3rdステージ47:均衡を破る召喚魔法
10時間前のとある会話。
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「ライ……私の出番まだ?」
「あー……もうすぐだ……だから、いつでも召喚魔法使えるようにしておけ」
「んで? なに召喚するの?」
「何が召喚できるんだ?」
「そうね……幻獣から、神様まで多種多様ね……」
「神様、喚べるのかよ!」
「まあでも、それにはかなりのリスクが伴うんだけどね……下手すると死んじゃうし」
「あー……そうか……そうだよな……気軽に神様みたいな能力持つやつなんてそうそういないよな……」
「そうね……異世界から現れた謎の天才少年でもないかぎりはね……」
「だよな……あーあ……翔琉を召喚できたらな……」
「できるわよ」
「できるのか……そうかそうか……………………‼ できんのかよ!」
「天野翔琉くんなら、ノーリスクで召喚できるけど……でも、持って3分だし、この世界に来たときの時間軸での天野翔琉くんしか喚べないけど……構わない?」
「3分? そんだけあれば、天野翔琉にとっては余裕過ぎるね……」
「じゃあ、召喚準備に入るわね……10時間ほどかかるから、それまで持ちこたえてね……師匠♪」
「長すぎ!」
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そして再び現在、つまりは10時間後に戻る。
世界は常々に変化している。
だが、時間の流れを戻すことは出来ない。
起こった出来事を回避することは出来ない。
だが、改革や変化は与えることができる。
それは、すなわち均衡を崩すこと。
それが、世界を動かしてきている原動力なのだ。
「お待たせ、師匠♪」
そういって、突如現れた少女を見ながら私はそう思った。
なぜだか知らないが、彼女は起爆剤のような者だと私は確信していた。
「遅いぞ!」
「ごめんごめん♪ 思った以上に魔方陣に時間かけちゃった♪ だから、時間が10分に増えたよ」
「おぉ! すげぇ! よくやったな♪」
そういって、少女の頭をなでなでするライ。
まるで、お兄ちゃんみたいだ。
「彼女は何者なの?」
と、周りは思っているはずだろう。
当然私もその一人だ。
だが唯一……いや、唯二知っているものがいた。
それは、ホルブとトルネ。
彼らは彼女の正体を知っている。
彼女の名前は、フィリ。
精霊族王女にして、召喚魔法と精霊王魔法の使い手。
以前暗黒魔法教団教祖ブラッドも召喚魔法を使用していたよね(※オールドア編参照)。
その時の魔法は時空間魔法禁忌【過去人召喚】。
過去の人物を召喚するので、時間干渉という時間の掟を破るもの。
代償として、術者の感情をねじ曲げる傾向があるのだ。
ブラッド……ロギウスの元で、ちゃんと頑張ってるかな?
心配だわ。
「じゃあ、そろそろ召喚時間ね♪ 東西南北を分かち合う全ての仲人よ……我らの悲願のために……祈り捧げし一人の男を喚び覚ませ……召喚!天野翔琉!」
彼女がそう叫ぶと、辺り一面が光輝く。
まさか、これって魔方陣の上?
「いつのまに……というか、翔琉!? 翔琉を召喚するの!?」
「え?翔琉ちゃん!?」
「え?翔琉?!」
「え?翔琉さん!?」
「え?翔琉くん!?」
みんな翔琉って言葉に反応しすぎだろ(私もだけど……)。
だが、その名を喚ぶその先に、彼はいた。
ボロボロの白衣、そして中性的な顔立ちにあの髪型……まさしく……
「ん? あー、みんな! そうだよ! 俺の名前は天野翔琉。 普通で普通な神域魔導士さ」
天野翔琉。
まさしくこの世界における【異世界最強の魔導士】。
死の淵から蘇る男。
不死身なようで不死身じゃない魔導士。
神に認められ、神を宿す少年。
数々の伝説を残した少年を召喚。
私の愛した男……ジンライの親……。
「翔琉……」
何でだろう。
自然と涙がこぼれ落ちていた。
ひとときのまやかしなのに……なのに、会えたってことがとても嬉しかった。
私が泣いているのに気づいた翔琉は、こちらに歩み寄って自身の胸元に私の顔を引き寄せて。
「大丈夫、大丈夫……俺が来たからもう安心だ……だから、いつもみたいに笑っていてくれ……ディル」
「翔琉……」
ぎゅっと、抱き締められた私に向かってリュウやジンライたちが何か言ってるけど、ズルいとか色々言ってるけど、無視しよう。
今は、今だけは……。
「天野……翔琉……」
ギリッと、歯軋りを立ててシバは翔琉を睨んでいる。
それに気がついた翔琉は、飄々と。
「あれ? シバ儀長。 おっひさー。 相変わらず、企んでるような顔してるね……まだあの事怒ってるんですか?」
「あぁ!そうだな!お前のせいで、そこの女を生け贄として使用するしかなくなったからな……お前が持ってる不老不死の薬の情報さえ手にはいればこんなことには……」
「ふーん……ディルたちがこんなに疲弊していて、何よりディルの記憶が一時期失われていたのもお前たちのせいだったんだ……へぇ……笑えないね……」
「さっさと、不老不死の薬の知識をあのとき……俺たちに渡しておけばよいものを……」
「もう、喋るのはこの辺にして……そろそろ、始めようか。 きっと、君ら5人を倒すために俺は喚ばれたんだろうし……」
「我ら5人を本当に倒すとでも?」
「倒すよ、ジャッジ儀長他4名さん。 あと、別に一人一人倒すの面倒だから、5人まとめてかかっておいでよ……」
その翔琉の台詞に、空気がガラリと変わった。
というか、5人の儀長全員の顔が豹変した。
恐ろしく、黒く、そして怒りの表情。
「「「「「いってくれるじゃないか……クソガキ……」」」」」
こうして、天野翔琉vs5人の儀長の想像を越えた、人知を越えた戦いが幕を開けた。




