4thステージ35:天野蘚琉の真実⑥
「お前たちを殺してやる……」
そういって彼女は拳銃を、3人の男たちに向けた。一人は肉親、一人は元同僚、一人は自身の子供のように可愛がっている子供……。
だが、天野蘚琉にとってはもうどうでもよかった。自分の不老不死化は夜弥の薬によって解除された。彼女は地下から這い上がる前にそれを確認した。近くにあったビーカーを叩き割って、その破片で手を傷付けた。以前ならば直ぐに回復したが、今回は回復しなかった。つまり、もう自分自身は不老不死ではないと悟ったーーーが、このどうしようもない怒りと憎しみが押さえきれなかった。手始めに誰か殺したい……そう願った彼女は、研究所の緊急防衛システムを作動させ、3人を閉じ込めた。
ひとりひとり、確実に惨たらしく殺すためにーーー。
「お兄ちゃん、夜弥さん、狼牙……美男子勢揃いのこの状況で誰から殺していこうかしら♪」
「やめろ、蘚琉!こんなことしてなんになる!」
「あら?お兄ちゃん……私に口答えするの?そんな悪い子にはお仕置きだ♪」
バン、と1発の弾丸は放たれた。しかしながら、その弾丸は天野翔琉を貫くことはなかった。もちろん彼がかわしたわけでも、玉が外れた訳でなく……別の人物が天野翔琉と弾丸の間に入り、盾になったからだ。その人物はこの中で一番幼い、天野狼牙だった。
「う……」
と、呻き声を出し、狼牙は地面に倒れた。ドクドクとお腹に空いた弾痕より血を流して……。
「狼牙!しっかりしろ!狼牙!」
そういって天野翔琉は、狼牙を抱き抱えると2階にある医務室へと駆け出した。一方夜弥は、天野蘚琉と対峙した。彼にとっての罪滅ぼしなのか、なんなのかは分からないが、親友の天野翔琉を救うためだけに、彼はこの脅威に立ち向かうことにしたのうだ。
「あらあら、夜弥さんたら……私をこんなにした張本人……ぶっ殺すだけじゃぁ面白くないわね……さてさて、どうしてやろうかしら」
うふふふっと蘚琉は不気味な笑い声を上げて、顔を左手で覆いながら右手で夜弥に拳銃を向けているーーー確実に殺すために、彼の脳を目掛けて……。
「しっかりしろ!狼牙!」
天野翔琉は、2階にある医務室にて、天野狼牙の手当てをしていた。幸いにも、弾丸は狼牙の身体には残ってはいなかったものの、彼の身体を易々と貫通していた。しかも、心臓の近くを……。
「狼牙!まってろ、お兄ちゃんが必ず助けてやるからな!」
「翔琉……お兄ちゃん……」
微かながらにでた声は、親しそうに少年を呼ぶ声だった。
「狼牙!しっかりしろよ……必ずよくなるから……」
「お兄ちゃん……お願いがあるんだ……」
「なんだ?狼牙……」
「おいらの記憶を……改竄してくれ……」
「こんな時に何をいっているんだ!」
「俺の……俺の中に天野蘚琉を封じ込める……だけど……その代償として……俺は蘚琉の闇に侵食される……そうなったら……全ての生物を殺してしまう……」
「だからってなんでお前の記憶を……」
「意図的に改竄されれば……おいらの記憶はお兄ちゃんが保管してれば元に戻ることができる……だから、お兄ちゃん……お願いだ……おいらの記憶を……改竄してくれ……そして、天野蘚琉をおいらに封じ込めてくれ……蘚琉が元に戻るまで……おいらが蘚琉を守る……幸い……寿命は長い……いつか必ず元に戻して見せるから……頼む……お兄ちゃん……」
と狼牙が、いい終えたとき医務室のドアを蹴破ろうとする音が響く。
「あははは♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪夜弥さんはもう殺したよ♪もうあとは、お兄ちゃんと狼牙だけ……開けてよ♪開けてよ♪殺してあげるから開けてよ♪この蘚琉様が直々に手を下してやるから、さっさと開けてよ♪あははは♪」
翔琉は悩んだ。どうにか狼牙の言ったとおり意外に打開する策はないかとーーーしかし、なにも思い付かなかった。全盛期ならまだしも、今の劣化した彼の頭ではなにも思い付かなかった。
「くそぉ!!!俺は、俺は……こんな時に妹一人救えず、弟に責任を押し付けなければならいなんて……何て無力なんだ……無力なんだ……ごめんな、狼牙……許してくれ狼牙……もう、お前の言われた通りにやるしかないみたいだな……」
そういって翔琉は苦肉の策である、狼牙の指示に従うことした。医務室にあった、記憶改竄薬……これを天野狼牙に投与した。この薬は、強制的に催眠暗示を起こさせるものだった。
「天野狼牙……お前は今日から、天野蘚琉を愛し続ける異常な怪物【パラノイア】だ。お前の指名は、天野蘚琉を愛し、天野蘚琉を守り、天野蘚琉を封じ込める物だ。どんな世界へ行こうとも、どんな状況に陥っても進化し続けることのできる生物であるお前なら……必ず蘚琉を元に戻せるはずだ……この催眠を解くには、天野蘚琉が正常に戻るか、お前の中に封じられた天野蘚琉が抜けてから24時間経過したのちに失った記憶を取り戻すことにする……最後に……仕上げとして、天野翔琉を殺せ……そして、油断している蘚琉を封印しろ……あとは頼んだぞ、狼牙……」
そういって天野翔琉は、狼牙に強烈な催眠をかけた。その瞬間、扉は蹴破られて、夜弥の首が天野翔琉の足元に転がってきた。
「うふふ……お兄ちゃんも今すぐ楽にしてあげるからね……」
そういって、天野蘚琉は兄を殺そうと近づくが、時すでに遅し……。天野狼牙の手によって、天野翔琉は殺された。キョトンとしている彼女を見て、天野狼牙は……いや、パラノイアは言った。
「始めまして蘚琉……おいらは、パラノイア……よろしくね♪」
そして、狼牙はーーーいや、パラノイアは油断した天野蘚琉を丸のみにして彼女を自らの身体に封じ込めた。そして、彼は理解した。彼女は回復力を失っているが、不老不死は解除されていなかった。未だに化物である彼女を封じ込めたパラノイアは、安堵していた。これならば彼女が戻るまで長い時間を得ても問題ないとーーー。
だが、直後……彼は天野蘚琉の悪に……闇に侵食される。そして、それが全てを覆ったとき……彼は超越した生物に生まれ変わっていた。
何者でも喰らい、エネルギーを欲し……そして、天野翔琉という存在全てを抹殺することを目的にした怪物へと……。




