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1stステージ1:ディルとの出会い

塩で爆発しねぇよ、普通。

俺が気が付くと、そこは闇だった。

闇と言う表現では、いささか想像がつきにくいと思うが、それしか表現方法が見当たらないというくらいの、闇だった。

 黒々しい闇の世界ーーー俺はそんな世界の空中にふわふわと漂っていた。

先程まで、身体を襲っていた激痛はしなかった。

 しかしながら、生きているという事は実感ができなかったーーー何故なら、身体が微塵も動かすことができなかったからだ。

 かろうじて目は開けていられるが、ここは光も音も無い世界ーーーただただ闇しか見えず、なにも聞こえずで、視覚も聴覚も何にも役には立たなかった。

 必死に身体を動かそうと力を込めるが、指一本も動かすことは叶わない。


「さすがに爆発に巻き込まれたら死ぬよな……じゃあ、ここは死後の世界かな……」


辛うじて動く口で、俺は虚空の中で呟いていた。


「俺は本当に死んだのだろうか……もし死んだのなら……あーあ……夢半ばに散るのか……俺の人生はこんなところで終わりなんだな……」


 頭の中にはこれまでの自分の人生における、楽しい思い出や悲しい思い出などが、走馬灯のように広がって行った。

 ついでに嫌な思い出も思い出してしまって、すごく不快な気分になってしまっているが、今一番不快なのは、身体の自由が利かないという事だ。

 まるで磔にされているような、まるで氷漬けにされているような、まるで神経をすべて切られてしまっているかのような……そんな感覚で、そんな感じで動かせない。

 普段できているという事を突然できなくされると、人間はこうも脆くて弱い動物になってしまうのだな。


 「あーあ……俺はここでおしまいだな……俺の人生はこれでおしまいか……めでたく無し、めでたく無し―――――」


とまあ、こんな感じでネガティブ思考が心までをも支配しかけたその時であった。


 ”こんなところで終わるのかい?”


 と、暗闇の中で俺に向かって、誰かがしゃべった。

というか、声がした。

しかし、俺は「死ぬ間際にはよくあるという、幻聴の1種であろう……」という風に捉えてしまい、深いため息をついた。


「一種の死の間際に聞こえる天使の声と言う奴であろうかーーー天使が迎えに来たという事は、俺は天国に行くのかな?本だと、女神さまが水浴びしたり、ハープを奏でいている、あのおとぎ話の世界へと旅立っていくという事だったりして、ははっ……」


 しかしながら、今度はその幻聴ははっきりとした口調で言う。


 ”こんなところで君の人生は終るのかい?翔琉君。”


 「何故俺の名前を知っているんだ!」と言い返そうと思ったが、残念な事に、急に口が動かなかった。

 しゃべりたくとも口が動かない……。というか、呼吸すら少し苦しいと思ってきてしまうほどだった――――なので、聞こえるかはともかく、言い返さないと気が済まなかった俺は、心の中で思い切り叫んだ。

 怒りを発散させるがごとく、不満をぶちまけるがごとく、自分の気持ちに嘘偽りなく、正直な事を言った。


「お前、誰だよ!」


 すると、急に光で世界が満たされていく。

そのあまりの光に俺は目が眩み、瞳を閉じた。そして、黒くて暗い闇の空間が明るくなり、何故か俺は見知らぬ草原の上にいた。

 さわやかな風が吹き、時々花の匂いが混じっていて、甘い香りがする……そんな草原に。


 「ここは……どこだ?」


 俺は辺りを見回そうと、無駄だとは思ったけど上体を起こしてみよう。

不思議と先ほどまで全然動かなかった身体は、指先に至るまではっきりと動かすことが出来た。

 全身に血が行き渡り、手や足を動かしているこの感覚が懐かしく思えた。

 そして、辺りを見回した結果得られたのは、空には太陽が2つあり、幻獣であるドラゴンやキメラが飛び交うファンタジー世界。そして、高い山々が辺りに見えた。


「ここがうわさに聞く、天国と言うものなのだろうか?どちらかと言えば、天国と言うよりは、RPGに出てきそうな世界に見えるな……そう、ドラクエとかに出てきそうな世界観だな……ってまて、俺!ありえない……こんなことって……」


 と、俺はその場に倒れるように座り込んで、真っ青になりながらぶつぶつと、ひたすら現実逃避をしていた。

 完全に思考が停止に近づいている感覚であった。

先程まで、理論や化学を専攻し、勉強していた人間がら非化学的なメルヘンチックなファンタジーな世界に来てしまったのだから、当然といえば当然なのかもしれない。


「現実と空想の見分けがつかなくなってしまったのだろうか?いや、そもそも学校の、理科室の窓から吹き飛んだら、こんな草原が広がっているという事がおかしい。俺の行っている学校の場合だと、グラウンドが無ければおかしいはずである。本当にありえない事の繰り返しだ――――」

「ありえないと思っても現実を受け入れなきゃダメだよ、翔琉君!」


 唐突に俺の耳には、先ほど闇の聞こえた声が、だいぶはっきりと後ろから聞こえた。

 優しい口調で、強気な口調で、威圧的な口調で、はっきりと感じるがままに聞き取れた。

 恐る恐る、後ろを振り向くと、同じ年に見える女の子がにこりとして立っていた。

髪が長めでとても可愛らしく、翔琉より身長は俺より低い。服装というか、ファッションが独特的で、白いフリフリとしたワンピースに小手などの防具を装着している、個性的なファッションだった。

 俺は、ニコリと笑っている彼女に対して、顔色をうかがいつつ、警戒しつつ質問をした。


「君はいったい誰?そしてここは、どこなんだい?」


 そう尋ねると彼女は、悪びれもせず、何のためらいもなくこう言いう。


「ああ、自己紹介しなきゃね。私の名前はディル。この世界【魔がさす楽園】(イニシエンドリーム)の住人だよ」


「イニシエンドリーム?何を言っているんだこの女は」と、俺はますます警戒心を強めたーーー神経を尖らせて、あからさまに顔色をうかがい、更には彼女の動き1つ1つまでにも警戒を強めている。

 よくわからない場所で、不思議な事を言う奴ほど危ない奴であるのは、世間、一般的に当然な判断で、至極まっとうな考えであろう。

 その、警戒しているのがどうやら、あからさまに顔に出てしまっていたらしく、彼女ーーーディルは俺の警戒を取ろうと、再び笑顔で話をした。


「そんなに警戒しなくていいよ。お姉さんは怪しい人じゃないから」


 と手を振るのだが、俺にはむしろその行動が恐ろしく感じて、ビクッと身体が動いてしまった。

「ここで引いてしまっては、相手の思うつぼになってしまう……」そう思った俺は、少し強い口調で、ディルに言い返す。


「怪しい人じゃない?それは俺が決めることだ!だいたいさっきから君は何を言っているんだ?常識的に考えて、そんなわけのわからないことを言う奴なんかは、大抵怪しいと決まっているんだ!」


 すると彼女はムスッと顔を少し膨らませて「酷い、言い方するんだね。じゃあ、率直に聞くけどさ……じゃあ、ここはどこなのか、君の常識的に説明してみてよ」と悪戯めいた質問をした。

 その”悪戯”に、俺はうまく対応することが出来ず


「それは……その……そんなことを急に言われても、答えられるはずがないじゃないか!」


 と逆ギレみたいな言い回しになって言い返してしまった。

 「しまった、やってしまった……」と言う感じで、俺の表情は曇り始めた。


 「そんなことを急に言われても、俺には現在、回答に至るほどの情報は持ち合わせていないし……それに、分からないことは分からないし……」


 弱弱しく言った後に、俺は下を俯いたーーーなぜならば、自分が恥ずかしくなったからだ。

 女の子相手に、むきになって色々と言っている自分にーーー何より、憤りを他人にぶつけているという行動そのものに……俺は卑怯者になってしまったように感じた。

 そんな俺に見かねたディルは、やれやれと言わんばかりにため息をつく。


「答えられないんでしょ?いい加減に、今の自分のおかされている状況を判断しなさい……ね?」


 そうディルは、優しく言った。

 俺は俯いていた顔を上げて見た彼女の顔は、慈愛に満ちたとても優しい顔に感じた。

 警戒していて、憤りを感じていた心は、次第に落ち着きを取り戻し、ようやく正常に物事を考える事が出来るようになった。

 そしてすごく虚しくなって、悔しくなった。


「なんで、こんな気持ちになるんだろう……」


 そんなことを思っている俺の目には、若干涙が出かかっていた。ディルはそんな俺の顔を覗き込もうとしたが、俺はそれを見せないように、急いで目元をふいた。

 濡れた袖を後ろに隠しつつ、ディルに翔琉は素直に尋ねた。


「じゃあ、教えてくれ。さっきまで俺のいた理科室はどこに行ったんだ?君はそれを知っているか?」


 また少し強い口調になってしまったが、ディルは気にせずに、うんと頷いて質問に答える。


「理科室?ああ、なるほど……君がいた場所のことかな?状況から考えて君はその理科室とやらから、この異世界に来てしまったと――――そうとらえるのが正しい」


 どうやらディルにはこの俺ーーー天野翔琉に何が起きたのか知っている様子だった。

 更に俺は、先ほどの言葉の中で、引っかかるワードがあったことに気付いた。


 ”この世界に来てしまった?”


 と言う言葉である。

 普通"この場所に来てしまった"と言うならばまだ分かるのだが、彼女は確かに”この世界に来てしまった”と言った。

 この発言から俺は本当は、なんとなく理解していたがーーーだが現実と向き合うのが怖くなったせいなのか、改めて彼女に質問していた。


「この世界に来てしまった、とは、どどどういう意味だ?」


 明らかに俺は動揺している。

 一筋の汗が頬を伝うのが分かり、口元が乾いていく感覚があった。

 この世界に来てしまった、と言う単語に対して、過剰反応をしている。

 そんな中でも、ディルはあくまでも冷静に答えた。


「何らかの衝撃が空間に影響したんじゃないかな? 何か、そっちで爆発とかなかった?思い当たる節はある?」と彼女は聞く。

 俺は「確かに、爆発があった」と頭を抱え込んでうなだれる。


「あんな事が、あんな事で、俺は、俺は……」と、狼狽しきっている俺の背にディルは手を置き「大丈夫? まさか、ここまで落ち込むとは思っていなかったけど……」と心配そうに見つめている。


 はあ……と、俺は深いため息が出たーーーそして、落ち込んだ顔をどうにか上に持ちあげて、ディルに向かって聞く。


「あの……俺……どうしたらいいんですか……?」


 その声は震えていた。

俺の顔は真っ青で、身体はがたがたと震える――――が、ディルはそんな翔琉に対して、不思議と安心するような優しい顔をしている。


「大丈夫……大丈夫だから……」


 ディルの言葉に、何故だかわからないのだが、すごく安心した。

 そう、まるで母のような母性を感じるほどに、ごく自然に翔琉はリラックスすることが出来た――――そのおかげで、翔琉はどうにか落ち着きを取り戻した。

 そして俺は、まだ疑問に思っていたことをディルに聞いていたのだった。


「そういえばなんで、さっき君の声が聞こえたんだ? あの暗い空間でーーー」


 コホン、と軽く咳払いをしてディルは答えた。


「私は、異世界の監視者と呼ばれる役職についていてそこでこの世界に干渉しないか……またこちら側の者が別の世界に干渉しないかを見ているんだ。いつものように監視をしていると、何やら空間にひずみが入ってしまってね……何らかの要因でそうなったんだろうけど……そして、私はあの闇の空間に君がいるのを見たから、声をかけてたということさ。闇の世界に長時間いるのは危険だからこちら側に呼び込んだということかな」


 今の回答は、現在天野翔琉が置かれている状況としては、この異常な現状から考えて、真実なのであろうーーーしかしながら、俺にはまだ、疑問に思っていることが数多くあったがーーーしかしながら、他のものは後回しにして、今一番知りたいことを真っ先に彼女に問う。


「あと、これは一番疑問に思っていたことなんだけど……なんで俺の名前を知っているんだ?」


 この疑問に対して、ディルは悪ぶれもなくあっさりと答える。


「監視者の特権でね。違う世界の情報を知ることができるのさ。だから、君の事はさっき調べたのさ、天野翔琉くん」


 なるほど……と俺はとりあえず納得した。一応、話し的には問題はなさそうだが、この世界において個人情報なんてものはそんなに重要視されていないのかなーーーなんて考えることができるほど彼は大分落ち着きを取り戻していた。

それにしても、1人の人間が、個人情報読み放題とか、末恐ろしいものだ。

いくらなんでも、そんなに簡単に個人情報調べられるんだったら、デスノートとか持ってたら、全世界の生物がやばいじゃないかーーーLもびっくりするだろうな。


「なあ……えっと……ディルさん……あの……」

「ディルでいいわ。私も翔琉って呼び捨てにするから」


 ディルはやや顔を赤めながら言う。まるで純粋に恥ずかしがる女の子だったが、「何故、顔を赤めるんだろ?また怒っているのかな?」という風に俺は思っていたのだった。


「じゃあ、ディル。俺が元いた世界に帰る方法はないのか?」

「あるよーーー君の世界への帰り方……」

「え、ほんと?教えてくれ!どうやったら帰れるんだ?」


 と聞くと、ディルは無言で彼の手を引きながら草原の向こう側へと走る。

 いったいどこへ連れていかれるのか、全く説明もなかったので、正直俺は戸惑っていた。

 そして草原を超えると何やら高い塔が見えてきた―――――塔の下には町があったが、人気もなさそうで、廃墟のようだが……。

ピタリとディルは突然足を止めて、塔を指さす。


「あそこが、異世界へと繋がる(ゲート)【オールドア】がある場所だよ。オールドアはすべての世界に行くことができる伝説の扉。あそこをくぐれば、翔琉のいた元の世界へ帰れるよ――――」

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