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魔法世界に来てしまった結果、最強の魔導士になってしまった  作者: ただっち
オールドア編:第2章‐暗黒魔法教団‐
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1stステージ20:夜の浜辺

 海辺の別荘地に滞在中―――と言っても、着いたのは先ほどの事である。

 ディルの所有する別荘の1つで、俺たちの次なる目的地であるところの氷の城に、近い位置にある別荘である。

 氷の城―――そこには、【オールドア】の封印を司る7人の大魔導士の1人である、氷の大魔導士ヒョウがそこにいる。

 本来ならば尋ねた際には、茶菓子とお茶でもいただきながら、封印を解くために尽力してもらうために、交渉を行う平和的な解決法を提示したいのだが、残念ながら現状ではそれは不可能に近いだろう。

 この世界をかつて混乱と殺戮に陥れた組織―――暗黒魔法教団の暗黒賢者たちによって、洗脳されてしまっているためである。

 洗脳されてしまっている以上、話し合いがそもそも成立しない―――むしろ、殺し合いに発展してしまいそうだ。

 そんな洗脳されてしまったヒョウを救うため、俺たちは氷の城へと向かう。

 しかしながら、もうすぐ夜を迎えてしまうこの状況は、戦いにおいては――――素人にとっては、大変不利な状況である。

 本来ならば即刻向かうのが、先決であるのだが、素人で戦闘経験の少ない俺を、そんな危険地帯に連れていくことは、見す見す殺されにいくようなものである。

 それを、俺を含めて全員が分かっているからこそ――――今日はここに滞在するのだ。

 夜明けを待って、俺たちは行動するのだろう――――とまあ、カッコいい事を述べてはみたものの、実際は疲れたから休みたいだけなのである。



 さて砂遊びにも飽きてきたころ、ディルがご飯ができたということなので俺は2人の子供を連れて別荘内に入る。

 ―――2人の子供と言うのは、雷の大魔導士ライと暗黒賢者ボルの事なのである。

 暗黒賢者ボルは現在、ホルブによって全ての能力を封印されて、幼児のような姿になってしまっているのだ。

 また、ライは俺に首筋を撫でられると幼児体型になってしまうのだ―――これは虎獣人特有の能力で好意を抱いた対象者に撫でられると、幼児体型になるという特殊な性質のためである。

 さて、ご飯の時間―――という訳で、しばしの御清聴をいただこう。

 食事の時間は、静かに―――それがマナーだ。



 という事で、ご飯の時間が終わった。

 御清聴に付き合っていただいて、ありがとうございます、と言う風になんとなく思っているのだが、俺は誰に向かって言っているのだろう?

 まあいいや。

 御愛嬌という事で。

 今回の夕食は、御清聴いただいた割には、俺たちはうるさいことになってしまった。

 その理由として上げられるのは、まあ俺がとある行動をやってしまった事に起因するのだ。

 その行動と言うのは、咀嚼である。

 本来は自分自身に対して、行うのが正しい、ご飯を食べる際には絶対に必要な動作―――それを、俺は他人にしてしまった。

 つまりは、あーん、と言う事をやったという事だろう。

 そんな、ラブコメやらリア充やらが行うべき行動なのかもしれない。

 しかし幼児の世話や、介護の世界にても、この行動はとられている。

 ――――つまり、俺が言いたいのは、ボルに対して”あーん”と言う動作を行ってしまったのである。

 ボルは現在、3歳児くらいの幼児の姿であり、それに比例して精神年齢に至るまで幼児化してしまっている。

 そのため、ご飯がうまく食べれなかったようなので、ボロボロ、とこぼしてしまっていたのである。

 仕方がないな、と思い、俺はボルにご飯を食べさせていたのだ。

 あーん、と口にご飯を持って行って食べさせていたのである。

 その行動を羨ましそうに見ていた影が2つあった――――ライとリュウである。

 その後の2人がとてもじゃないが、駄々をこねまくっていたのだ。

 俺のもやってくれ―――あたしにもやって―――と、グダグダとガタガタと迫ってきたのである。

 そんなこんなで、静寂を決めたかった夕食は、大混乱になってしまったのだった――――

 ボルは幼児のままなので、うまく食べることができないらしく仕方ないから俺が食べさせたのだが、それを見ていたライとリュウが駄々をこねたのだ。

 ふう、と一息つくと、ディルがお茶を持ってきてくれた。


「はい、お茶。 疲れが取れるよ」

「ありがとう、ディル」


 そういって、お茶を少し飲んだ。

 玉露のような味わいの中に、紅茶の深みがある不思議なお茶だった。

 するとボルが俺のところに来て


「ボルも飲む、ボルも飲む!」


 と俺の持っていたお茶を、ごくごく、と全部飲み干してしまった。


「あーあ、飲まれちゃったね。 また新しいの持ってくるね」


 とコップを取りディルは台所の方へと戻っていく―――その陰から、リュウとライがこちらを見ていた。


「あの方法を使えば……」

「翔琉ちゃんと間接キス……」


 また始まったよ―――余計な混乱を避けるために、俺はディルにお茶を断った。

 喧嘩の元は、根本から断ってしまおう。

 ん?という事は俺は死ななければならないじゃないか!

 訂正訂正―――っと。



 台所から戻ってきたディルに俺は、とある質問をした。

 いまだに知りえない、氷の大魔導士ヒョウの事を聞いてみようと思ったのだ―――


「ディル、氷の大魔導士ってどんな奴なんだ?」


 そう聞くとディルは、そうね―――と言って


「氷の魔導士ヒョウは、リュウの幼馴染の女の子で、大魔導士の中でも1番の封印魔法の使い手ね――――」

「封印魔法の使い手か―――」

「ヒョウの事なら、翔琉ちゃん。 あたしに聞いてよ」


 物陰に隠れていたはずのリュウが、いつの間にか後ろに立っていた。

 本当にいつの間にだよ―――

 一瞬驚いて、たじろいでしまった。


「――――あ、そうか。 幼馴染なんだってね。 じゃあ、ヒョウの事を良く知っているわけだ」

「まあね―――」


 そういってちゃっかり俺の隣に座っている。

 早業か……


「ディルの説明以外だと―――ヒョウは氷眷属こおりのけんぞくって呼ばれる種族でね、魔法以外でも氷を無尽蔵に作れるってとこかしら」

「ふ~ん……なんかすごいな。 氷を無尽蔵に作れるって、夏場にいてほしい人だな―――」

「まあ、会えば分かるわよ。 凄く大人しい子だから、きっと翔琉ちゃんなら大丈夫よ」


 どういう意味で大丈夫なんだろうか―――

 そんな不安がよぎってしまったが、まあいいか。

 そろそろ寝るかな―――とおもむろに、寝室へと向かった。


「ああ、翔琉寝るの?」

「うん、ディル。 もう寝るよ。 疲れちゃったしね―――おやすみ」


 おやすみ―――とディルが言ったのを聞いて、俺は寝室の奥へと赴いた。

 これでぐっすりと寝れれば最高なのだが―――寝室に到着すると、どうやら先回りしていたリュウ・ライ・ボルがいた。

 ゆっくり寝れそうにないな。


「翔琉ちゃん。一緒に寝ましょ!」

「おい!翔琉と寝るのは俺だぞ!」

「俺だ!」


 と喧嘩を始めてしまったが、結果として俺はそのままベットですやすや眠った。

 なんかもう、この展開に慣れてしまったようだった―――



 ――――夜中、目が覚めた。

 やっぱり、俺の腕にはライとリュウがいた。

 また勝手に腕枕をしてやがる―――そして、お腹に圧迫感があったので、覗いてみるとボルがいた。

 さながら、子猫のように寝ているボルが可愛らしかった。

 こんな可愛い寝方をしているのが、世界を混乱に陥れようとした暗黒魔法教団の暗黒賢者とは、到底思えないくらいだ。

 ちょっと、また外の空気を吸いたくなったので、腕にくっついているライを以前同様引き連れ、上のボルを静かにベッドに移し外へと向かった。


 夜の海辺―――星々が、海面に反射して美しい景色が広がっている。

 また、近くにあるサンゴにも反射しているようで、若干七色にも水が光っているようにも見えた。

 とにかく、美しい景色が俺の前には広がっていたのだ。


「海風が気持ちいいな――――」


 俺は海を眺めていた。

 水を眺めるのは、好きだ。

 心が落ち着く―――そんな気がする。


「夜中に抜け出すの好きだな―――翔琉」


 そういい、ライが起きた。

 また、起こしちゃったか。


「ごめんね、また起こしちゃったね。 ところでライ、どうして俺の腕に抱き付いて寝るのさ」

「え?良い抱き枕―――なんか落ち着くからだよ」


 今こいつ、抱き枕って言ったよな?

 俺は聞き逃さなかったぞ。

 場がシーンとなってしまう。


「とにかく―――」


 とライは、この気まずい雰囲気をどうにかしようと、話を変える作戦に来た。

 お前のせいだろうが―――


「―――とにかく、そうだな。 翔琉は、気持ちいい、という事で」

「どういう事だよ」

「え? いや―――その―――」


 地雷を投げ入れているのか?こいつは。

 じゃあ、俺も地雷をぶち込もう。


「あのさ、ライ。 この間の温泉での事―――悪かったな」

「ああ―――まあ、気にしていないから大丈夫なのだけど、まさかボルが生きていたとはな……正直驚いたよ」


 波がざざーんと、浜へ来る。

 しーんとなった、この空間には、雷に近いほど鳴り響いていた。


「ボルはな―――」


 とライは、おもむろに話を始めた。


「――――ボルは、前の両親からひどい暴力を受けていてな……そのため、ゆがんでしまったんだと、俺は思っている」

「そっか。 あんなにひどいことされたのに……ライはそれでもボルの事を?」

「いいや、あいつは人殺しさ。 戦争でいろんな奴を殺した……って言われているからな」


 そういって、空を悲しげに見上げるライ。

 その眼には、星空が反射していた――――眼に宿る涙に反射して。



「なあ、翔琉―――俺はどうしたらいいんだろうな?」


 ライはふと、そう呟いた。

 俺は道を示すように、偉そうなことを言える立場ではない。

 だが、1人の友達として―――俺は、自分の思った意見を、友達ライに話す。


「それは―――この先、ライが様々なことを経験して、最終的に結論を出すしかないと思うよ。 簡単に埋まってしまうような溝じゃないのなら、ゆっくりと時間をかけてでもいいから、その溝を埋めていけばいいんだよ。 もしライが、その溝を埋めても、道に迷ってしまった時は、俺に頼ってくれよ。 俺はライが納得する方法を一緒に考えてあげるよ。 だからいつでも俺を頼ってくれ。 でも俺はが迷ってしまった時は、助けてくれよな」

「翔琉~~~~~~!」


 ライはそのまま、俺の胸の中で泣いた。

 これまでの苦労や悩みを吐き出すような、声をあげながら―――――



 ライが泣き止んだころ、そろそろ別荘の方へと戻ろうとした時、1つの小さな影が、その別荘の方向から歩いてくるのが見えた。

 あれは――――ボル?


「ライ。 先に戻っててくれる?」

「1人でいいのか? というか、大丈夫か?」

「おそらく―――何かあったら、すぐに呼ぶから」

「分かった、一応用心はしておけよ」

「うん」


 そういうとライは別荘に戻っていく。

 その小さな影の横を通って―――

 小さな影はそのまま、俺の方へと歩いて行った。

 月明かりもとい、星明りが、照らしたその影の正体は、やはり予想通り、ボルであった――――

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