Lastステージ17:兵器の誤算
" ボルとはいったいなんなのか……それは、はじめて生み出された最終兵器だ。
彼は産みの親である、英雄と姫を殺害したあと、いくつもの人間の国を滅ぼし、残虐し、虐殺した。
大人だろうが、子供だろうが……。だがそれは、人間たちが虎族に行った行為とほぼ等しいものだった。
いや、むしろそれに比べれば、全然生易しい物であった。
時として人間は、虎族を見せしめとして殺し、時に弄び殺し、なぶり殺していた。
それらに比べれば、ボルは、殺す相手を即死させていたので、まだ苦痛が続くような残酷な殺し方はしていなかったが、それでも人を殺した。
その事に危機感を覚えた人間は、当時の虎族族長【レイジング】、そして当時の虎族最強の戦士【エレクトロ】に討伐を依頼する。もちろん、虎族としては積年の怨みを晴らす機会であったので、拒否しようとした。
だが、人間たちは一方的な圧力をかけて、虎族たちに強要した。虎族は仕方がなく、討伐を開始する。
討伐しなければ、彼らが人間によって滅ぼされてしまうと……脅されたからだ。
「うふふふ☆みーんな、みーんな、死ねばいい♪恨め、憎め、妬め、苦しめ☆」
始まりの塔の上で、ボルは人間を見下しながら殺戮方法を考えているところを、討伐隊に発見される。
ボルは同じ虎族ならば、だれもが憎しみなどを理解してくれると思っていた。
虎族ならば、この底知れぬ痛みを理解して、人間たちへと復讐することを手伝ってくれると信じていたーーーだが、その願いは叶わなかった。
ボルは、虎族王族の雷虎魔法によって、封じられてしまった。
力も、能力も……。
だが、記憶だけは残っていた。記憶さえ、残っていれば、大丈夫……そう思っていた。
だが、すぐにそれは変わる。
人間の中に、記憶を操るものがいた。そのものによって、記憶までも封じられてしまう。
そして、ボルは巨大な雷の水晶の中に閉じ込められた。
何年も……何十年も……何百年も……。
血之誓によって生まれた生物に、寿命という概念は存在しないーーー故に、ボルは成長せず、老化せず、不老のままに、年月だけが過ぎていった。
いつか目覚めるかもしれないボルを見守るために、代々と虎族は密かにボルの存在を継承していく。
もしもの時のために……。
そして、ボルはある日目覚めた。
そこにいたのは、【インドラ】と【アスラ】だった。目覚めたボルは彼らにこう呼ばれた……「最終兵器」と。
「最終兵器Blood Life……虎族古の歴史が生み出した魔法兵器……」
「……でも、まさか私たちの時代に目覚めてしまうとは……インドラどうしよう?」
「心配するなアスラ……こいつは、力を失っているんだ。だからこそ、俺たちが正しいことを教えられるように、きっちりと教育してやればいいのさ」
「そうね……そうだよね……お腹の中の、この子のいいお兄さんとしてね……」
ボルは理解した……この二人は、あの時自分を封じた【レイジング】と【エレクトロ】の子孫なのだと。
そして、この二人は、自分を封じきれなくなって目覚めさせてしまったのだと。
しかし、ボルは、目覚めた直後の影響で、記憶が一部混乱していた。殺人……親……なんだか、よくわからずにごちゃごちゃになってしまった。結果として、自分がなんで存在していたのか……最終兵器とはなんなのか……それさえも忘れてしまっていた。
だが、1種の強い衝動があったーーーそれは人間に対する【怨み】だった。
人間を殺すこと……人間を殲滅させること……それが、自分の目的のように感じていた。
それを感じ取ったインドラとアスラは、彼らへとその怨みを向けさせることによって、ボルの中のそういった衝動を消そうとしていた。
だからこそ、偽りの記憶を与え、態度を変化させた。
その結果として、家庭環境を崩壊させてしまうことになったのだが、世界を救うためならばーーーと、インドラとアスラは喜んで身を捧げた。
なにも知らないライは、すくすくと成長して、なにも知らずに、ボルを兄だと思い込んでいた。
だが、兄から愛情と表した暴力を与えられ、やがて兄としての意識を失うに至るのだった。
人間たちの奴隷制度廃止ーーーそれにより、現在の【タイガーランド】は建国された。
だが、インドラとアスラは、その建国関係のために、ボルから目を離してしまった。
結果として、最終兵器は逃走した。
逃走して、逃走して……人間たちを虐殺できるところを探し求めていた。
その結果が【暗黒魔法教団】、その結果が【戦争】だったのだ。だが、皮肉にも、その暗黒魔法教団にさえも裏切られ、ボルは操られてしまう。
兵器らしくーーーそして、心を持たない人形のように……。
そして、戦争終結後、ボルは身を隠した。
力を蓄えて、人間どもを皆殺しにするために。もはや、ボルにとって人間は殲滅させるだけの、生物にしか見えなかった。
殲滅して、全滅させることーーーそれが、強迫概念として、あったからだ。
 
そんな、ボルの運命は、ある人物の登場で変わった。
龍族の聖地とされる【地獄炎瑠】……かつて、ボルはここで、闇の大魔導士ホルブを監禁して、龍族を瀕死に追いやった。それは、そうすることで世界魔法連合とかいう組織の上の連中が、再び戦争を起こすと思ったからだ。
その読み通り……世界魔法連合の人物たちは、彼の地へとやって来た。これを火蓋として、戦争を始められるーーーそう確信していた。
だが、違った。
そこにいたのは、世界魔法連合に所属していない人間だった。人間の男の子だった。
「あいつは人間だから、殺してしまおう☆」
そうボルは思っていた。
だが、兵器は読み間違えたーーーその少年【天野翔琉】の強さを。
圧倒的力の差……それを、彼は思い知った。絶対に勝てないと……。
そして、闇の大魔導士によって、更に能力を封印されてしまう。幼くされたボルは、天野翔琉殺害を計画する。世界魔法連合のTOP陣ですら敵わない圧倒的強さを持つ彼さえ葬れば、他の連中などはどうにでもなるからだろう。
幸いにも、子供姿のボルにとっては好都合と言える状況だった。子供姿ならば、どんなやつでも油断する……。
だが、天野翔琉は違ったのだ。
いやまあ、パラメーターだけで見ても他者とは違うのは歴然なのだが、それよりもその心持ちだ。
人間のような無粋で愚かな生物を何人も何人も殺してきた兵器は、初めて目にする。
優しさを当たり前のように周りに振り撒くその人間を……。
あまりにも眩しすぎたボルは、決心する。
「この男は危険だ……今夜中に殺そう……」
そして、ボルはあの海沿いの別荘で、暗殺を謀ることになる。
だが、肝心の天野翔琉は、外の浜で海と夜空をライと共に眺めていた。
だが、ライは居なくなり、やがて一人になった天野翔琉……。
チャンスだと、ボルは思ったことだろう。
だけど、天野翔琉は全てお見通しだった。
ボルが演技していることも……ボルが自分を殺そうとしていることもーーー。
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