4thステージ11:天野蘚琉の物語①
"これから語るのは、全て過去に起こった物語……。そして、私の罪深き物語でもある。
私が意識を失ったあと……いったい何万何千何億何兆年過ぎたかは分からないので、具体的な【昔】というのは把握していない。なので、私が意識を失ったまでの出来事を語りたいと思う。
当時、中学3年生の私には同じ年齢の兄がいた。双子の兄……天野翔琉だ。
勉強面でも運動面でも、兄はすごい才能を持っていた。当時難問とされていて、現代では解読不能とされていた【ミレニアム問題】を、3つほど定理と解答を導きだし、【現代数学の神童】とまで言われた。 そんな彼の夢は、【世界中で誰もが助かる薬を開発する】というものだった。つまりは、万能薬を作るというのだ。
私はそれに共感して、なにか役に立てないかと模索した。その時の私はまだ医学については何も興味を持っていなかった。だから、1から勉強しなきゃな……とまで、考えていた程度だった。
そして、高校の進路も決まった12月1日……それは突然訪れた。
兄が死んだのだ。
交通事故で、乗っていたバスにトラックが突っ込んで……そのまま彼は帰らぬ人となった。トラックの運転手は飲酒をしていて、事故当時のことすら覚えていないと、言っていたと私は両親から聞いた。だけど、私は泣いていてよく覚えていなかった。大好きな兄の死をきっかけに、私の中でなにかが変わった。
兄にもう一度会いたい……そう思って死のうともした。
でも、ふと兄の言葉を思い出した。
「世界中で誰もが助かる薬を開発する」
誰もが助かる……ということは、死人も助かる薬を開発すればいいんじゃないか。
私はこの時、決意した。兄を蘇らせる薬を作ろうと。
とりあえず、兄の肉体を腐らせないようにするために、私はまず特殊な液体を作るところから始めた。この特殊な液体に生物を入れておくと、腐らないし入れたときからの時間を止めてしまうという代物だった。
驚異的なスピードと、兄の残していたレポートなどから僅か二日ほどで完成した。その中に兄を入れて、私は兄がミレニアム問題を解いた際に貰った懸賞金で研究所を作り上げた。
中学卒業と同時に私は、研究所の所長になって兄を蘇らせる実験を始めたんだ。"




