表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法世界に来てしまった結果、最強の魔導士になってしまった  作者: ただっち
オールドア編:第3章‐進化するべき時‐
29/349

1stステージ28:精神の器

 夜も更け、完全に辺りが暗くなった時、突然ディルは言った。


「修業をしましょう――――」


 その言葉に、多くの者の頭によぎったのは、ディルの地獄の特訓――――鬼のような、辛くて厳しいが、短期間で力を伸ばす方法。


「突然どうしたの? ディル」


 ヒョウは、尋ねる。

 その悪夢をよみがえらせるような、拷問を―――何故、この段階で行うのか。

 そして、その意味とは―――。

 ディルは静かに口を開き答えた。


「そんなもの、決まっているじゃない――――翔琉が神魔法を完全に自分の物にするためによ」

「え? でも、翔琉君は自分の意志で、魔法を扱えているんだから、会得していることに変わりはないんじゃないのかしら?」

「ええ、まあ。 あの気持ち悪いほどの才能で、最初から覚えていたのだから、まあ会得しているとは言えるのだけど――――」


 また気持ち悪いって言いやがったな。

 あんまり、言いすぎると、センチメンタルな気分になってしまうぜ、俺。


「―――あの魔法には、翔琉が使用後に気を失ってしまう、と言う明確な弱点がある。 それは、才能だけではどうしようもない、魔法を使うための器が、まだ未完全だから起こる現象なの」

「―――じゃあ、その器を完成させるのか? これから?」

「その通りよ、ライ。 もう神魔法を隠していても、別に仕方がないのだし、事あるごとに翔琉が使いたがるし――――」


 ディルがこちらを睨んでいる。

 目が怖いよ、だから……。


「―――それに、神魔法を相手に、私たちも戦えば、基礎戦闘能力の向上にもつながるし、翔琉にはいい経験になるわ。 だから、やりましょう―――地獄の……」


 と言いかけて、ディルは言いかえた。


「――――楽しい、修行をね♪」


 笑顔で彼女は言ったのだが、どうにも信用できない笑みだし、さっき絶対、地獄の修業って言いかけなかった?


「という事で、今から5分後に、全員外に出てきてね、準備しておくから」


 ディルはそういって、外にかけて出ていった。

 気が早い、と言うか、本当にせっかちだな―――

 周りをよく見ると、ライは震えて、エンは椅子の下に隠れ、リュウは部屋の隅で固まっているし、ホルブは持っているコップのお茶を飲もうとするが手先が震えてうまく飲めなくなっているし、ヒョウはビクビクと震えている。


「みんな……ディルの修業苦手なんだな――――」


 と俺が言うと、見事なコンビネーションで頷いた。

 声を出さずに、ここまで合わせられるとは、驚いた―――


「なあなあ、翔琉―――」


 とボルが、袖を引っ張って聞いてきた。


「――――そんなに、厳しいのか? ディルの修業って」

「ああ、そりゃあ――――そりゃあ……ガクガク」


 震えが止まらなくなった。

 思い出しただけで、背筋が凍りそうだ―――

 よく俺耐えていたな。


「翔琉、大丈夫か?」

「う……うん。 だ、大丈夫だよ」


 そんなこんなで、トラウマと向き合う時間はこれで終わりだ。

 そろそろ、約束の5分後になる。

 俺たちは、外へと動きたくなさそうにしている足を、無理矢理動かして、ディルの待つ外へと向かった。

 さあ、修行トラウマの時間だ。



 外へ出た瞬間、景色は無になった。

 無、と言う表現では、いささか説明が足りないようなので、もう少しわかりやすく言えば、白色の空間である。

 先ほどまで作ってあった、砂のディズニーランドや、海や浜すらなく、あったのは白い空間。

 白くて。

 何もなくて。

 虚しい空間。


「ここは、私の時空間魔法で作った超空間よ」


 空間の真ん中にポツン、と立っているディルはそう言った。

 そうか、ここはディルの作った空間。

 つまりは、あの5分の間に、ここまでの空間を作ってしまったという事なのだろう。


「修行で、器を鍛えると言っても、普通にやったんじゃ、時間がかかっちゃうからね――――だから、この空間は外の時間では3分後に解けることになっている。 暗黒魔法教団の動向も気になるからね」

「外で、3分? じゃあ、その間に修業を終わらせなければならないのか?」

「―――まあ、慌てなさるなよ、翔琉。 私が、空間魔法の他に、時間魔法も使えるのを知らないの?」

「じゃあ、まさか―――」

「そのまさか♪ この空間は、外の空間からは、かなり時間的に特殊な状態でね、この空間で3日経たないと、外では3分経ったことにはならないんだよ」


 という事は、地獄の修業が3日も続くのか?

 恐ろしや―――


「まあ、翔琉。 あなたは、その前に―――」


 そう言って、俺を引っ張り、ボルを引っ張り、ホルブを引っ張り、空間の隅へと連れ出した。

 そして、彼女は言った。


「あんたは、ここで2人に、闇属性の魔法を教えてもらうのと同時並行で、精神力の器を完成させなさい」


 目が怖い。


「―――はい! 分かりました!」


 それはとてもいい返事だったという―――



 こうして、7人の大魔導士の闇のエキスパートと、元暗黒賢者の闇属性使いの、異色の先生コンビが、俺に闇属性の魔法をレクチャーしてくれることになったのだ。

 ある意味、この世界でも屈指の使い手である、彼らに教えを乞うことが出来るというのは、すごいことなのではないだろうか?

 俺の世界で言うところの、ノーベル賞を受賞した科学者や教授に、勉強を教えてもらう並の事である。

 そして、そんな偉大な先生であるところの、ホルブは、まず魔法を使う際の基礎中の基礎からレクチャーしてくれた。


「各属性には、発動させる時のイメージにコツがある。炎は燃やし尽くす、水は波紋を、雷は雷鳴を、闇は黒く染まるのを、氷は凍結させるのを、風は突風を、光は闇を照らす輝きを―――それさえ、理解できておれば、魔法は簡単じゃよ」

「なるほど―――」

「まずは、ステップ1じゃな」


 そういって、ホルブは両手の中央に光の玉を作る。

 光の玉―――と言っても、黒々しい塊であった。


「これを10分間続けるのじゃ! 最初はきついぞ―――さあ、集中してやってみるのじゃ」


 俺は集中した。

 手のひらに光の玉を――――

 黒々しく輝くその球体を保つこと、2時間が経過していた。

 光の玉は一定に保たれている。


「――――なるほど、ディルから才能が異常で気持ち悪いとは聞いておったが、ここまでとは……」


 ディル!

 また、気持ち悪いって言ってたのか。

 あいつ、陰で俺の悪口とか言ってんのか?


「じゃあ、基礎は終わりじゃ。 もう、完全にできておる。 コツを教えるとすぐ覚えるとは聞いておったのじゃが、本当じゃな――――」

「じゃあ、次のステップは?」

「いよいよ、闇属性の魔法を教えてやろう、見ておれ」


 そういうとホルブは少し離れたところに立ち


「闇の魔法:闇球体こくたい


 そう言って、手の中心から、黒い塊を出した。

 これは、もしやルーン戦で使っていた、あの攻撃か?


「ほれ、翔琉も、闇魔法を使ってみなさい。」


 そういうのであった。

 そう簡単にできるかな?

 俺は先ほどのホルブの説明の通りにイメージした。

 黒く染まる―――


「闇の魔法:闇球体こくたい


 そういうと、黒い球が俺の手から出た。

 やった、出来た♪


「本当、才能が異常じゃな――――」


 そういっていくつかの指導もあったが、俺は闇の魔法を覚えることに成功したのだ。

 戦闘魔法はホルブから、防御魔法はボルから教えてもらった。

 という訳で、闇属性の魔法を会得することに成功した。

 残るは、精神の器のみ―――


「いよいよ、精神の器を鍛えるときがやってきたようじゃな、翔琉」

「そうだね―――で、精神の器って、どうやって鍛えるんだ?」


 そう俺が言うと、ボルは俺の頭に手をかざした。

 突然の事で驚いた。

 目の前が真っ暗になった。

 どうやら、意識を奪われてしまったようだ―――



 目が覚めると、そこは理科室だった。

 何とも、懐かしい空間だ。

 しかし、ここはあくまでも、俺の知る理科室という事であって、何も俺の世界の理科室ではないようだった。

 天井には、モニターのようなものがあり、俺のこれまでの記憶が、断片のように流れ出ている。

 ということは、ここは―――


「そう、ここは君の精神世界だよ、翔琉」


 ボルは、教壇の上に立っていた。

 さながら、これから授業でも始めるかのように、徐にチョークを持って。


「ふーん、これが翔琉のいた世界での、翔琉の最も根強い記憶なんだね」


 そう言いながら、チョークを黒板に戻した。

 根強い記憶―――と言うか、ここは俺の記憶が創り出した世界。

 そして、精神世界でもある。


「―――さて、翔琉。 精神の器を完成させるために、君にはこれからある人物と戦ってもらうことになる」


 ある人物?

 ここは俺の記憶の中の世界だ。

 他に誰がいる?

 ある人物、という事はボルではないようだな。

 じゃあ、ホルブか?


「―――いいや、俺たちではないよ。 ここは君の世界、俺たちが干渉出来るのはここまでだよ。 1つ言っておくけど、精神の器を完成させるためには、ここでは魔法を絶対に使ってはいけない―――と言うか、使えないから」


 え?

 どうして?


「ここは君の記憶の世界―――という事は、その当時に知っていることしかできない。 だから、この世界では魔法は使えないんだよ」


 なるほど、なるほど―――

 じゃあ、この世界で使えるのは、己の知恵と、運動能力のみ―――


「そんじゃ、そういう事で―――頑張ってね、翔琉」


 と言ってボルは消えた。

 そしてその瞬間に、理科室の扉が開かれた。

 そこから入ってきたのは、先生でもなく、友人たちでもなく―――俺自身だった。

 そして彼は、俺を見ていったのだ。


「やあ、俺。 いらっしゃい――――」


 いらっしゃい、って―――普通に言いやがったな。

 なんだよこれ。


「なんだよこれって、心外だな。 いや、心の中なんだから、心内か。 あはははは~♪ ウケる~」


 おいおい。

 待てよ待てよ。

 お前、俺なんだろ?

 そんな事、俺言わねえよな?


「あはははは~♪ イエーイ」


 横ピースしながら、笑うなよ。

 最近の女子高生でも、やってない事を―――


「んじゃ、まあ。 手っ取り早く、バトろうか♪」


 え?

 バサッと、白衣を脱ぎ捨てた俺が、俺に襲い掛かってくる――――え?

 えええええええええええええええええええええええええ!


「容赦しないからね、俺」


 思い切り殴り掛かってきた。

 俺は間一髪のところで、それを躱す。

 しかし、追撃のように回し蹴りを食らってしまい、窓際に吹き飛ばされる。


「どうした? こんな程度じゃないでしょうが、俺」


 なんだ、この力は。

 普通の中学生が出せるような、力じゃないぞ。

 そんな事を考えさせる余裕もなく、再び攻撃してくる記憶の俺。


「ほらほら、反撃しないと負けちゃうよ♪」


 そう言って彼は、実験器具を破壊しながら攻撃する。

 ビーカーやフラスコも、何もかも割れてしまった。

 俺はその光景を見ながら、ひたすら躱した。

 反撃する気持ちを抑えて―――


「なんだよ、逃げてばかりじゃつまらないな。 そろそろ反撃しなよ」


 ……


「どうしたんだい?」


 ――――さっきから、お前は何で俺に反撃させようとしているんだ?


「あはははは~♪ そんなの、たまたまじゃないの?」


 いいや、お前がさっきからやっているのは、どう考えても、俺を怒らせようとしているだけだ。


「……だったら?」


 ずっと考えていた。

 お前が、何故俺に攻撃させようとしているか。

 そして、1つの答えにたどり着いた。


「ふーん、それは?」


 俺は床に落ちていた、ガラスのかけらを拾い上げ、そして――――自分の首に突き刺した。


「! 君はいったい何をやっているんだい?」


 そういって、記憶の俺は、俺を抱え込んだ。

 そして、刺したガラスの破片をゆっくりと抜いて、止血をする。


「そうか……これが、君の答えなんだね?」


 ああ……そうだ……。

 俺は別に誰かを傷つけようとはしていない……。

 自分を含めた、誰かを守るためにしか使いたくない……。

 それが出来ないのなら……死んだ方がましだと、思わないかい?


「やれやれだよ。 そんなに優しいままで、君はこの先、戦えるのか? 俺が、君に教えたかったのは、どんな状況でも、どんな相手とも戦うことが出来るようにしなきゃダメだという、人間的な本質を教えたかったのに――――逆に、心の優しさだけで、自己犠牲だけで、この先、君は進んでいかなければならないんだよ?」


 別に……人間の本質は……戦闘本能だけじゃ、無いだろ?

 考えて行動して、他を思いやる心さえ持っていたら、それだけで十分じゃないか?


「全く―――俺ってやつは、心底甘いね。 そんな甘さで、この先どうやって戦い抜くんだよ」


 ははっ……分かってるくせに……いちいち聞くなよ。


「――――まあ、そうだね」


 パチン、っと記憶の俺は指を鳴らした。

 すると、俺の傷はたちまち治り、理科室も元通りになっていた。

 そして、記憶の中の俺は消えていた。

 だが、声がした。

 彼の声が―――


「――――忘れるなよ、翔琉――――甘さだけで、友達や愛する者は守れない――――もし、本当に守りたいと願うなら――――その時は、自己犠牲じゃなくて、生き延びる方法を考えろ―――――どんなに惨めでも、どんなに可哀想になってもいいから――――生き延びろ――――それを心に誓え―――――そうすれば、お前の器は完成する――――だが、時に非情になることも覚えろ――――分かったな?」


 まあ、分かったよ。

 肝に銘じておくよ。

 自分の忠告だしね――――


 こうして俺は、自分との勝負にけりをつけた。

 無血勝利―――と言う訳には行かなかったが、自分の中で何かが変わった気がする。

 自分自身と向き合い、自分と会話したおかげで――――そのおかげで、神魔法を安全に使用するために必要だった、精神の器が完成した。

 さて、そろそろ目覚めるときが来たようだ――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ