1stステージ26:そして、また1人
笑みをこぼしていたディルだが、よくよく見ると身体中が氷まみれだった。
どうやら、相当激しい戦闘があったようだ。
その後ろに、ボロボロの姿のエンと、ロープでぐるぐる巻きにしたヒョウの姿と、それをニコニコしながら引きずってやってくるリュウがいた。
何があったのかは、なんとなくわかりそうなものだったのだが――――考えるのを止めた。
これ以上深く考えてしまうと、なんだか恐ろしいことになりそうな気がするからだ。
「やれやれ、ちょっと手こずっちゃったけど、これでもう安心ね――――全く、あたしの翔琉ちゃんに手を出すから、こうなるのよ……バカ女……」
ごめんなさい。
リュウさん。
声が漏れています。
恐らく、心の声が――――
「あ、翔琉ちゃん。 よかった、氷から出られたのね。 心配したんだから」
そう言って笑顔のまま、リュウは、ヒョウを引きずったまま、走ってやってきた。
ヒョウは、文字通り引きずられているので、うめき声を上げているのだが――――彼女には、それが全く聞こえていない(というか、聞こうとしていない)。
怖すぎるだろ、この人―――
「――――さて、ヒョウも助けたことだし、これで残る大魔導士は、2人だね」
とディルが、この場の雰囲気を変えようと話題を振る。
ナイス、タイミングだぜ!
「えっと、残るは風属性と地属性の大魔導士か?」
「そうね―――風の大魔導士トルネ、そして、地の大魔導士グランだけね」
「その2人の消息はつかめているのか?」
「うーん――――そう言われれば、まあ分からないんだけどね」
あははは、とディルは頭をかきながら笑っている。
笑いごとでいいのか?
「――――ワタクシは、そのうちの1人である、トルネの居場所を存じていますわよ」
そう言って、ぐるぐる巻きのロープから、いつの間にか脱出していた女性―――ヒョウは、口を開いた。
「あら、ヒョウ。 もう、起きちゃったの? そう簡単に起きれないように、思いっきり攻撃してたのにな――――」
「あんたは、もう少し友達を大切にしなさい!」
ヒョウはリュウに怒っている様子だった。
それはそうだろう。
友達に痛めつけられた上に、ここに来るまでに乱暴な扱いをされてしまったら、誰だって怒るだろう。
「コホンっ―――まあ、それはさておき、初めまして翔琉君。 ワタクシは、7人の大魔導士の中で、氷の大魔導士をさせていただいております、ヒョウと申します。 先ほどは、どうもありがとうございました―――」
「む? 先ほど? 俺は、何もしていないけど?」
「いいえ、あなたが先ほど、神魔法を発動した際に出た光が、ワタクシを永き呪縛から解き放ってくれたのです―――」
「え?なんで、神魔法使った事を知ってるんだ?」
すると、ディルがため息交じりにこう言った。
「翔琉……あんたの、浄化の光――――城の氷に反射して、こっちまで届いていたわよ」
ええええええええ!
まさかの、展開。
氷に反射してしまっていたとは、予想外。
これが、嬉しい誤算ってやつなんだな。
「ん? じゃあ、なんですぐに来なかったんだ?」
「いや~それがね、ヒョウが……」
エンが、何かを言いかけたのだが――――コホンっと、リュウが咳払いをしたのを聞いて、黙ってしまった。
いや、エン。
言わなくても何となくわかるよ。
リュウが、ヒョウに――――ね。
よし、話を戻そう。
「それで―――ヒョウさんは、トルネさんの居場所を知っているのですね?」
「はい。 その通りでございます。 風の大魔導士トルネは、ここより北西に100kmほどの場所にある、空に浮かぶ巨城、風城にいると聞きましたわ」
「空飛ぶ城、か―――」
ラピュタかよ。
と、思ってしまった。
でも、飛行石とかで、浮いてるんじゃなくて、きっと完全な魔法なんだろうな。
バルス!
とか言っても、崩れないんだろうな。
なんて、くだらないことを考えてしまっていた。
「でも、確か風城に行くには、その下にある城下町ロールにある、特殊な乗り物じゃなきゃ、行けないって聞いた事があるぜ」
とライは言う。
特殊な乗り物?
一体なんだろうか?
「んで、ヒョウ。 あんたは、どうする? 私たちについてくる? やってほしいことあるし―――――」
「やってほしいこと?」
そう言って、ディルがこれまでの事情を説明してくれた。
俺が異世界からの住人である事――――そして、帰るためには【オールドア】の封印を解かなければならない事を――――。
「――――という事なんだけど、どう?手伝ってくれる?」
「勿論ですわ。 暗黒魔法教団―――この組織は、世界平和のためにも見捨てておけないですし、それに――――助けて頂いたお礼をしないというのも、悪いですし。 それに、翔琉君が元の世界に戻るために、【オールドア】の封印を解かなければいけないのなら、なおさらワタクシの力が必要でしょう――――ならば、断わる理由はありませんわ」
「ありがとうヒョウ、じゃあ、早速行きま――――」
ディルが”行きましょう”と言いかけたのだったが、突然王の間の扉が開けられた事によって、声は遮られてしまった。
全員が振り向くと、先ほど氷漬けにされていた、暗黒魔法教団の下っ端たちがそこに立っていた。
もう、何というか、みんな狂ったような顔をしている。
そして、生気を感じない、あの目――――操られていた時の、ボルと同じような目をしていた。
1人の下っ端が口を開き、述べた。
「全ては、ブラッド様の御心のままに――――世界に、混沌と混乱を――――」
その言葉をきっかけに、下っ端全員が俺たちに襲い掛かってきた。
鬼気迫る様子だった。
ヤケのようにも感じるその行動を―――静止しようと、ディルは指を鳴らす。
パチン、と部屋中に聞こえるような大きな音。
その瞬間、下っ端たちの動きが止まった。
まるで、時が止まったように――――
「時の魔法、静止。 ふう、今日は何だか疲れちゃったし、君たちのその心意気だけは買ってあげるから、それで許してよね」
今のうちに外に出ましょう―――と、ディルは固まっている下っ端たちを避けながら、てくてくと、王の間より出ていく。
俺たちも、それに続いて外へと出たのであった――――そしてそのまま、そそくさと次の目的地である風の城へと俺たちは向かったのだった。
下っ端たちの出番は、これで終了。
呆気なく、さらっとしているのが、下っ端キャラの宿命なのかもしれないな―――
ディルの空間転移魔法によって、俺たちはすでに、氷の城から移動していた。
下っ端さんたちには悪いけど、戦闘はもう疲れたからおしまい。
割愛です。
本日の移動先は、昨日と同様な海辺の別荘である。
しかし、昨日とは別の物である。
だから、別荘いくつ持ってるんだよ――――
「今日はここで、休むんだな?」
「……」
「ディル?」
「……ん? ああ、ちょっと考え事してた」
「ふーん……」
珍しく、ディルが考え事をしていた。
何を考えているのか―――それは後々、分かることになる。
後々、だなんて遠い考えではなく、近々―――と言う表現の方が正しいのかもしれないな。
俺は徐に海辺で、ボルと遊んでいた。
と言うか、砂でチェス盤を作って、貝殻を駒にしてせっせと、楽しく知恵を使った遊びをしていた。
本日の夕食は、新しく仲間になったヒョウが作ってくれるそうだ。
なんとも、楽しみである。
「それ、チェックメイト♪」
「うわ、またかよ……」
「詰めが甘いね」
「――――それにしても、ボルはチェス強いんだね」
「まあ、翔琉が教えてくれたからだよ。 先生がいいからだよね」
「あははは―――負けっぱなしじゃ、面目が無いけどね」
それにしても、ボルは呑み込みが早いな。
数回手合せしただけで、もう負けが続いてしまっている。
凄い学習能力だな。
膝で大人しく寝ているライを撫でながら、俺はボルに再戦を挑んだのだが、結局勝つことが出来なかった。
強すぎ。
案外、策士とか、参謀とか、司令官向きなのかもな、ボルは――――
「それにしても――――あと2人か……」
唐突にそんな事を思っていた。
この異世界での、冒険は、残り2人の大魔導士を見つけてしまえば終わりを迎える。
正確に言えば、行く手を塞ぐ、暗黒魔法教団を倒してから――――でもあるのだが。
7人中、5人がすでに仲間になっている。
ついでに言えば、太古の魔導士と、暗黒賢者をも仲間に加えている状況である。
世界最高峰の魔導士たちが、こうも集まっているパーティーは、そうそうないだろう。
勇者のパーティーに、勇者がいるようなものである―――
「翔琉―――俺たちは、どんなに離れても、友達だよな?」
ボルは駒を進めながら、言った。
俺はニコリと笑って、ボルに言った。
「それは、勿論だよ。 俺たちは、一生友達だ。 例え離れ離れになってもな」
「うん、ありがとう――――チェックメイト」
「あ……」
また負けてしまった――――
でも今は、勝ち負けはどうでもいい。
俺は、ボルが楽しそうなら、それでいい―――――




