3rdステージ45:儀長の実力
私はディルだ。
時間の監視者。
そうだ……そうだった……。
「私はディル……踊り子でもなければ、酒場の看板娘でもない……太古の大魔導士の一人……そうよ! それが、私なのよ!」
全て思い出した私は、はや着替えで服装を変える。
新しい衣装。
白い羽のようなものをぶら下げた時の巫女の服。
胸元には懐中時計を身につけ、振り袖の部分には黒い時の紋章を刻んである。
「それは……時の監視者の伝統服【時読衣】!」
と、アニオンは羨ましそうな目で見つめている。
この時読衣は、神が作り出したとされる20の宝具のひとつ。
代々時を守る者に継承される服装で、その能力は魔法なしで時空間を移動できる代物。
ただし、使用者はこの衣に選ばれたものしか着ることが出来ない。
他のものが着ようとすると、時間が巻き戻されてしまい、着れないのだ。
つまり、私はこの衣に選ばれているんだ。
「さあて……儀長たち……さんざんやってくれたわね」
と、私は彼らを睨み付ける。
ふん、と憤りをあらわにしながら。
「うるさい小娘……」
と、シバは言う。
反省の色はなしか……。
「世界魔法連合第50条緊急特例38号に乗っ取り、現時刻をもって儀長全員を解任……身柄を拘束する!」
と、フルートは彼らに向かって令状を出した。
そもそも世界魔法連合第50条とは、連合の上位の権力者が不正に働き悪事を働いた際に、全権限を白紙にして身柄を拘束するというものなのだ。
実質、彼らはもはや犯罪者。
なにより、心なき人形を弄び、あまつさえも人形を殺した。
人形は心が欲しかっただけだ。
消されることのない、永遠の感情。
それを手にしたかっただけなのに……。
いいように利用されて、彼は殺された。
この老害どものせいで……。
「輝ける王シバ、忘却の女王ダイアリー、太陽の守護ソル、黄昏の闇ファイバー、そして神の審判者ジャッジ……旧世代最強の元各属性の大魔導士たち……おとなしく捕まってくれますよね?」
「断る」
「ですよねー……じゃあ、倒して黙らせましょう」
そういって、私は指をならす。
時空間魔法発動の瞬間だ。
「静止」
そして時間は止まる。
私の任意の人物たち以外は動けないはずの魔法。
なのに、なぜやつらは動けてるんだ?
「審判魔法:強制執行……お前さんの魔法を儂らに効かぬように細工させてもらった。 これで、空間魔法も時間魔法も使用できまい……」
「なるほど……ジャッジさん、それがあなたの魔法……審判魔法……他者の魔法に条件を与えられる魔法……さすがは、元闇の大魔導士……異常状態系はお手のものってことですね……」
ジャッジ。
妖艶な顔をしたれっきとした男。
昔は女性に見られることが多かったらしいが、今ではすっかりおばさんのような顔だ(男なのに)。
まあ、服装からしておばさんなんだよな……。
どこぞの修道院のシスターみたいな格好してるし……。
「じゃあ、次は俺の番だ! 風の魔法:疾風怒号巻!」
トルネの最強風属性の魔法。
しかも、あのときのように王冠が外れてる。
つまりは、完全に本気の状態である。
停止した空間さえも切り裂きながら、5人の儀長に向かって放たれる。
「やれやれ……こまったちゃんだね、相変わらず僕ちゃんは……黄昏魔法:冥鵺」
すると、風は突如現れた闇夜のような黒い球体の中の取り込まれた。
「ふん、相変わらずですねファイバー先生……。 俺の攻撃は、やはりあなたに防がれてしまうと思いましたよ……」
「あらあら、先生だなんてまだ呼んでくれて嬉しいわね。 かつての教え子の成長ぶりに感激しながら戦えるだなんて嬉しい限りよ」
「ーーー黄昏魔法……風と闇属性の融合魔法にして消去魔法の能力をあわせ持つ魔法……相変わらず厄介ですね……」
「いやー、いい威力の風だったよ。 あの程度なら、5回くらいしか1度に防げないよ♪ すごく強くなったね♪」
ファイバー。
世界魔法連合内部の魔法学術園初代校長兼教授にして、数多くの魔導士たちを育て上げた敏腕教師。
年齢不詳といわれた顔立ちだが、最近ほうれい線がくっきりと見えてきて若々しくは見えなくなってきた女性だ。
いかにも教授というような服装で、首からフラスコの形のネックレスをぶら下げている。
天パのような癖毛が特徴的だ。
「じゃあ、今度は私たちが……!? きゃあ! パンツが!」
リュウとヒョウが、攻撃しようとした瞬間。
彼女たちのパンツを目の前の男が食べていた。
「いやぁ……もう……なんなの? てか、いつのまに! 下がスースーするよぉ……」
「くっ! お前だろ! ソル!」
男は、無愛想な表情をしながらパンツを飲み込んだ。
「いかにも……我の仕業だが?」
「これが噂に聞く、悪戯魔法」
ソル。
元雷の大魔導士だった男。
その性格はトルネよりも変態で、女子を見かけたらパンツを食べずにはいられない変態。
太陽のように明るい顔、とまでよばれた顔は脂で光っている年相応のオジサン。
服装は、自慢の筋肉を見せつけるかのようなピチッとした服装だ。
「これが……儀長たちの実力……」
と、ジンライは生唾をごくりと飲んだ。
変人にして変態にして異常な強さ。
これが、連合上位者の真の力。




