4thステージ8:健全なる強奪
「そんな……蘚琉が目を覚ました……蘚琉!!」
っと、パラノイアは蘚琉に駆け寄ろうとするが檻に阻まれて近付くことはできない。ガシャガシャと、檻を怖そうと必死に叩くがいっこうに壊れる気配など無かった。
「無駄だパラノイア……その檻は、お前のような魔力零を使う生命体のための対策として考えられた状態だ。 そう易々と破壊することは出来ぬ」
ロギウスは、そういって檻を見上げている。檻の中から野蛮な獣の悲痛な叫び声と怒号が飛び交うなか、あたしは蘚琉を地上へと誘う。
「おっと……きゃっ!」
着地とともに、バランスを崩した蘚琉は、地面に倒れてしまった。無理もない……しばらく歩いていなかったのだから、足の筋肉が衰弱しきっている。これは暫くリハビリが必要だな。
「肩貸すわ」
と、あたしは手をさしのべ彼女を掬い上げる。さながらお姫様だっこのような形をとった。あーあ……翔琉ちゃんにやってほしいなこれ。
「ありがとうございます……えっと……あなたたちはいったい……」
「あたしの名前はリュウ。 まあ、医者ってことでいいわ。 あそこにいる男はロギウス。 まあ、神様ってことでいいわ」
「医者は分かるけど、神様って!え!?」
分かりやすいリアクションを取ってくれて、ありがとうございます。まあ、今となっては当たり前になっちゃってるから実感が薄くなっているのもあれなのだけど……本当は易々と神様になんか会えないのが普通よね。こうして、神様にお願いとか色々しちゃったり、されちゃったりしてるのが異常なのよね。
「まあ、とりあえず神様なんだってことで、割り切って貰っていいかな?」
「んじゃ、はい……そうしないと、話が進まないんですもんね」
「あら、物分かりのいい人だね。 あたしは、そういう人好きよ……もちろん人として。 恋愛感情なら、あたしはもちろんあの人だけね……」
ふふふっと、顔が赤くなってしまった。恋する乙女の顔って真っ赤になるものよね。
「えっと……リュウさん……? で、いいんですよね?」
「そうよ、なに?」
「さっきの話って本当ですか? 兄が……翔琉お兄ちゃんが生きてるって……」
「ええ……今のところ、あの化け物に殺されなきゃね……」
と、チラッとあたしはパラノイアの閉じ込められている檻を見る。パラノイアは依然として、檻を壊そうと死に物狂いで這えずり回っている。生物って追い詰められると、あんな感じになるんだな。まあ、【窮鼠、猫を噛む】って言葉もあるくらいだからある意味当然なのかもしれないね。
「あ……パラノイア……」
と、恐怖に脅えながら彼女はその獣の名を口にした。兄を殺し続けた獣の姿を直視するということは、彼女にとってどんなに辛いことなのか、あたしには想像が及ばない。だけど、痛くて辛いと言うことだけは何となくわかる。大切な人を目の前で失う痛み……それは、どんな傷よりもある意味で痛いものなのかもしれない……。
「蘚琉! 蘚琉がおいらの名前呼んでくれた! 蘚琉がおいらの方を見てくれた! 蘚琉♪ 愛してるよ♪」
暴れることを止めて、まるで子犬のようにうるうると主人を見つめる一匹の檻の中の獣。
そんな、獣に主人はにこりと笑みをこぼして……。
「パラノイア……私に好意を抱いてるのは、わかった……でも、お兄ちゃんを殺した瞬間、あなたは人殺しの獣になってしまった……そんなあなたを愛し返すことはできない……だから、私は厳しいことを言いましょう……あなたのことが嫌いだわ!」
と、冷たい一言を発したのだった……。その瞬間、獣の理性は消え失せた。




