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魔法世界に来てしまった結果、最強の魔導士になってしまった  作者: ただっち
オールドア編:第2章‐暗黒魔法教団‐
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1stステージ21:兄の過去

 暗黒賢者ボル―――現在幼児姿の彼が、こんな遅くに浜に出てきて俺の隣に座った。

 正直言えば、何をしに来たんだ!、と言うべきなのだろうが、今回は明らかに違った―――と俺は思う。


「翔琉……」


 と言葉を発するボルに、俺は不意を突くように


「なんだい、ボル。 もう、子供の演技の時間は終わりかい?」


 と言い放った。

 ボルは、酷く取り乱した様子もなかったが、静かにそっと、目を閉じたのだった。

 そして、目を開くと、威圧にも近い視線を飛ばしてきて


「ふん―――なるほどな。 神魔法を使う者だけあって、見透かす力も、思想も、思考も、それなりに高いわけという事か。 俺様も、つくづく甘かったようだな」


 と、幼児化する前と同じ口調に変化した―――正確には、元に戻した、と言うのが正しいのだろう。


「いやいや、見透かす力なんて、俺には無いよ。 ただ、1つだけ、気になったことがあったからね――――」

「気になったことだと?」

「うん――君が幼児化している状態での、ほんの少しの違和感だよ。 変に整えられた口調と態度――――それがずっと引っかかっていた」

「ふん―――それは、幼児化しているから、変わってしまっただけの事ではないのか? 俺様達、虎獣人は幼児化すると、精神年齢まで幼くなってしまう、と言う性質を持っているからだ、とは考えなかったのか?」

「―――でも、それは、”自分自身の意思によって変化した場合”にしか、起こらない現象なんじゃないかな?」

「―――‼」


 驚きのあまり、ボルはあいた口がふさがっていない様子だった。

 こんな簡単に、こんなにあっさりと、トリックを見破られてしまったから、まあ当然なのかもしれない――――


 虎獣人は、一般的に好意が湧いた相手に、半ば取り入るような姿に変身することができ、更にその姿に合わせて、精神が比例する―――と言う、特殊な性質を持つ種族である。

 好意が湧いた相手―――例えば、同じ虎獣人のライで説明をするならば、至極簡単になると思われる。

 しかしながら、ボルの場合、ホルブの魔法によって、自分の意思とは関係なく、身体の防衛反応によって、無意識的に変身してしまっている状態である。

 それに、幼児化した直後は、口調や行動は、幼児化する前と同様の物であった。

 つまり、このことから考えて、この別荘に来てからのボルの口調は、明らかに3歳児を意識したものであった。

 そう、彼は演技をしていたのだ―――文字通り、猫を被っていた。


「―――そうして、油断させておいて、大魔導士たちを一気に倒してしまおう―――だなんて、考えだったんじゃないかな?」


 俺の言葉に、とうとうボルは動揺を露わにした。


「何故だ―――何故分かった? 俺様の演技は、完璧だったはずだ」

「この世に完璧だなんて言葉は無いよ―――とにかく、君は失敗したんだよ。 君の誤算は、俺がこの場にいてしまった事だろうね」


 ボルは敗北した―――計画を崩された。

 彼の悔しそうな声は、まるで狼の遠吠えのようだった。

 負け犬の遠吠え―――否、負け虎の遠吠えである。

 計画を崩したのは、太古の魔導士でも、7人の大魔導士でもなく―――見習い魔導士レベルの知識しかない若造、つまりは俺であったのだった――――。



「なあ、ボル。 これがずっと聞きたかったんだが―――」

「なんだよ―――」


 明らかに機嫌が悪そうなボルをよそに、俺は話を続ける。


「―――なんで、ライに日常的に暴力を加えていたんだ?」

「??? 質問の意味が分からないのだが――――」

「いや、だから、お前たちの過去の話をしているんだって」

「過去? ――――ああ、あいつをなぶったことか」


 あっさりと語ってしまった光景に、様子に、俺は黙ってしまった――――否、唖然としてしまった。

 義理とは言え、弟を弄ったことに、何の罪悪感も抱いている様子は無かった。

 この男は、心にどのような闇を抱えているのか―――どのような思想、どのような考えで、このような行動をとってしまったのか、俺は知りたくなってしまった。

 そんな俺が懐からこっそりと、取り出したのは”心眼鏡こころめがね”と言う、魔法道具である。

 心眼鏡――――それは、他人の過去を一瞬で見ることが出来る魔法道具である。

 これは先ほど、ホルブから借りた魔法道具である。

 こうなることを予期していた―――そのために、この道具を俺は忍ばせておいた。

 今こそ、この道具を使う時だ。

 そして俺は、眼鏡越しにボルを見る―――


「その眼鏡は! 心眼鏡! やめろ!」


 そういい、ボルは俺から心眼鏡を奪い叩き割った―――が、すでに俺にはすべて見えた。

 ボルの過去……

 ボルの考え……

 そして、弟ライへの思いを――――



 暗黒賢者の1人であるボル―――かつて起きた魔戦争にて大量殺人を犯した殺人犯にして、弟をいたぶる残虐な兄。

 しかしながら、これは表面だけを見るとそう見えるということなのだ。

 闇に隠された過去を暴き、本質本筋をたどってみると実は違うのであった―――

 本当はボルは優しい虎であった。

 自然を愛し、家族を愛し、そして生き物を大切にする――――そんな心優しい少年だった。

 しかしながら、幼い時に起きた辛い経験が、彼に不幸をもたらす―――

 奴隷制度のある村で、実の両親を同じ種族の虎獣人に目の前で殺されたのだ。

 その理由は奴隷制度に対しての憤りを、他者にぶつけたかったから―――と言っていたそうだ。

 言っていたそうだ、と言うのは、その殺人犯自身に聞いた事である。

 その殺した獣人は、我が物顔で、当時幼かったボルは引き取り(半ば誘拐に等しい)日々、拷問まがいな暴力を受け育てた。

 ボルは、日々、その獣人から拷問まがいな躾を受ける。

 その結果、幼いボルは、愛情とは苦痛であり、痛みによって与えられるものと錯覚してしまう。

 やがて、その男―――殺人犯であるボルの育て親は、ある女と結婚する。

 そして、その女性が連れていた子供こそ、ライであった。

 ライは義理の兄であったボルに対しなつき甘えるようになっていった。

 それに準じて、ボルには次第に、ライに対して愛情を覚える―――が、ボルにとって愛情とは痛みや苦痛を与えることである、という考えになっていた。

 言いくるめられていた。

 狂っていた。

 そのため、あの男――――殺人犯である、育ての親から受けた、愛情表現を伝える方法を、愛すべき弟に――――行ってしまった。


 暴力―――暴力――――暴力――――


 奴隷制度でのひどい扱いより、使役されていたことより、何より愛情を優先した。


 暴力―――暴力――――暴力――――


 生まれて初めて、弟ができた。


 暴力―――暴力――――暴力――――


 自分自身の愛情で、迎えてあげたい。


 暴力―――暴力――――暴力――――


 だって、大好きな、弟だもの。


 暴力―――暴力――――暴力――――………


 その結果、ボルはライから嫌われてしまった。

 愛すべき弟には、本当の愛情を伝えることが出来ず―――また、育て親や義理の母からも見放されて孤独に陥った。

 天涯孤独―――その言葉が、その時の彼には似合っていただろう。

 そして数年後、奴隷制度が無くなり弟ライは魔導士になる修行のため村を去った―――それと同じくして、ボルは村を飛び出した。

 殺人犯の家にはもう居たくはない―――真実を知ってもらえない義母などいらない――――ライのいない、村なんか居ても意味がない――――


 無我夢中で飛び出したものの、ボルは生きていくためのスキルが未熟であったが故、この先自分がどうすればいいのか分からなかった。

 自分の未来を見いだせなかった。

 愛情すら表現できない、憐れな虎―――誰が、こんな男を好きになろうか?

 そんな疑問に答えをくれた集団がいた―――集団と言うより、組織であった。

 それが、暗黒魔法教団だった。

 自身に生きる意味や、本当の愛情を教えてくれた教団に恩返しがしたくて、ボルはがむしゃらに努力を続けた。

 教団を、自身の愛情で守ってあげたい―――そう思って―――。

 しかし、教団はそれが目的だった。

 否、そのためにボルを騙したのだ―――暗黒賢者と呼ばれるほどボルが実力を付けた頃、ボルは教団教祖のブラッドに催眠術をかけられる。

 そして、教団に言われるがまま人を殺した――――殺戮マシーンと化した。

 その後、彼の記憶は途切れる。

 次に再び目を覚ましたのは、戦場だった。

 かつての兄弟は、そんな場にて、悲劇の再開をする――――

 そして彼は再び眠りにつく――――悪夢の中へと、誘われるかのように。



 自然と涙が零れ落ちていた。

 ボルの真の過去と感情を知ったことによって―――彼は操り人形にされていた事実を知って。

 そして俺は、ボルの頭に手を置き、ある魔法を発動させる。


「光の魔法:絶対解除むげんほうよう


 そしてボルの頭から、黒い塊を取り出して、粉々に砕いてしまう。

 直後ボルは気を失う―――


 絶対解除―――光属性の上級魔法である。

 この魔法は、封印以外の状態異常魔法を完全に除去する魔法で、状態異常完全除去魔法、と言える。

 俺がこの魔法を発動した理由は、ブラッドがボルにかけた催眠術を解くためである。

 強力な催眠術だったようで、心の奥底にまで仕掛けられていた。

 それを直接俺は取り出したのであった――――



 空が明るくなってきたころ、ボルは目覚めた。


「ん―――あれ? ここは?」

「ここは、浜辺だよ」

「貴様は―――」


 そう身を乗り出して構えるボルをよそに、俺は大きな欠伸をする。

 無理もない―――あの後から、一睡もできていないのだから。


「俺様に何をした? あの時、貴様が手を置いたと思ったら急に気が遠くなって―――」

「―――君は教団に騙されている」

「はあ?」

「いい加減、悪夢から目を覚ますべきだ」


 何を言うか!と、ボルは俺を押し倒して馬乗りになった。

 そして―――殴る。

 何度も―――何度も―――


「お前が―――お前が――――お前が、何を知ってるんだ!」


 そういうボルに、殴られながらも彼をまっすぐ見つめて俺は気丈に、はっきりと言った。


「お前は―――教団に騙されている」

「嘘だ!」

「嘘じゃな――――っ!」


 きつい一発が、顔に入って、言葉を発することが出来なかった。

 しかし、再び俺は言う。

 何度でも何度でも―――

 彼が悪夢から目覚めるために、強く願いながら―――


「お前は騙されている――――暗黒教団は、お前に本当の愛情を教えてはいない、それどころかお前を兵器として利用した。 先ほど、君の頭に触れたのは、君にかけられていた催眠術を解くために行った事だ。 君の過去は、心眼鏡で見させてもらった。 悲惨で不運な人生―――でも、他者を思いやる心を君は持っていた。 どんなに苦しめられても、どんなにつらい時でも、どんなに悲しい時でも―――君は、誰かを慈しんでいた。 でも、君はその愛情を他者へと伝える方法を知らないだけなんだ。 だから――――」

「分かったような口を利くな! お前に何が分かるんだ! 俺の人生は、他者を愛するためには出来ていなかった――――不運や不幸を、バネには出来ないのさ。 所詮俺は―――」

「――――それでいいの?」


 ボルの耳がピクリと動いた。

 えっ、と声を漏らして、殴るのを止めて、俺を見つめる。


「それでいいのか、と聞いたんだ。 せっかく、清くて美しい心を持っているのに―――それを、伝えるすべを知らずに、見向きもしないで、投げ捨てて、諦めてしまっていいのか?」

「……」

「諦めることが全てと言うのなら、俺の願いを1つだけ聞いてくれないか? どうせ、この先諦めながら人生を送っていこうとしているのならば、1つくらい聞いてくれてもいいんじゃないか?」

「え? なんでお前の願いを―――」

「いいから、最後まで聞け。 ボル―――今の君に必要なのは、良き理解者だ。 自分の事を本当に分かってくれて、信頼できる相手だ。 不安も、悲しみも、怒りもすべて語ることが出来る人物――――」

「そんな奴なんて……この世にいるわけない―――」

「そこで、俺の願いは―――ボル、俺と友達になってくれ」

「友達?」


 ボルは馬乗りを止めて、後ろに倒れこむ。

 俺は上体を起こして、彼に言う。


「そう、友達。 君の話をちゃんと聞いてあげられる存在に、俺がなるよ」

「何を言うかと思えば、馬鹿馬鹿しい―――なんで、俺がお前と友達になんか――――」


 ふん、とボルは鼻で笑ったが、俺は本気だった。

 目をしっかり彼の目に合わせて、強い眼差しで彼をじっと見つめている。


「そもそも、お前が友達になって、俺に何のメリットが――――――」

「―――助けることが出来るよ」

「え?」

「君が困っているときに、助けてあげられるよ―――それが、友達でしょ?」

「……」

「だから、えっと……その……」


 次の言葉がなかなか出てこなくなったその時、ボルは無言で立ちあがった。

 そして、俯いたままこう言った。


「―――なら、俺からも1つ条件を出させてくれ」

「なんだい?」

「――――俺と、友達になってくれ。 何でも気さくに話すことのできる、よき理解者に……」

「勿論‼ だって、俺たちはもう友達でしょ?」

「う、う、う……うわ――――――――――――――――――――――――――――――――――ん!」


 朝焼けの浜辺―――1匹の虎は、1人の少年の胸の中で泣いている。

 悪夢から目覚め、恐怖から解放された虎を、少年は慰め続けた――――

 こうして俺はボルと友達になることになったんだ。

 優しい彼を、本当の姿にしてあげるためにも、そして彼が2度と道を踏み外さないようにするためにも―――――

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