1stステージ29:神魔法の本領
目が覚めた。
喉元を触るが、別に異常はなかった。
どうやら、精神世界での傷は、現実世界には影響しないようだ。
ついつい、格好つけるために、喉にガラス片を刺したのはいいものの、死んでしまったらどうしようかと思った。
後先考えずに行動するのは、これっきりにしなきゃな。
「ん……あ……起きた」
上半身を起こすと、ボルとホルブ、そしてディルがこちらを見ているのがすぐに目に入った。
「よかった、器が完成したのね」
そう言ってディルがこちらに歩み寄ってきた。
「全く、心配したんだから――――」
お?
珍しく、心配してくれたのか?
なんか、女性らしくて、かわいい……
「――――失敗してたら、2度と目覚めなかったんだからね」
え?
ええ?
ちょっと、待って
だいぶ、待って
え?
「それってどういう事?」
と聞くと、ボルが答えた。
「ああ、精神の器は、完成させるために自分自身と戦うんだけどさ、もしその勝負に負けた場合は、2度と目覚めない。 もし目覚めたとしても、もう2度と魔法は使えなくなっていたんだ―――」
え?
そんなリスクがあるの?
「だからさ、そういう危険な事は、最初から説明してくれよ―――」
とほほ……。
「さて、翔琉も目覚めたことだし―――全員で、乱戦でもして実戦経験を増やしましょうか♪」
寝起きで、乱戦?
出たよ……ディルの鬼教官ぶり―――
全ての魔導士と全力で戦う実戦修業が始まった。
炎・水・雷・闇・氷・・そして光の属性の攻撃が飛び交う。
「おら!炎の魔法:陽炎星!」
エンの攻撃。
溶岩の雨が降り注ぐ。
さながら噴火のような勢いだった。
それを見たリュウがすかさず
「水の魔法:水滝流」
水が新体操のリボンのようになり、リュウの動きに合わせて華麗に舞い、陽炎星をはじく。
そして溶岩は水流と共に、流れて消えていった。
安心したのも束の間―――
「雷の魔法:落雷稲妻」
とライがいうと、雷の雨が降る。
スーパーセルより、酷いこの大嵐。
雷が、激しい音と共に流れ落ちる。
みんな各属性でこの攻撃をガードをするが、ガードするだけで精一杯だった。
しかし、ここでボルが大きく出た。
「隙あり、空間の魔法:断罪」
そういうとボルの上空に、これまでのみんなの攻撃が苦手とする属性の攻撃となって、ボル以外の全員に襲い掛かる。
弱点属性―――という事で、みんなはガードをせずに、回避に専念していたが、ディルがその魔法に向かって
「時の魔法:逆時!」
と言うと、魔法攻撃が、時間を巻き戻して、ボルの攻撃は消え去ってしまった。
完全に巻き戻されてしまったようだ。
「やるな!」
「あんたもね」
何やら通じ合ったような顔をして、ディルとボルは睨みあっている。
さて、そろそろ。
俺がここで、魔法を繰り出す事にしよう。
精神の器を完成させた状態の今―――あの魔法を。
「神魔法:光天神!」
そういって、俺は光天神を発動させる。
神々しく輝く翼と、全身を覆う光―――光天神の発動した証拠である。
発動と同時に、全員が1か所に集まってしまっている。
どうやら、彼らは結託して、俺だけを狙うようだった。
「やべえのが来たな!」
「翔琉ちゃんを集中攻撃した方がいいわね!」
そう言って、リュウ達は、四方八方から、俺に向かって攻撃をしてきた。
舞うように、鮮やかに躱していたのだが、空間の隅まで、追いやられてしまった。
そして全員からの一斉攻撃が来た。
大人げないな―――
「光の魔法:輝天鏡!」
といい、俺は自身の周りに光の鏡を発生させた。
輝天鏡は、全ての攻撃を光属性に変換して、10倍に威力を上げて、全員に攻撃する魔法だ。
攻撃は全員にあたり、空中に浮かぶ俺以外は地に伏せていた。
「まじかよ・・うち、あんなの見たことなかった」
「翔琉……強すぎるだろ―――」
「流石は、俺の運命の人……」
「ここまで、神魔法を扱えるだなんて――――気持ち悪い才能」
「翔琉ちゃん、さすがね―――――」
「翔琉君、これほどとは……」
「儂の魔法でも吸収しきれんとは―――末恐ろしい小僧じゃのう」
と全員が愚痴をこぼす。
またディルが、気持ち悪いって言いやがったな。
もうこうなったら、あの魔法を使ってやる。
とっておきの切り札。
最終奥義を――――
「我―――千載一遇を運命の籠へといざなうとき――――」
呪文詠唱を開始と同時に、ディルが慌てふためく。
「その魔法は! いつの間に! みんな、翔琉の詠唱を止めさせて! あれは光属性最強の攻撃魔法の発動させるものよ!」
「「何!」」
全員が俺に向かって攻撃を仕掛けるが、一歩遅かった。
攻撃はかき消され、神々しく生える翼が広がった。
そして―――
「―――東西を照らす太陽となる! 光の魔法:神之憤怒!」
その瞬間、俺の背中の翼から光の波動が出て、周囲を攻撃する。
さながら、ビームのような光弾が、俺以外の全員に襲い掛かった。
そして、光が止む頃には全員倒れていた。
俺は、全員に状態異常回復魔法と体力・傷の治療魔法をかけた。
しかし、いまだに全員倒れこんでいる。
傷は取りあえず癒した。
そして、回復魔法を使用した後、光天神が切れた――――器が出来ていたので、気絶どころか、息切れも無かった。
器が完成していると、ここまで違うものなのか。
凄いな、精神の器―――凄いな、神魔法――――




