1stステージ31:審判の時
神魔法によって、ハードルを上げてしまった地獄の修行パートは前回でおしまい。
今回は、(元)暗黒賢者のボル関する物語ーーーー彼の贖罪方法を模索し、生き残るための物語である。
ボルは、元ではあるが、暗黒魔法教団の幹部である、暗黒賢者の1人であった。
そして、先の戦争でのS級戦犯者であり、死刑囚でもある。
罪状は、大量殺戮ならびに大量洗脳。
当時の記録では、ボルは数万人以上を虐殺した、と言う記録があるくらい人を、生物を、彼は殺したらしい。
ボルにとって、当時は洗脳状態であった。
教団の教祖ブラッドの操り人形―――当時の彼にはその言葉以上に、相応しい言葉は無かっただろう。
「―――でもね、翔琉。 証拠が無いんだよ……ボルが操られていたって証拠がね」
とディルは、眉間にシワを寄せながら、難しそうな顔をしてして言うのだ。
修行が終わった直後の出来事である。
不意にヒョウの言った、発言が今回の議題を浮上させた。
「―――ところで、なんで暗黒賢者がここにいるの?」
彼女はそう言った。
新参者である、彼女にとっては純粋に知りたかったから、聞いたことではあるが、俺たちにとって、それを考えさせられると言うことは、ボルの罪と向き合うことになるという事になるのだ。
俺と彼との初めての出会いは、地獄炎瑠にある龍族の神殿であった。
闇の大魔導士を探しに来た俺たちの前に、敵として現れたのが、彼―――ボルだった。
そして、俺たちは戦った。
俺たちは俺たちの目的を、ボルはボルの目的を果たすために。
結果として、神魔法が決め手となって、俺たちは勝利することが出来た。
ホルブ救出後、ボルはホルブの魔法によって封印される。
封印といっても、ルーンのように全身を動けなくされて、別空間に封じられるものではなく、魔法の力を封じる類いのものであった。
そして彼を連行する、という形でつれ歩いていた。
ディルの魔法によって移動した先にある、黄昏の海にて、俺はボルの真実を知ってしまった。
過去を―――記憶を、覗いて―――
世間一般で語られている真実は偽物だったという事、この時知ったのだった―――
「証拠がない―――じゃあ、このままだとボルは……」
「間違いなく、処刑されてしまうわね―――」
「そんな……」
ディルの言葉に、俺は絶望した。
悲しくなった。
辛くなった。
友達が目の前で、死の宣告を受けたのにも関わらずに、何も出来なさそうな自分に、怒りさえ覚えた。
「俺は―――何もできないのか?」
「うん、翔琉は何もできない」
畜生―――
「本当に、何もできないのか?」
「残念ながら、翔琉には出来ないだろうな」
畜生―――
「俺は、無力なのか?」
「翔琉ちゃんは―――この世界での権限はないわ」
畜生――――畜生――――
「何かできないのか?」
「うちの知る限り、君にできることはないね―――」
悔しい―――
「何か、させてくれ―――」
「無理じゃな―――」
なんで――――
「ボルを助けたいんだよ―――」
「……」
と、最後にヒョウに聞いたところで、俺は黙った。
涙が零れ落ちた。
ぽろぽろと、雨のように―――
すると、ディルが1つの水晶を懐より取り出した。
そして彼女は言った。
「――――仕方ないな、お姉さんが、何とかしてあげるわ。 泣いている翔琉なんて、あまり見たくないもんね」
そう言って彼女は部屋の奥に消えていった。
何をしに行ったのだろうか?
俺はついていこうとしたが、ホルブに止められた。
「翔琉―――今、ディルは連合のTOPの連中と話し合っているのじゃ。 お主が行っても、何もできぬ―――」
俺はそのまま、ホルブにソファーに座らされてしまった。
ボルはその横に座った。
そしてライも―――
「―――翔琉、俺のためにすまないな……」
「何言ってんだよ、ボル。 友達のために、何かしたいって思うのは、普通の事じゃないか?」
そんな顔するなよ、と俺はボルの頭をそっと撫でた。
ボルは、声も出さずに泣いてしまった。
おお、よしよし。
「翔琉、ありがとうな―――ボルのためにさ」
とライは、言った。
当然じゃないか、だって俺たち友達じゃないか。
「しかし、翔琉ちゃん。 なんでボルを助けようと、躍起になっているの?」
とリュウが聞いてきた。
確かに、そろそろみんなに、あの真実を語らなければならないのかもしれない。
偽りを無くすために―――
「……ボル、みんなに話してもいいかな?」
「―――うん、いいよ……」
ボルの許可も得たので、俺は語りはじめた。
あの海での出来事を―――そして、ボルの真実の過去を―――
「なるほどね―――あなたにそんな過去があっただなんて、ワタクシ知りませんでした……」
そう言って、ヒョウは涙をぬぐった。
リュウも、聞いて泣いていた。
エンとホルブは、黙って聞いていた。
流石は男性陣だった。
「あの時、心眼鏡を壊された裏には、そんな出来事があったわけじゃな―――いや、何とも残酷じゃのう」
どうやら、ホルブは根に持っているようだ。
心眼鏡を壊したことを―ー
ごめんなさい。
「でも、翔琉ちゃん。 そんな大事な事を、なんで黙っていたのかしら?」
「ああ、それはな―――」
と話をしようとしたところで、奥の部屋からディルが出てきた。
その顔立ちは、数分で何があったのか、と言うほどやつれていた。
「どうしたんだ? ディル」
俺はソファーから、がばっと起き上がり、ディルの元へと駆け寄った。
ディルは、やつれ気味の顔を上げて、ニッコリと笑った。
「―――あの、くそ老人どもに話をするのは、毎度毎度疲れるわね―――でも、安心して翔琉。 私と他の太古の魔導士達で、あのジジイどもを黙らせたから……」
これは、怖い事を―――
ん?
でも、黙らせたって事は、もしかして―――
「―――これからは、連合のために働くこと、善良な一般市民に危害を加えない事、暗黒魔法教団を倒す事に同意すること―――以上を、守れば、あなたを罪には咎めない。 よって、処刑は免除されるわ」
良かった―――よかった?
ん?
処刑は?
「おい、ディル。 処刑は免除される―――って言ったよな?」
「言ったわよ」
「じゃあ、何は免除されないんだ?」
「ああ、揚げ足を取りたいのね。 ごめんごめん、言い方が悪かったわね。 さっきの条件を守れば、ボルの罪は無効よ―――ボルが洗脳されていた証拠は、さっきあなたが話してたしね」
「? なんだ、聞いてたのか」
「あんだけ大声で、話されたら、どこにいても響くわよ」
おっと、それは面目ない。
思った以上に、大声で話していたようである。
ボル、ごめんね。
「そのボルの件より―――問題になったのは、翔琉。 あなたの事よ」
「え? 俺?」
「そう―――あなたよ」
「なんで?」
「なんでって―――そりゃあ、あんたが神魔法を使えるからでしょ。 あのジジイどもは、どこで知ったか知らないけど、あんたを狙ってんのよ翔琉。 あんたのその神魔法欲しさにね―――」
そうディルが言うと、7人の大魔導士たちは身を乗り出した。
相当驚いたような顔をして―――
「まあ、でも安心して。 ジジイどもの記憶は消しといてあげたから―――」
消しといてあげたから?
そんなゲームのセーブデータじゃあるまいし、そう簡単に消せるのか?
ああ、そういえばこの世界には、魔法があった。
おそるおそる、エンは言った。
「―――もしかして、うちの師匠の魔法で?」
「そうそう、エンのお師匠様がね」
すると、エンの身体が震えはじめた。
え?
エンのお師匠様ってそんなに怖いのか?
どんな人なんだろう?
というか、人なのか?
「まあ、とにかくボル。 これからは、私たちと一緒に、心置きなく戦えるわね」
「ああ、ディル。 ありがとう―――」
ボルはまた泣いた。
大粒の涙は、まるでビー玉のような大きさだった。
でもこれだけは言える。
友達が、殺されずに済みそうでよかった――――




