Lastステージ12:白虎殿③
この国の王様は傲慢である。
昔読んだ、童話に出てきた王様のように、傲慢で偉そうで、そして酷い王様だ。
自分の息子を雑に育て、トラウマを植え付けた。
自分の息子を間違った価値観で育て、悪の道へと進ませた。
そして、自分の孫を道具のように、玩具のように扱った。
そんな彼にふさわしい攻撃だろ?
足蹴に扱うと言うことはーーー。
辺りは騒然としていた。
そりゃそうだろうね。なんせ、目の前で王様が蹴り飛ばされて、壁にめり込んだのだからーーー。
「ふう……少しスッキリ♪」
と、俺は蹴り終えてすごい満面の笑みだったと言う。
辺りは唖然としていたが、すぐにインドラは壁から這い出てきた。
流石に狼牙の身体を奪っている故に、あまりダメージは通っていないようだった。
「……これはなんのつもりだ、イミナ‼」
そうインドラがいうと、出席者たちは俺を一斉に取り囲む。
なにせ、ここにいるのはVIPばかりーーーしかも、全員か戦闘能力が高いやつらばかりだ。
「我々の目の前で好き勝手はさせないぞ!」
「そうだ!我々が束でかかれば、いくらコロシアムの優勝者と言えど、ただでは済むまい?」
偉そうなことを平然と言うな……。
実力者ぶってるわりには、女装してる俺に未だに気がつかないなんて、おかしいだろ。
「花魁にしてやろうと思ったくらい、いい女なんだがな……」
黙れトルネ。
おっと、心の声が……。
「おい!目的を言え‼」
インドラは苛立ちながら、目を真っ赤にしてそう言う。
あらら、めっちゃキレてるの?
やれやれだぜ。
「なんの理由……ともうされましても、単にムカついたから蹴っただけですよ?偉そうにふんぞり返っている王様を……」
そう言って俺はにこりと微笑む。
まあ、実際にそうだしな。
ジンライのことを玩具のように扱った時点で、即座にこいつはヤバイと思った。
発言から、ある人物を連想してしまったからだ。
今は改心した……改神した、かつての邪神アマギのような、危険さが、どうしてもインドラからは感じてしまうのだ。
だからこそ、怒りを理由にして俺はインドラを蹴り飛ばしたのかもしれない。
先手必勝……後手を踏めば、とんでもないことになる……そんな気がしたのだ。
「ふざけるな!お前のようなアバズレ女なんかが、私に手を出したらどうなるか……」
「どうなるんですか?」
「ふふん……こちらには切り札があるんだ……世界最強の魔導士である【天野翔琉】というやつがな‼」
ん?
ん?ん?
ん?ん?ん?
「はぁ?誰?もう一回言ってくださる?」
気のせいか?
今、俺の名前言わなかったか?
「天野翔琉様だ!私の孫の母親……つまり、私は天野翔琉の義理の父親だ‼だからこそ、彼は私に……」
「はっはー……なるほどなるほど……」
そう言うことか。
だからあいつ強気なのか……。
「あれだ、じゃあここにいるVIPたちは、インドラ陛下が天野翔琉の義理の父親だから、交流があれば、天野翔琉の力を貸してもらえるとか……そう言う目的で、そう言う政治的目的で来てるわけか……」
俺はそう言って笑っている。
笑わずにいられるか……だって、自分をだしに使われていたんだ。
知らぬまに、知らないところで、興味のない虎に……いいように名前を使われてしまったんだ。
「そうだ!我々には天野翔琉殿がいるんだぞ!」
「あんたなんか、翔琉様にやられてしまえばいいのよ!」
「それに、連合のトルネ様もおいでなのだ……翔琉様とかつて世界を救ったトルネ様から翔琉様にお声がかかれば、翔琉様はお前を討伐するぞ!」
「「そうだそうだ!」」
こりゃあ、まずいな……。
あ、いや。
別に戦力で見れば、圧倒的に俺が勝つに決まっている。
だけど、よりによってこの世界における政治で、異世界出身である【天野翔琉】の名前が使われていることがまずいのだ。
影響力が強すぎた……どうやら、俺の名前は……俺の存在は、この世界の住民にとっては、俺の世界で言うところの核兵器に相当するようだ。
究極の抑止力ーーーそれが、今の俺というわけか。
「翔琉様の神魔法でお前なんかイチコロだぞ!」
「そうだそうだ!あの方は、神様や悪魔にさえも勝てる人にして、人ならざる力を持つお方……」
「そんなやつ相手にして、お前はただですまねぇーぞ!」
「「お前なんか、瞬殺だ!」」
気に入らないね……。
「うーん、気に入らない。気に入らない。気に入らない。まず第一にお前らのその態度……傲慢すぎるね。その天野翔琉くんを兵器か何かだと勘違いしていないか?彼は人間だぜ?ってか、どうせ異世界出身なんだから、いずれ世の理を守るために異世界に帰るんだぜ?それなのに、平然とそんなやつを頼ろうとして、恥ずかしくないのか?」
俺は諭す……彼等が、間違った認識をしないためにも。
だが、彼らは聞く耳を持たない。
そりゃそうだ。
俺は今や敵扱いされているのだから、そりゃあ敵の言葉に耳を貸すやつなどいないだろうて。
「はん!だからなんだ!?」
「そうよ!負け惜しみを言うんじゃないわよ!」
「偉そうにしやがって!俺様たちは、その辺のやつらより偉いんだよ……それなのに、貴様のようなやつがいるから……」
「「早く天野翔琉様にやられろ!!」」
もうだめだね。
言葉が通じないーーー。
言っても分からないなら、お仕置きするしかないね。
全力で。
「もうひとつ、いい忘れていたことがあった……結構肝心なんだけど、聞きたい?」
「「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」」
俺は最終警告をしてあげた。
だけど、彼らはそれを無視して魔法攻撃をしてきた。
光の槍、炎の槍、水の槍、雷の槍、闇の槍、風の槍、地の槍。
それらは、無情にも俺につき刺さりそうになる。
だが、その瞬間、それらの魔法はかきけされた。
というか、かきけしてやった……。
「光の魔法:絶対滅亡操作……」
魔法を拒否する魔法ーーーその発動により、魔法は消え去ったのだ。
そして、俺にかけられていた魔法も同時に解ける。
その瞬間、早着替えで元の服装へと俺は戻る。
誰もがその存在に唖然としていた……。
開いた口が塞がらなかった。
さんざん罵って、好き放題言っていた相手が、抑止力として名前を勝手に使っていたその名前の主だったのだから。
俺は改めて自分の名前を名乗ることにした。
やはり、始めましての人もいるようだからなーーー礼儀として、名乗ろう。
「始めまして。俺の名前は天野翔琉。普通で普通すぎる人間にして、神域魔導士と呼ばれている。よろしくな……」




