4thステージ12:天野蘚琉の物語②
"私は所長となってからも、毎日毎日……必死になって研究を続けていた。もう1人、共同研究者と一緒に毎日失敗してはデータを作って、失敗してはデータを作って……っと繰り返していった。
ちなみに、その共同研究者というのは翔琉お兄ちゃんの親友【斬神夜弥】。真っ黒いツンツンの髪型に、白衣の中に格好いい、パーカーとアクセサリーを着こなすファッションセンス高い青年だ。お兄ちゃんと同級生で、当時のお兄ちゃんと同じ程の神童と呼ばれていたけど、素行不良で良く停学とかになっていた男性だった。 でも、お兄ちゃんだけはそんな夜弥さんに常変わらず接していて、夜弥さんの行動を完全に抑制できるのはお兄ちゃんだけだった。
「おーい、翔琉妹……こっちのビーカーは、どこにしまうんだ?」
「もう、蘚琉って呼ぶか、所長ってんでください!」
「固いこと言うなよ、翔琉妹。 んで、ビーカーは?」
「あ、すみません。 えっと、二番の棚に閉まっておいて貰えますか?」
「ういーっす! 了解」
軽々しくビーカーを山積みにして、移動していく彼に内心ドキドキしながら見送っていた。
割るなよ、割るなよ……。
パソコンの画面を眺めながら、私はある日深いため息をついていた。
「うーん……うまくデータが集まらないな……早くお兄ちゃんを蘇らせたいのに……ふぅ……ひゃぁ!」
思わず悲鳴をあげてしまった。何か首筋に冷たいものが当たった触感……。
恐る恐る後ろを見ると、夜弥さんが私の首筋に当てていた缶コーヒーを退けていた。
「おお! 可愛い悲鳴!」
「もう! 夜弥さん! ビックリしたじゃないですか!」
「ごめんごめん、なんか結構怖い顔してたから、リラックスさせてやろうと思ってな」
「もう……あれ?」
どうやらキーボードの変なところを触ってしまったらしく、データ欄に別の組成が描かれていた。
「あれ! 変なとこ触っちゃったかな……もう……」
と、私が元に戻そうとしたとき夜弥さんはその手を止めさせた。いつものように悪ふざけかと思ったら真剣な面持ちになっていた。
「おい、所長……」
「ん?なに? ……! 今所長って呼んでくれた……」
「お? あぁ、今はそれはどうでもいい。 この組成データ……1回試してみねーか?」
「ええ? でも、これって間違えて打ったデータだから、うまくいく保証ないよ。 いつも通り、理論と計算を構築して……」
「いや! やってみねーか? 失敗なんていつもやってるんだし……な?な?」
「まあ、夜弥さんがそこまで言うならやりましょうか……」
この時私は知らなかった。この実験が後の悲劇と惨劇を生み出したきっかけであったことを……。"




