4thステージ21:世界に二人だけ
「治療女王魔法発動……」という掛け声と同時に戦闘が始まった。その瞬間、あたしの腕は一瞬にして無くなっていた。正確には食い千切られたというのが正しいのかもしれない。だが、すぐに再生する。
「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
と、パラノイアは雄叫びをあげて伏神殿を破壊し始めた。歴史上にも残るほどの神のお社を壊すなんて……罰当たりめ。
「っと、ここじゃあ危ないから、【イニシエンドリーム】へ戻らなきゃ」
と、あたしは最初に入ってきた入り口へ向かう。その後ろからパラノイアが獣走りで追いかけてくる。
「マテェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェァァァ」
もうなんというか、目も当てられないほどに怒りで我を忘れてしまっている。目が赤くなり、血涙を流しながら、彼は走ってくるのだ。
あたしは、息を枯らすように全力で走る。ここで魔法で移動すればいいじゃないか、というのは確かにあるだろう。だが、あまり余計なことに魔力を使うわけにもいかない。だから、あたしは走っているのだ。
「はぁ……はぁ……もう少し!」
入り口が見えた瞬間、あたしはそこへ飛び込むように思いっきりジャンプした。そして、あたしは【イニシエンドリーム】へと帰還した。獣を引き連れて……世界で唯一……否、唯二しかいないこの世界へ。
「タイムリミットは、あと……いや、気にしなくていいのか……」
あたしは地に降り立つと、すぐさま癒しの泉へと向かった。起源泉のある洞窟へと向かい、その場所へ居座った。かつての世界最強の女が作った最強の回復アイテム。それを背にしているんだ。例えるなら勇者が魔王戦を、回復の泉に入りながら行うみたいな、そんな感じになってるんだよね。
「翔琉が来るまで……どうにか持ちこたえなきゃ……ディル……まだなの?」
ポツポツと鍾乳洞から落ちてくる雫を眺めながら、ぶつぶつと誰もいないのにあたしは愚痴を言ったりしている。他の人からみたら、これはどういう光景なんだろうね。頭がおかしくなった人なのかな?それとも、一人を紛らわそうとする可哀想な女に見えるのかな?
なんてことはない。人間は一人になると独り言が増えるものだ。所詮孤独には勝てない。誰かとの繋がりを持った時点で、人間はその繋がりを切っても、また繋がりを求めてしまうものなのだ。
「そういえば、パラノイア……いえ、狼牙はいったい何をしているのかしら? さっきの水晶から飛び出てきたことを考えると、探知系の魔法を逆探知されてたんだな……迂闊だった……」
「でもどうしようかな……これから……ここにいればとりあえず翔琉が来るまでにはなんとか持ちこたえられるけど……問題は時空図書館のみんなよね……全員が魔力零で活動停止状態……一応、転送した時に全ての生物に生命凍結をかけといたから、身体的には死なないはずだけど……」
「はぁ……どうしよう……時空図書館で今起きてるのは天野蘚琉のみ……だからな……蘚琉が翔琉ちゃんみたいに神魔法でも使えてたら、今ごろ全員完全回復してるんだろうけどね……中々そう、うまくはいかないでしょうし……」
「翔琉ちゃん……あなたの存在に頼ってばかりで申し訳ないけど……この世界に生きるものでは、パラノイアには勝てない……魔力零という症状には抗えない構造になってるからね……今もしも狼牙に勝てるとすれば、魔力零が効かなくて、魔法耐性が高い翔琉ちゃんだけ……‼」
「……翔琉ちゃんだけ? いや待てよ……始まりの神って、魔力零に対してなにか対策してたよな……なんだっけ……」
「うーん……」
「うーん……」
「あ! そうだ! あれだ……あれがあったんだ」
「神が作ったとされる20個の宝具の1つにして、書物だけの伝説の道具魔法となっている秘匿武具……【幻想詩】。 鍵状のネックレスで、装備すると魔力消費と魔力吸収……そして、魔力零を無効にするチートアイテム……でもな……」
「どこにあるか分からないんだよな……始まりの神が破れた際に、砕けたとも、封印されたとも、奪われたとも言われてる曖昧な物だからな……」
自問自答のように、一人で独りでに会話を続けていたあたしだったが、最後に出た話題のことが気がかりとなり、思いきって探知をしてみることにした。もちろん、パラノイアに見つからないように……。
すると面白いことが分かった。
幻想詩は確かに存在することと、その現在の在りかだ。在りかは、始まりの神が埋葬されたとされる【創始神墓地】。この泉より北に2km行ったところにある神が眠る地。
問題は、外をうろつく化け物がいる中……その真偽が分からない道具を取りに行くかということだろう……。




