Lastステージ20:怨念の血
俺は非常に怒っている……とだけ、言っておこうかな。天野翔琉としてではなく、一人の兄として……一人の友として……俺はこの国に怒っている。
なんなんだよ!と、本当に誰かにこの感情をぶつけずにはいられないほどに、俺は機嫌が悪い。
目の前の親友が、急に暴れだして、目の前の弟の体を奪ったやつの命を奪おうとした。
目の前の親友は、さらに錯乱して、俺にまで攻撃してきた。
最終兵器?
Blood Life?
知るか!そんなもん!
俺の親友のボルに、どうして俺自らがこんな剣を突き刺さなければならなかったのだろうか……。
あー、本当に嫌だ。
嫌だ。
こんなことしたくなかったのに……。
なにが間違っていたのだろうか?
なにがこうなったらこうなってしまうのか……。
「インドラ殿、それからアスラ殿……事情を説明していただかない限り、私も、翔琉も……この場にいる誰もが、あなたに牙を向くだろう……」
ディルは、そんな俺の気持ちを考えてくれたようで、キレ気味にインドラとアスラを睨みつけた。
さすがはディル……迫力あるな……。
虎獣人の王族でさえも、蛇ににらまれた蛙のような状態である。
「さあ、話してもらおうか……だいたい、最終兵器とはなんなのだ?Blood Life?突然のこと過ぎて、訳が分からない上に、いきなりボルが凶暴で残虐な子供みたいな性格に変貌したことも……全てを語ってもらうまで、逃がさないからね?」
パチン……と、ディルは指をならすと、辺りの空間は時と共に凍結してしまうのだった。
時空間魔法の使い手であるディルならではの、逃走防止手段ということなんだろうな。
まあ、雷属性が得意な虎獣人には、こうでもしとかないと、音速で逃げられてしまうのだろう……まあ、俺は光速で追い付くけどな。
「ひとまず、翔琉……落ち着いて話を聞きなさいよ?感情的にさっきみたいに、叩いたりするのは無しだからね?倒れてるボルを抱き抱えて、大人しく聞くこと……分かったわね?」
ギロリ、とディルは俺を睨む。
はい……言うとおりにします……。
「さて、インドラ殿……まずは、狼牙を返していただこうかな?」
「……それは、出来ぬな……狼牙くんは、最終兵器を止める手段のひとつ……易々と、返すわけには」
「……はあ?」
「いや……だから、易々と返すわけには……」
「……あ?」
「……易々と返すわけには……」
「……」
「はい……返します」
ディルさん、まじぱねぇっす!
睨みとドスの効いた声で、完全に押さえつけやがった……。
ディル……将来、鬼嫁になりそうだな……。
「アスラ……いいな?」
「……仕方がないわね……いいわよ。幸いにも、最終兵器は封じられているみたいだし……」
「よし……ハッ!」
インドラの身体が光ると、インドラの身体が2つに分離する……。
そして、天野狼牙は解放され、その場に倒れるのだった。
それをジンライがすかさずキャッチする。
いっぽう、分離したインドラは、見た目があまり変わっていなかった。
この若々しい姿が元々の姿だったのか……。
いや、それよりも……。
「さあ、インドラ殿にアスラ殿……【最終兵器】……とは、なんなのだ?」
そしてディルは、物語の確信へと針を進める……。
"最終兵器……それについては、私……アスラが語るとしよう。
まず、我々虎獣人の中には……否、血には【怨念】が宿っているということを理解していただこう。
怨念……それはすなわち、呪いのようなものだ。
他者を妬み、他者を恨み、他者に殺意を抱く……。
特に、我々虎獣人にとって、憎むべき存在は人間なのだよ。
かつて、我々を奴隷として扱った種族……それが、人間なのだ。
事の発端は、古くに起きた人間との【最終戦争】によって、ある王族の者が死んだことから始まる。
その者の名前は【ライフ】。気高き【白虎】の兄であり、一族唯一の【黒虎】と呼ばれるほどの、美しい黒い毛並みをした虎だった。
白虎とライフ……白と黒の虎は、それはそれは仲のいい兄弟だった。
二人はすくすく育ち、あっという間に虎族の頂点に立つほどの強さだった。
だが、やがて人間との戦争が始まる……。
いや、人間だけじゃないな。
色んな種族が、色んな手段を用いて、世界を支配しようとしていた……。
まあ、その中には、そこの旧支配者とも呼ばれる【ミコト】殿も戦闘に参加していたとか……。
そして、戦争は人間の勝利で終結し、我々虎族は奴隷として扱われた。
ライフは、そんな虎族を憂いて、ある計画を立てた。
それが、【最終兵器】として、自身を……自身の力を継承させ、いつの日か、虎族が自由になることを望んだという。
だけど、それは当時のライフの力では、エネルギー的に足りないほどの魔法だったという。
今で言うと、天野翔琉様の究極神魔法を発動させるのに等しいほどの力だったそうだ。
だが、それはライフの処刑によって、全てがうまく運んでしまうーーーライフは、人間の単なる遊びによって、処刑されてしまった。
ただ殺してみたかったからーーーその身勝手な人間の考えで、【最終兵器】という魔法は発動されてしまうのだった。
【最終兵器】……それはすなわち、ライフの魂を呼び起こす魔法……の犠牲になった虎獣人のことを差す言葉。
昔々、私の祖先は【血之誓】で、一人の子供を生まれさせた。それが、【最終兵器】として初めて確認された個体だった。
その個体は、母親と父親を殺して、暴れまわったという。
だが、やがて鎮静化させ、封じ込めたんだ。
悪夢はそれで終わったと、虎獣人は誰も疑わなかった。
だけど、悪夢はまだ終わっていなかったんだ……。
私の世代になって、ある時……封じていた【最終兵器】の個体が蘇ってしまった。
私とインドラは、すぐに事態を終結させるために、再び封じようとした。
だけど、出来なかった……。
あまりにも、憎しみの力が強すぎて、私たちが封じる事が最早出来ないと判断して、私たちの子供として監視することにした。
それが【最終兵器Blood Life】……通称ボルだった。
やがて、ボルは己が血の力に飲み込まれて、力が強大になり……私たちの監視から逃げた。
いつの間にか、暗黒魔法教団なんかに入っちゃってたりして、手がつけられない存在になっていた。
だけど、ある人物の介入によって、次第にボルは憎しみから解放されていった……その人物の放った【光の魔法:絶対解除】の力によって、洗脳からも、怨念からも……全てから切り離されていた。
だけど、怨念だけは切り離せただけであって、消滅なんかしていなかった……。
ボルの中に残留した、その怨念はゆっくりと確実にボルを蝕んでいったんだーーー。
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