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魔法世界に来てしまった結果、最強の魔導士になってしまった  作者: ただっち
オールドア編:第3章‐進化するべき時‐
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1stステージ31:審判の時

 神魔法によって、ハードルを上げてしまった地獄の修行パートは前回でおしまい。

 今回は、(元)暗黒賢者のボル関する物語ーーーー彼の贖罪方法を模索し、生き残るための物語である。

 ボルは、元ではあるが、暗黒魔法教団の幹部である、暗黒賢者の1人であった。

 そして、先の戦争でのS級戦犯者であり、死刑囚でもある。

 罪状は、大量殺戮ならびに大量洗脳。

 当時の記録では、ボルは数万人以上を虐殺した、と言う記録があるくらい人を、生物を、彼は殺したらしい。

 ボルにとって、当時は洗脳状態であった。

 教団の教祖ブラッドの操り人形―――当時の彼にはその言葉以上に、相応しい言葉は無かっただろう。


「―――でもね、翔琉。 証拠が無いんだよ……ボルが操られていたって証拠がね」


 とディルは、眉間にシワを寄せながら、難しそうな顔をしてして言うのだ。

 修行が終わった直後の出来事である。

 不意にヒョウの言った、発言が今回の議題を浮上させた。


「―――ところで、なんで暗黒賢者がここにいるの?」


 彼女はそう言った。

 新参者である、彼女にとっては純粋に知りたかったから、聞いたことではあるが、俺たちにとって、それを考えさせられると言うことは、ボルの罪と向き合うことになるという事になるのだ。

 俺と彼との初めての出会いは、地獄炎瑠にある龍族の神殿であった。

 闇の大魔導士を探しに来た俺たちの前に、敵として現れたのが、彼―――ボルだった。

 そして、俺たちは戦った。

 俺たちは俺たちの目的を、ボルはボルの目的を果たすために。

 結果として、神魔法が決め手となって、俺たちは勝利することが出来た。

 ホルブ救出後、ボルはホルブの魔法によって封印される。

 封印といっても、ルーンのように全身を動けなくされて、別空間に封じられるものではなく、魔法の力を封じる類いのものであった。

 そして彼を連行する、という形でつれ歩いていた。

 ディルの魔法によって移動した先にある、黄昏の海にて、俺はボルの真実を知ってしまった。

 過去を―――記憶を、覗いて―――

 世間一般で語られている真実は偽物だったという事、この時知ったのだった―――


「証拠がない―――じゃあ、このままだとボルは……」

「間違いなく、処刑されてしまうわね―――」

「そんな……」


 ディルの言葉に、俺は絶望した。

 悲しくなった。

 辛くなった。

 友達が目の前で、死の宣告を受けたのにも関わらずに、何も出来なさそうな自分に、怒りさえ覚えた。


「俺は―――何もできないのか?」

「うん、翔琉は何もできない」


 畜生ちくしょう―――


「本当に、何もできないのか?」

「残念ながら、翔琉には出来ないだろうな」


 畜生―――


「俺は、無力なのか?」

「翔琉ちゃんは―――この世界での権限はないわ」


 畜生――――畜生――――


「何かできないのか?」

「うちの知る限り、君にできることはないね―――」


 悔しい―――


「何か、させてくれ―――」

「無理じゃな―――」


 なんで――――


「ボルを助けたいんだよ―――」

「……」


 と、最後にヒョウに聞いたところで、俺は黙った。

 涙が零れ落ちた。

 ぽろぽろと、雨のように―――

 すると、ディルが1つの水晶を懐より取り出した。

 そして彼女は言った。


「――――仕方ないな、お姉さんが、何とかしてあげるわ。 泣いている翔琉なんて、あまり見たくないもんね」


 そう言って彼女は部屋の奥に消えていった。

 何をしに行ったのだろうか?

 俺はついていこうとしたが、ホルブに止められた。


「翔琉―――今、ディルは連合のTOPの連中と話し合っているのじゃ。 お主が行っても、何もできぬ―――」


 俺はそのまま、ホルブにソファーに座らされてしまった。

 ボルはその横に座った。

 そしてライも―――


「―――翔琉、俺のためにすまないな……」

「何言ってんだよ、ボル。 友達のために、何かしたいって思うのは、普通の事じゃないか?」


 そんな顔するなよ、と俺はボルの頭をそっと撫でた。

 ボルは、声も出さずに泣いてしまった。

 おお、よしよし。


「翔琉、ありがとうな―――ボルのためにさ」


 とライは、言った。

 当然じゃないか、だって俺たち友達じゃないか。


「しかし、翔琉ちゃん。 なんでボルを助けようと、躍起になっているの?」


 とリュウが聞いてきた。

 確かに、そろそろみんなに、あの真実を語らなければならないのかもしれない。

 偽りを無くすために―――


「……ボル、みんなに話してもいいかな?」

「―――うん、いいよ……」


 ボルの許可も得たので、俺は語りはじめた。

 あの海での出来事を―――そして、ボルの真実の過去を―――



「なるほどね―――あなたにそんな過去があっただなんて、ワタクシ知りませんでした……」


 そう言って、ヒョウは涙をぬぐった。

 リュウも、聞いて泣いていた。

 エンとホルブは、黙って聞いていた。

 流石は男性陣だった。


「あの時、心眼鏡を壊された裏には、そんな出来事があったわけじゃな―――いや、何とも残酷じゃのう」


 どうやら、ホルブは根に持っているようだ。

 心眼鏡を壊したことを―ー

 ごめんなさい。


「でも、翔琉ちゃん。 そんな大事な事を、なんで黙っていたのかしら?」

「ああ、それはな―――」


 と話をしようとしたところで、奥の部屋からディルが出てきた。

 その顔立ちは、数分で何があったのか、と言うほどやつれていた。


「どうしたんだ? ディル」


 俺はソファーから、がばっと起き上がり、ディルの元へと駆け寄った。

 ディルは、やつれ気味の顔を上げて、ニッコリと笑った。


「―――あの、くそ老人どもに話をするのは、毎度毎度疲れるわね―――でも、安心して翔琉。 私と他の太古の魔導士達で、あのジジイどもを黙らせたから……」


 これは、怖い事を―――

 ん?

 でも、黙らせたって事は、もしかして―――


「―――これからは、連合のために働くこと、善良な一般市民に危害を加えない事、暗黒魔法教団を倒す事に同意すること―――以上を、守れば、あなたを罪には咎めない。 よって、処刑は免除されるわ」


 良かった―――よかった?

 ん?

 処刑は?


「おい、ディル。 処刑は免除される―――って言ったよな?」

「言ったわよ」

「じゃあ、何は免除されないんだ?」

「ああ、揚げ足を取りたいのね。 ごめんごめん、言い方が悪かったわね。 さっきの条件を守れば、ボルの罪は無効よ―――ボルが洗脳されていた証拠は、さっきあなたが話してたしね」

「? なんだ、聞いてたのか」

「あんだけ大声で、話されたら、どこにいても響くわよ」


 おっと、それは面目ない。

 思った以上に、大声で話していたようである。

 ボル、ごめんね。


「そのボルの件より―――問題になったのは、翔琉。 あなたの事よ」

「え? 俺?」

「そう―――あなたよ」

「なんで?」

「なんでって―――そりゃあ、あんたが神魔法を使えるからでしょ。 あのジジイどもは、どこで知ったか知らないけど、あんたを狙ってんのよ翔琉。 あんたのその神魔法欲しさにね―――」


 そうディルが言うと、7人の大魔導士たちは身を乗り出した。

 相当驚いたような顔をして―――


「まあ、でも安心して。 ジジイどもの記憶は消しといてあげたから―――」


 消しといてあげたから?

 そんなゲームのセーブデータじゃあるまいし、そう簡単に消せるのか?

 ああ、そういえばこの世界には、魔法があった。

 おそるおそる、エンは言った。


「―――もしかして、うちの師匠の魔法で?」

「そうそう、エンのお師匠様がね」


 すると、エンの身体が震えはじめた。

 え?

 エンのお師匠様ってそんなに怖いのか?

 どんな人なんだろう?

 というか、人なのか?


「まあ、とにかくボル。 これからは、私たちと一緒に、心置きなく戦えるわね」

「ああ、ディル。 ありがとう―――」


 ボルはまた泣いた。

 大粒の涙は、まるでビー玉のような大きさだった。

 でもこれだけは言える。

 友達が、殺されずに済みそうでよかった――――


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