Lastステージ14:白虎殿⑤
インドラの妻にして、この国の王妃……そして、ライとボルの母親にして、ジンライの祖母にあたるこの白くて美しく高貴で気の強い虎獣人アスラ。
その彼女は、夫インドラと、世界最強の魔導士である天野翔琉の間に平然と立っていた。
そして、辺りはシーンと静まり返っていたのだ。
「……ふぅ。どうにか間に合ってよかったわ」
と、静まり返る場の中で、アスラは胸を撫で下ろす。
まるで、この次に何が起こるかーーーそれをすべて把握しているかのように。
「……さて、天野翔琉様。始めましてですね。私はアスラ……虎獣人族王族の正統後継者をさせていただいておりますわ。以後お見知りおきを……」
そう言ってアスラは丁寧にお辞儀をする。
礼儀正しいというか、空気が読めてないというか……。
なんというか、突然のこと過ぎて、俺はインドラへの攻撃を中断せざる終えなかった。
このまま勝手に攻撃すれば……仲間たちからは嫌悪されるだろう。敵意を見せていない相手を無視した攻撃というのは。
まあ、話を聞いてからでも遅くはない。
幸い、インドラも逃げれない雰囲気だからな。
「始めまして。俺は天野翔琉。普通で普通な神域魔導士……」
「存じ上げております……いつも、うちの息子であるライとボル……そして、孫のジンライがお世話になっているとか……」
「アスラさん……早速で悪いんだけど、インドラが俺の大切な弟を誘拐したみたいだから、返してほしいんだけど……いいかな?」
「……天野狼牙さんの事ですね」
なんだ、知ってるのか。
って、え?
「じゃあ、あなたは知っていたのに何も手を打ってなかったんですか?」
「はい?」
「いや、惚けるなよ。あなたは、天野狼牙が誘拐されていることを知っていた……それなのに、こうなる前に何も手を打たなかったのか?」
「はい。そうですよ。全ては計算通り……私の読み通りですから」
アスラは、にこりと微笑む。
はっきり言って、俺は不快だった。
ここまで現状を読めていたなら、何故止めなかったのか……。
いや、いまさら魔法が使えるこの世界で、未来さえも魔法で見えるこの世界で読み通りと言われても、特に驚きはしない。
だが、ここまで読めていたならば……。
「読み通りならば、何故止めなかったんですか?アスラさん」
「……」
俺の質問に対して、アスラは固く口を閉ざしてしまった。
答えたくないのか?それとも、答えられないのか?どちらにしても、そんな事より狼牙を助け出すことが先決だ。
「……答えたくないのならば、そこをどいてください。俺は、狼牙とインドラの融合を解除させますんで……」
「それはなりません‼天野翔琉様……それだけは、させるわけにはいきませぬ‼」
「じゃあ、何故それがダメなのか……教えて頂けますか?」
「そ、それは……」
気のせいか?チラッと、アスラはボルの方を見たような気がする。
だが、すぐに目線がこちらに変わる。
「ダメです!秘匿事項です。天野翔琉様……あなたには、孫のジンライの親であるあなたには、こんなことをしたくなかったのですが……仕方ありませんね……」
「???」
「眠ってください」
「‼」
アスラは、いつの間にか俺の後ろに立っていた。
そして、手から白い雷を俺の首もとに放つ。
ビリビリっとした瞬間、俺の意識は闇へと消えた……。
と、普通はなるんだろうな。
「んー?アスラさん。眠らせようとしたんなら、無駄だよ?」
「‼バカな!何故、雷が効かないの!」
「アスラさん……俺はね、魔法耐性が異常に強いんだ……だから、いくら雷だろうとも、魔法である限り、俺には効きにくいよ……それに、今神魔法状態だしね」
美しく広がる神々しい、翼。
アスラはその姿をどう見ているのだろうか。
天使かな?
それとも、ノクヤみたいなーーー悪魔かな?




