法の使い手が多い種族である。
そして、鳥族の特徴は皆が美しい羽根を有していることである。
その美しさの象徴は、彼らの誇りである。
だが、彼らの誇りであろう羽は、無残にも引きちぎられたようで、辺りには美しい羽根が泥まみれで散らかっている。
なんとも惨い―――
そして、みんな目隠しをされてお腹のあたりに文字が書いてあった。
どうやら、刃物でつけられたもののようでかなりの血が、磔られていた者たちの下に溜まっていた。
女性も―――子供にも―――老人にも、容赦なく傷がつけられているし、何よりみんな気を失っているほどだ。
よほどいたぶられたのだろう。
想像するだけでも酷い……
傷跡からして、まだ新しいので、つい先ほど書かれたものであることが伺える。
そして、ディルは彼らに近づき、書かれたその文字を読む。
「光の神域摩導士をわれらに捧げよ―――世に再び混乱を―ー暗黒魔法教団……」
俺たちは、磔にされた人々を解放し、介抱した。
リュウと俺とディルの3人で、回復魔法を発動させ、生々しい傷を消してあげた。
ヒョウは、魔法によって、彼らを強固な結界を張った。
そしてライ達他のメンバーは、辺りを警戒している。
鳥族たちや、町の住人を回復し終えたと、ほぼ同時に、教団の団員たちが飛び出してきた。
全員あの時のボルや、ルーンの時のように黒いフードを被っている。
間違いなく、暗黒教団の手先である。
しかしこいつら、どこに隠れていたんだ?
そして下っ端の一人が言う。
「―――その氷の中にいる男……光の神域魔導士を、我らに差し出せ。 そして、裏切り者ボルと、大魔導士を殲滅させて貰う‼」
そう言って、夥しいほどの数の団員は、魔法攻撃の準備をする。
それを見たディルは言った。
「ここで、はいどうぞって私たちが言うと、思ってるのかしら?」
カッコいい!
すると、また下っ端が口を開いた。
「ははっ―――それもそうだったな―――じゃあ、お前らを殺してでも奪っていくとしよう」
その言葉をきっかけに、団員たちが一斉に氷の結界の中へ進撃しようとした。
しかし、ヒョウの張った強固な結界は、彼らの侵入を許さずに、はじき返した。
「あなた方、ワタクシの氷属性の魔法を舐めすぎなのでは?」
そう言って、ヒョウは指を鳴らした。
すると、先ほど直接攻撃をして、直接触れた団員たちの身体が凍結し始めた。
彼らは必死にもがくが、もう手遅れだった。
すっかり、氷像になってしまった。
「氷の魔法:魔雹女神。 この魔法によって張られた結界に、ワタクシが認めた者以外が触れると、凍結する―――ワタクシが許可するまで、永遠にね」
フフッと、袖で笑い口を隠す彼女のしぐさは、日本の大和撫子のような、しぐさである。
しかしながら、怖い。
「氷の魔法ならば、炎で溶かすまでよ―――行け!」
と、下っ端の賭け声で、炎属性の魔法を使う下っ端たちが、一斉に氷の結界に攻撃をする。
しかし、結界は解けなかった。
当り前だ。
氷属性のエキスパートのヒョウと、その内部には炎属性に対抗する水属性のエキスパートと、何より時を操る魔導士ディルがいるのだから、そうそう結界は壊れない。
もし解けたとしても、水で消火して、時を戻してしまえば、結界は復活する。
「―――何故だ? 何故、解けないんだ?」
下っ端たちは分からないようだった。
「さてさて―――ライ達、いつまで眺めているのかな? そろそろ、反撃してほしいんだけど」
「やれやれ……」
「仕方がないな」
そう言って、ライ達は下っ端たちを、蹴散らしていく。
まさに一瞬の出来事だった。
雷が迸り、炎が舞い、闇が覆い、空間が歪む。
そして下っ端たちは全滅した―――かに思えたのだが、5人だけが攻撃に耐え、いまだ立っている。
「しぶとい奴らだな―――」
そう言ってライが攻撃しようとしたとき、攻撃は跳ね返されてしまった。
ライは同様の攻撃にて、それを相殺させた。
「おい、ボル。 こいつら―――いったい何だ?」
そうライがボルに尋ねると、彼は答えた。
「あれは、教祖ブラッド=ブラックの側近たちだ」
「側近? 初めて聞くな」
「あいつらは、ブラッドの操り人形だが、他の下っ端に比べて少々、厄介だぞ―――あいつらの使う魔法は、反響魔法。 相手の攻撃を、等倍にして跳ね返す魔法だ―――つまり」
「儂の出番じゃな―――」
ホルブは、やれやれと言わんばかりに、先頭に出る。
幹部たちは身構えて、反響魔法を発動させるが、ホルブが手を地に触れた瞬間、彼らは闇の中に消えていった。
「やれやれ、反響魔法なんぞは、発動させた物ごと、闇の中に吸収してしまうのが楽ちんじゃわい」
こうして教団の団員たちは全員倒した。
俺は何もしていない。
しいて言えば、町のみんなを回復させた。
ふと、町を見ると、粉々になっていた家々は無く、町が元通りになっていた。
どうやら、ディルが町の時間を、破壊される前に戻したらしい。
あの状況でここまでやっていたは――――すごいな。




