Lastステージ24:全てを受け入れよう
俺はこんな絶体絶命の状況に陥ってしまった事について、自分を責め立てるよりも、まず行っていたのは、どうやれば今後こんな事が起こらないだろうか、と言うことだった。
というのも、今この場で、仮に一発逆転が起きてしまったとして、果たして虎族の怨念は解決されるのか、と言うことを言いたいのだ。
例えば俺が、この場でこの怨念に圧倒的な力でねじ伏せたとしよう。
天野翔琉らしく、神魔法やら能力やら神の道具を使って勝ったところで、果たして虎族の怨念は消え去るのか……。
いいや、消えないだろう。
むしろ、激しさを増してしまうのかもしれない。
百年後千年後に、再び今のような出来事が起こってしまったら……どうなるのだろうか。
きっと、今度こそ人間を滅ぼそうとして、今以上に強力になってしまっているのではないだろうか。
そうなってしまったら……もう未来では止められないかもしれない。
どんなに立派でも、心の闇というのは……深々と根付いてしまうのだから。
だったら、どうすればいい?
俺が死ぬ?
いやいや、死にたくないから却下。
というか、俺一人が死んだところで、虎族の根底からの怨念というのは、消えないだろう。
怨念は潰えず、怨念は更に強くなる。
人間の命を奪った味をしめた怨念は、俺を皮切りに、どんどん人間を殺していくだろう。
最後の一人まで消し去るためにーーー。
じゃあ、ここはベルクーサスの言うとおりに、俺が力を貸せばいいのか?
俺が力を貸せば……あいつの下にくだれば、なにもないのか?
いいや、絶対そうにならない。
あいつは、用がすべて終わったら俺も殺す。
というか、俺の仲間たちも、平然と虫を殺すように殺すだろう。
それはさせない……絶対に。
命を懸けてでも、俺は友を、子を、弟を守らねばならない。
よし、腹は決まった。
「ベルクーサス……俺は決めたよ……」
「あはっ♪翔琉師匠♪んじゃ、どうする?俺の仲間になるの?それとも、死ぬ?」
楽しそうに死ぬ?という言葉を使うベルクーサスに向かって俺はハッキリと答えた。
「俺はお前の仲間になることも、死ぬことも選ばない……」
「ほほう♪では、なんだろうね♪答えてみなさいな♪」
「俺は……全てを受け入れることにした。憎しみも、怒りも、悲しみも……前まで俺は、それらの感情をレネンに押し付けていた。結果として俺は、時として暴れまわる多重人格障害になっていた。だけど、俺はレネンのことを意識した結果として、それらの感情を押し付けることを止めた。だから、今こうしてここにいられる……だから、お前の中に眠る……いや、虎族の中に眠る人間に対する怨念は、俺がすべて受け入れよう。その結果死んでしまうならば、俺はそれまでだったということだ……」
「へぇ……♪面白そうじゃん♪じゃあ、ライフ様‼お願いしまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!」
ゾッとするような黒い塊が、ベルクーサスの身体から飛び出ると、ベルクーサスはそのまま気を失ってしまう。
そして、黒い塊は、次第に大きくなっていく。
空間を埋め尽くさんばかりの、その邪悪で不気味な塊は、俺を睨んでいる。
いや、まあ、目があるとかそういう視覚的な何かじゃなくて、なんだろう……威圧感的なやつ?
見られているって感覚が強いんだ。
「……怖い。でも、俺はやるんだ。さあこい!怨念!俺が全てを受けれいてやる!」
そういった瞬間、俺は怨念に貫かれたのだった。
あれから、数日がたった……。
今日は、ある事をしに、俺たちはリュウのいる病院へと来ていた。
治療を受けに、毎日毎日多くの病人や怪我人が溢れかえるこの癒しの泉のリュウの病院で、一番今一番危険な症状で眠りについている少年がいた。
という言い方をすれば、もうお分かりかもしれない。
「さあ、面会可能よ……入って……」
毎度毎度来る度に、目元や頬を真っ赤にしているリュウの姿を見るのは、もうなれてしまっていた。
彼女は俺たちを病室の中へと案内する。
その場所で、穏やかな表情をしながら眠り、身体からは闇が溢れ出そうになりながらも、必死に自身の中へと押し戻している少年の姿があった。
というか、俺の母親だ。
母親とは、普通女の人をさすらしいが、俺は違う。
俺の場合は、親が両方とも男だから、母親らしい方を母親とすることにした。
だから、ここで眠っている男ーーー天野翔琉は、俺の母親だ。
俺の、ジンライの母親だ。
「翔琉ママ……」
俺は眠る翔琉に触ろうとするが、リュウによって弾かれてしまう。
「ダメ!前に触るなっていったでしょ!?今虎族の血が流れてるあんたが触ったら……翔琉が本当に死んでしまうわよ!」
ううう……こんなにも目の前に、こんなにも近くにいるのに……触れないなんて、話せないなんて……。
「リュウ……結果として、翔琉はこのまま目覚めないのかしら?」
と、ディルは聞く。
涙目の彼女にも、容赦なく言われるこの言葉は、病室を黙らせた。
「ええ、このままだと、あと3日で完全に死ぬわ……虎族の怨念の力によってね……」
天野翔琉という男は、凍結された空間内でベルクーサスから離れた怨念という闇に貫かれた。
だが、翔琉はそこまでが計画通りだった。
翔琉は知っていた……自らの肉体が、神すら宿すその肉体ならば、怨念を自らに封じることができることを。
封じることで、翔琉は怨念と正面から向き合おうとしていたのだ。
怨念を自らに封じ、自らの心に侵入させることによって、翔琉は怨念を無害にしようとした。
だが、その計画は余りにも強大すぎた怨念の力によって、翔琉は深い深い眠りに入ってしまった。
虎族の怨念が封じられし天野翔琉ーーー神であるレネンやアマデウスさえも、今の翔琉の肉体には入ることができない。
翔琉の肉体は、あり得ないほどの許容量が存在する。
それ故、昔から神を宿していても平気だった。
普通の生物ならば、神を宿すだなんてことは出来ない。身体の中にある精神の器が、神の力に耐えきれないからだ。
だが、天野翔琉は常人なら耐えきれないその神の力を、自由に扱えている。
それはもはや、人ならざるものと言わなければならないのかもしれないが、翔琉は人間だ。
あくまでも、普通で普通すぎる普通な人間だ。
だからこそ、彼は……母は、眠りについているのだ。
強烈な力を封じた【代償】として……。




