Lastステージ36:プランB
神界の神獣を管理する場所ーーーそこは、強固たる守りと、侵入者を殺すと明記され、辺り一面に死体と骨が転がる地獄絵図の場所だった。
そんな場所へと、普通の人間ならば誰も行きたがらない上に、見たくもない光景だっただろう。
だが、儂らは行かねばならぬ。
友を救うために……友を蘇らせるために……。
「着いた……けど……どうするんだ?」
「ふむ……えっと、確かまずは入り口で受付じゃったな……おーい、たのもう‼」
道場破りのような言葉を発した儂の目の前に、すっと一人の人間の姿をした女が降ってきた。
光のような神に、透き通るほどの白い肌の美女。
神界にいると言うことは、こやつも恐らく神じゃな。
「はぁぁい。なにようかしら?神界の神獣保護区へ?神でもないあなた方が、なんのようなのかしら?」
「ふむ……儂らは、麒麟に謁見したく、参上致したもの……どうか、謁見させてはもらえぬか?」
「麒麟?あー、トルネ君ね。トルネ君は今、他の神様が謁見してるから、ダメ。まあ、今謁見してる神以上の立場の神ならば、許せるけど……あんたら、そんな身分でも無さそうだしね……さあ帰った帰った。帰らないと、死体にするわよ?」
外の情景に余りにもハマるほどの脅し文句は、儂らを少しびびらせた。
じゃが、すぐに儂は懐からあるものを取りだし、彼女に掲示した。
「一応、こう言うものも持ってきておるんじゃが……ダメかのう?」
「何を見せても無駄よ無駄……さっさとお帰り……え?」
女は、儂が懐から取り出した、1枚の紙を奪うように手に取り、それを直視している。
次第に彼女は、汗が垂れ、足を震わせ、恐怖していたようだった。
「こ……これは……」
「?ホルブ、何を見せたんだ?」
「ん?ボル。あれは、始まりの神ファーストと悪魔神ヨルヤ=ノクターンのサインが書いてある神命書じゃ」
「神命書?」
「そうじゃ。この神界のトップ2の2神からの直々の命令書……単純に言えば聞き分けのない神様に『お前、私たちの言うこと聞けないの?』的な脅し文句を与える書類ってだけじゃ」
「そ……そうか……」
もしも、その紙でも従わない神がいたら……まあ、別の手段も用意しているがのう……。
それは、また別の機会に……。
「……大変失礼いたしました。ファースト様とヨルヤ様の御友人だったとは……ただいま、VIPルームと応接室をご用意させますので、今しばらくお待ち下さい……それでは!!!」
と、女は焦った顔で、急いで要塞内へと走っていった。
そして、中から、要塞内に居たと思われる神たちは全員追い出され、赤絨毯がくるくるっと、こちらへ転がってきた。
「ささささ!!!ファースト様、ヨルヤ様の使いの方……どうぞ、こちらへ!!!」
そう言って、先程の女はやって来た。
服装が、ガイドの姿になっている……。
媚を売るつもりか……。
「まあよい……ボル……行くぞ」
「う、うん……」
儂らは進む……友がいる要塞へ。
要塞内は、至って普通な動植物園のような雰囲気じゃった。
じゃったが……。
「なんじゃこれは……」
儂は、この世に悪夢があると言うならば、この場所のことを言うかもしれぬ。
動植物園のような雰囲気……とは裏腹に、管理されているはずの神獣たちは、磔にされ、鎖で何重にも縛られ、まるで剥製にでもされたように動かない。
朱雀も、玄武も、青龍も、白虎もーーー他の神獣たちも、みんなみんな磔にされ、鎖で縛られていた。
更には、なにか薬品を投入されているようで、いくつものチューブが彼らの腕や背中に刺さり、怪しい色の液体が彼らの中へと入っていく。
「おい、これはなんじゃ?なにをしてるんじゃ?」
「ん、ああ。こちらですね?こちらは、神獣たちを生きたまま永遠に眠らせているだけですよ。起きている限り、彼らは自らの使命とかで、無理矢理戦ったりしそうになるので、永遠の種の保存のために、彼らは眠ってるんだよーーーね?」
「狂ってやがる……」
「狂ってやがる?いやいや。我々、神界ではこれは日常ですよ……ふふふ……あなたも、なってみますか?【虎族最終兵器】さん……」
「え、遠慮します……」
「さあこちらへ……麒麟【トルネ】は、最下層におりますので……」
女は、不気味な笑みを浮かべながら、奥の階段を下りていく。儂らもそれに続いて、下へと降りていく。
ここは、本当に神界なのかのう。
と、疑ってしまうほど、なにかおかしい気がするんじゃ。
冥界ではないのだから、地獄とかではないのは分かるのじゃが、やっていることは非人道的ーーーまあ、神に人道を説くのもおかしな話じゃがな。
麒麟……トルネを、あわよくば奪還しようと思っておったが、プランBで動くしかないかもしれぬのう。
まあ、ウルトラCであるから、隠密に進めなければならぬのう。
最下層に到着した儂らは、更なる悪夢を見せられることになった。
「さあ、あちらにいるのが麒麟……トルネ君ですよ♪」
女の可愛らしい声とは裏腹に、ガラス越しに居るトルネは磔にされた上で、怪しい液体を吐くまで飲まされ続け、身も心もボロボロにさせられようとしている。
確か、翔琉に聞いたんじゃが、こう言うのは洗脳させる類いの1種じゃとか。
ならば、ヤバイのう。
「ボル、空間魔法じゃ」
「ああ。空間魔……うぐっ!」
ボルの苦しそうな声が聞こえたと思って、隣を振り返ると先程の女が、ボルにあの怪しい液体を投入しているところだった。
怪しい液体を投入された、彼は、白目に泡を吹いて、その場に倒れてしまった。
「ダメよ。管理してる神獣を逃がそうとするのは、ルール違反……違反者は、洗脳……使えなくなったら外の連中みたいに、死体となって転がればいいだけ……」
「お前、何者なんだ……」
「……ひ・み・つ♪」
女は、不気味な笑みを浮かべ、怪しい液体を含んだ注射器を持って儂に近づいてくる。
どうやら、この女ーーーただで返してくれる気配は無さそうじゃ。
「プランBじゃな……」
そこで儂の意識は消えたのじゃったーーー。




