1stステージ30:神魔法の真の力
精神の器が完成して、俺の神魔法は完全なものになった。
器は完成して魔法の威力が強大なものになった気がする。
しかしながら、慢心してはいけない――――この力は、凶器に使う物でもなければ、世界を支配するために使うものではない。
この力は―――誰かを守るために使うものである。
決して、私利私欲では使ってはいけない。
神魔法は、使う者の心に作用して、力を発揮するという。
優しき心を持つ者が使えば、幸せを呼ぶ。
悪しき心を持つ者が使えば、破滅を呼ぶ。
それが神魔法。
一歩間違えれば、世界さえ滅ぼせる代物を、中学1年生の俺が持っているのも、不思議なものであるが――――まあ、御愛嬌という事にしておこう。
そんな神魔法を前回、この世界における最強クラスの魔導士たちに使用し、見事完全勝利した。
修行であったとはいえ、一本とってやったぜ。
「いたたたたた……本当に、手加減が無いわね」
とディルは、痛そうに腰を抑えながら俺に言った。
まあ、気持ち悪い、とか言った罰だろ。
ざまあみやがれ。
「あ、翔琉、今ざまあみやがれって思ったでしょ? 顔に書いてあったよ」
おっと、顔に出てしまったか。
これは失敬。
「しかし、驚きだよな―――これほどの威力とは」
とライは感心して俺を見ている。
俺も、まさか神魔法がこんなにもすごいとは思わなかった。
いや、すごいことは知っていたのだが、実際に気を失わずに使えたのが、自分的には驚いていた。
精神の器―――魔法を使う際に、負担を減らすことのできる心の器。
それが完成した今の俺って、無敵なんじゃね?
おっと、慢心は良くない良くない。
あくまでも、この力は守るためのものである。
「しかし、神魔法って言うのは、あんな光属性最強の魔法を、ポンポン出せるものなのかね?」
とエンが尋ねたのだが、俺は答えられなかった。
それに答えるだけの材料を持っていなかったからだ。
ただ、光天神を発動しているときは、頭の中に声が響くのだ。
魔法の声―――というべきなのだろうか?
どちらかと言えば、アナウンスに近い。
次に出したい魔法をイメージすると、その魔法の名前が聞こえる。
俺はそれを、口に出したり、心に思うことによって発動できているのに過ぎない。
まあ、これはあくまで、神魔法を使っているときだけなのだが―――他の魔法を使うときには、ディルに教わったものを、そのまま使っているだけだし。
「俺たちも神魔法使ってみたいよな~」
とライは言った。
にんまり、とした顔で。
リュウも、同様の顔をして
「あたしも、使ってみたいな神魔法。 なんか、翼生えるって格好いいよね♪ まさに、戦闘するスタイルじゃない?」
と言うのだ。
戦闘狂――――そういえば、彼女は無類の戦うことが好きな女性であった。
リュウが神魔法を手にしたら、どうなってしまうのか、想像するだけで怖い。
「じゃあ、神魔法を貸し与えることって出来ないかしらね?」
とディルは徐に、唐突に言った。
全員が唖然とした表情で彼女を見つめていた。
ディルは、慌てて口を塞ぎ
「ごめんごめん、今言ったことは忘れてよ」
と、てへっとした表情で言うのだが、俺はすごく面白い考えだと思った。
―――だから、早速試してみようと思った。
「ディル、ちょっとこっちに来てくれる?」
そう俺が言うと、ディルは何事だろうと、不思議そうな顔をしていた。
こいつ天然か?
さっき自分が言った発言忘れてんのか?
そんな事を思いながら、ディルの手を握った。
「ちょっと……翔琉! 何してるの?」
ディルは照れているようで、顔が赤くなっていた。
そして、その後ろでリュウとライ……そして、ヒョウが凄い顔で彼女を睨んでいた。
ん?ヒョウ?
ああ、嫌な予感はしてたけど、もしかしてヒョウって……
とか思っていると
「何、翔琉君の手を握ってらっしゃるのよ……ワタクシが握って差し上げたかったのに……そして、そのまま婚姻したかったのに……結婚したいのに……ラブラブしたいのに……」
とブツブツとヒョウが言っているのが聞こえた。
やっぱり、ビンゴですね。
はぁ……これで、3人目か……
まあ、今はそれより、こっちが重要か。
「…………!」
俺は、ディルに神魔法を渡すイメージをした。
手を伝い、彼女の中に神魔法を送る―――
そんなイメージをしたところ、彼女の背中に小さな翼が生え、うっすらと光が彼女を包み込んだ。
他の見ていたみんなや、ディルは驚いていた。
絶句である。
ディルは自分の手や足や、翼を見ていった。
「天使みたいね、私」
そのリアクション……お前にはがっかりだよ!
神魔法―――まだまだ未知の多い魔法であるが、今日1つ分かったことがあった。
神魔法は、任意の相手に、一時的に貸し与えることができる、というものだ。
あの後、ディルが発動していた神魔法:光天神は、15分程で切れた。
そしてディルは、気を失ってしまった。
神魔法の反動―――らしい。
すぐに目を覚ました彼女は言った。
初めて、神魔法を使ったので、思った以上に消費が激しかった―――と。
3人の太古の魔導士であり、精神の器も完成している彼女ですら、神魔法の反動はキツいと語った。
それを聞いたホルブは、懐から、とある眼鏡を取り出した。
この眼鏡は、秤眼鏡と言うもので、相手の精神の器の許容量を調べることができる魔法の道具である―――とホルブは説明した。
「これで、神魔法を発動する前と、発動した後を測れば神魔法の消費を数値化できるんじゃないかと思ってのう……」
と、彼は徐に眼鏡を着けて俺を見た。
すると、彼は驚いていた。
そして、恐る恐る口を開いて
「これは……信じられん……そんな馬鹿な!」
と言うのだ。
人を見てバカとは何事だ、と苦言を呈したいところではあるが、ホルブはいったい何を見たのだろうか?
「翔琉……お主本当に、人間か?」
失敬だな。
俺は人間だぞ!
「いったい何が見えたんだよ?」
と、渋々聞くと、ホルブは答えた。
自分の常識から外れていたことを、洗いざらい―――
「一般的に、普通の魔導士の精神の器は5000~7000とされておる……そして、儂ら7人の大魔導士や、暗黒賢者レベルとなると、100000~300000位が平均になるのじゃ。 そして、ディルの場合は500000なのじゃが……翔琉。 お主の精神の器は、群を抜いて異常なまでに高い。 儂はこれまでの人生において、こんなに大きな精神の器の持ち主を見たことがない……」
「え? そんなに凄いの? ちなみに、数値だといくら位?」
ゴクリ、と生唾を飲んでからホルブは答えた。
「翔琉、お主の精神の器は……1000000……つまりは、儂らの10倍じゃ……」
「「10倍!?」」
全員が声を揃えて言ってしまうほど、驚いてしまった。
俺の精神の器は、恐ろしいほど高いらしい……これはびっくり。
「じゃあ、次は、神魔法を使ってみてくれい」
とホルブは、どうにか冷静を取り戻そうと、平然に振る舞ったのだが―――再び、驚いてしまった。
「‼ これはまた、驚きの連発じゃわい。 心臓が2つ……いや、3つ欲しいくらいじゃわ……」
またかよ。
今度は何を見たんだ?
「神魔法……まさか、これだけ消費するとは……恐れ入った。 普通の魔法ならば、500や、1000なのに対し、この魔法は50000……通常の100倍、と言うことか……」
なるほど、それだけ一気に減れば、気を失ってしまうのも納得できる。
ディルの場合、さっきの戦闘訓練の魔法に加えて、この空間を作り続けている分もあるから、余計に消費してしまい、気を失ってしまった―――という感じではないだろうか?
「しかし、翔琉ちゃんが、どうしてそれほどまでに、器が大きいのかしら? 異世界の人々は、みんなこのくらいの数値なのかしら?」
「さあ? 俺にも分からない。 たまたまだったんじゃないかな? それくらいしか、今の段階で説明できる材料がないと思うよ」
まあそうだけど……、とリュウは首を傾げている。
いったい、何がどうなっているのか……全くといっていいほど、誰にも分からなかった。
ただ1つ言えるのは、神魔法を他人に分け与える事ができる魔法である、と言うことに限るだろう。
余談ではあるが、神魔法は使用者の最も得意な魔法の属性に左右される。
炎属性ならば、炎天神。
水属性ならば、水天神。
雷属性ならば、雷天神。
闇属性ならば、闇天神。
氷属性ならば、氷天神。
風属性ならば、風天神。
地属性ならば、地天神。
そして、光属性の光天神。
この後の修行は、俺が大魔導士たちや、ボルにひたすら神魔法を貸し与えた、状態での厳しい戦闘訓練だった。
初めはやはり、みんな気を失ってしまったが、すぐに上達して自分のものとして動けるようになっていった。
神魔法による、戦闘訓練は、戦闘経験の少ない俺にとっては有意義なものとはなった。
しかし、俺は少し怖くなってしまった。
神魔法が貸し与える事ができる……と言うことは、俺が悪い奴等に捕まったら、ほぼ無限に神魔法を使える戦闘員を作れるということではないだろうか?
戦争の道具として使用されてしまうかもしれない恐怖―――しかし、その反面、それを阻止してくれる仲間がいることを改めて確認できたところで、このディルによる地獄の修行は幕を閉じたのだった―――




