1stステージ19:黄昏の海
罰封――――相手を屈辱的な姿へと、変貌させて相手の魔法能力を、すべてを封じてしまう魔法である。
屈辱的、と言うか、その人物が戻りたくない過去の自分の姿に変貌させて、無力な自分と対面させて、永遠の悪夢を見せつける―――と言った、説明を受けたが、いまいちよくわからない。
要約すればつまり、非力な自分になってしまう―――という事なのだろうか?
そう考えれば、現在のボルは、非力な3歳児に姿を変えられているので、納得がいくだろう――――
いや、ホルブも想定外の出来事だったらしく、かなり焦っている様子である。
ライ曰く、虎獣人は能力を封印されると、子供の姿に戻ってしまうらしい、との事だ。
更に虎獣人は、容姿を変えてしまう魔法の耐性が異常に高いらしいので、容姿を変化させる部分だけは無効化されてしまった―――という事なのだろうか?
つまり、屈辱的な姿になった――――という訳ではなくて、単に能力を封印したために変貌した姿である―――という事だ。
ん?じゃあ、ライが幼児化するときは能力を封印されているのか?と言う疑問があがるのだが、好意を抱いた時に変化する姿と、封印された時の姿の、見た目の年齢は違うらしい。
なんとも、ややこしい体質である。
ボルを磔にしていた、魔法がいつの間にか解けており、彼はようやく目を覚ました。
そして、身を後ろへとひいて、俺たちとの距離を取った。
「神魔法とはやってくれたな‼ ならば、俺様の本当の力を見せてや―――――る?」
と、ここで自身の身体の変化に気付いたようだ。
手を見て、足を見て、身体を見て、もふもふとしてそうな顔を、肉球でもみもみと触っている。
これ、グッズ化とかしたら売れるんじゃないか?
と言うか、俺は買ってしまいそうだ。
買ってしまいたいし、飼ってしまいたい―――そんな可愛さがある。
とてもじゃないが、暗黒賢者なんて恐ろしいものには見えない。
「あれ?あれ?あれ? なんで俺様が、こんな幼児姿に? あれ?」
「かつての暗黒賢者がこんな姿とは滑稽じゃな――――ふぉっふぉっふぉっ」
バルタン星人みたいな笑い声のホルブをよそに、ライはぶつぶつと独り言を言っている。
「俺とキャラ被ってる俺とキャラ被ってる俺とキャラ被ってる俺とキャラ被ってる俺とキャラ被ってる俺とキャラ被ってる俺とキャラ被ってる俺とキャラ被ってる俺とキャラ被ってる俺とキャラ被ってる俺とキャラ被ってる俺とキャラ被ってる……」
いやいや、ライにはライの可愛さがあるが、これはこれで――――おっと、キャラが変わってしまっている。
戻さなきゃ戻さなきゃっと。
「ボル―――おぬしがその姿になった以上、もはや魔法は使えぬ――――ざまあみやがれ」
「くそおお! やりやがったな、じじい!」
何と言うか、口げんかが低レベルすぎる気がする。
ホルブも、ざまあみやがれって――――
「こんな幼児体型じゃ、何もできないじゃないか。 何もできない―――俺様ってダメな子―――うわ~~~~~ん」
そういうとボルは泣き始めてしまった。
なんかほんと、ロリライとおんなじだな・・。
泣き方まで、似ているよ――義理でも兄弟って似るのかな?
泣いているボルを引き連れて、俺たちは龍族の元へと向かった。
龍族には、暗黒賢者を倒したことと、その暗黒賢者を封印して、もういない―――という事にしておいた。
じゃなければ、龍族はきっと、この幼児化して泣いているボルを、いたぶり、なぶり殺してしまうかもしれないからと思ったからだ。
誇り高き龍族の聖域を犯した、この暗黒賢者のなれの果てを――――
エンは龍族の長老に、より一層強い結界を張ることを進めている。
もう2度と、彼らの聖域を犯されないためにも、必要な事であった――――
地獄炎瑠を後にした俺たち。
すっかりと、夕暮れ時になってしまった。
「取りあえず今夜は、どうしましょうか?」
とリュウは言った。
温暖帝に戻るのも有りなのだが、今は少しでも、次の目的地に近い方がいい――――ディルは、はっと思い出したように突然
「そう言えば、ここから氷の城に行く途中に、私の別荘があるわ。 そこなら、次の目的地にも近いし、私の魔法ですぐに行けるわ」
と言った。
なるほど、それは名案だ―――という事になった。
そして、ディルは空間移動魔法を発動させた。
一瞬で俺たちはディルの別荘に到着したのだった―――
今回のディルの別荘は海の近くだった。
白い砂浜、夕暮れの空……そして、海には星のようなサンゴが広がる。
心奪われるような景色の中―――ポツンと、一軒の家が建っている。
しかし、外観を損なわないような、美しい建物だった。
本当―――ディルは、こんな別荘をいったい、いくつ持ってるんだ?
「いいところじゃな―――ここは。 心が落ち着くわい」
「いいところだけどさ、うちは疲れたからもう寝たいわ……ふわーあ……」
エンは大きな欠伸をしている。
今日1日で、よっぽど疲れてしまったのだろう。
「俺も寝るかな―――翔琉今日も一緒に……!」
ライは声にならない悲鳴を上げた。
続けてリュウも――――
それに反応して、俺以外はみんな同じ場所を見た。
――――まあ確かにこの状況は驚きだろう、さっきまで殺し合いをしていたボルと俺は砂遊びをしていたからだ。
砂遊び―――と言うか、砂山を作って某倒しをしている。
「ほら! 次は、翔琉の番だぞ!」
「はいはい、よいしょっと―――じゃあ、次はボルの番ね」
こんな感じで、砂山崩しをして遊んでいるその光景は衝撃的だろう。
「翔琉ちゃん! あんた敵となに仲良くしてんのよ!」
「え?」
「え?じゃないぜ。 なにしてんだ翔琉! ボルは危険なんだぞ! すぐ離れろ!」
「大丈夫だって。 今はホルブの魔法で能力失ってるんだから、問題ないよ――――ライもやる?」
「翔琉ちゃん!いくらライといえどさすがに――――」
「そうだぞ、翔琉―――ゴロゴロしてくれ~♪」
「やるのかよ!」
ぴょんと、ライが近寄ってきたので、首筋を俺が撫でると幼児体型になった。
「翔琉~♪」
とロリライは俺の膝元に座った。
前に俺もライに膝に、ちょこん、と座らされた事があるのだが、今回はそれと逆の立場になってしまったようだ。
猫を膝に乗っける少年―――それが現在の俺である。
まあ、猫、ではなく、虎、と言う表記が正しいのだがな。
「翔琉、ほらお前の番だぞ!」
「翔琉~ゴロゴロ♪」
何なんだろうか?
俺は虎に好かれる性質でもあるのか?――――そして何より、ここは桃源郷なのか?
可愛らしい猫(虎)たちに囲まれるとか、ある意味幸せなのでは?
「ホルブ! あたしも幼児体型にして! あたしもあの空間に混ざりたい!」
「いやいや、流石に無理じゃろ―――」
「なんでよ~!」
痴話喧嘩のような小競り合いが、あちらで始まった時、ディルとエンは
「じゃあ、私ご飯作るね~」
「飯まで休ませてもらうよ、うちは」
そういって、ディルとエンは別荘内へ入って行った―――
「ホルブ!」
「ババア若返らせるとか大変じゃろ。」
「うっせえな!ババア言うな!」
痴話喧嘩がエスカレートしている模様。
知らないふり知らないふりっと―――
「翔琉!抱っこ!」
突然ライはそういって、抱き付いてきた。
ボルも負けずに
「あ! ずるい! 翔琉、俺はおんぶしてほしい!」
と言って、俺の背中を駆け上がってきた。
なんだろう―――俺将来博士より保育士とかの方が向いているのかな?
そう思う、黄昏なのであった―――――




