1stステージ14:神魔法の秘密
「翔琉! 翔琉! しっかりしろ、翔琉――――――‼」
とライは俺を揺さぶり叫ぶ――――そこに空間魔法を解いたディルと、魔法によって完全回復したリュウとエンがライに寄り添った。
俺が気を失っているのを見てリュウは回復を試みるが、拒絶されて魔法がかき消されてしまう。
そして不満げに、不安げに―――そして感情のままに、ディルにつかみかかった。
「ディル! これはどういうことなの? 説明してよ! なんで回復魔法が拒絶されてんのよ! なんで翔琉ちゃんが、気を失ってるのよ!」
「……」
「なんとか言いなさいよ!」
リュウはディルの胸倉をつかむが、エンによって止められて振りほどかれてしまう。
そして振りほどかれてからほどなくして、ディルは固く閉ざしていた口を開き、神魔法について彼女の知る見解で語りはじめたのだった――――
「神魔法はね――――諸刃の剣なの。 対象者の精神力を極限まで削って発動する魔法なのよ……。 だから使用後は、その強力な代価として強力な負荷がかかるのよ――――」
「なるほど、では翔琉君は、その絶大な負荷を今味わっているという事なのだな?」
「ええ―――もう少し、詳しく説明したいんだけど、今は翔琉をどこかに安静に寝かせられる場所へ移動させた方がいいわね。 こんな、温泉の蒸気で立ち込めた場所では、きちんと介抱することは出来ないでしょ?」
「ええ、そうね。 翔琉ちゃんの介抱が先決ね」
「なら、うちに案内しよう。 安全のために結界はいくつか張ってあるし、なにより安全だからな―――」
エンが源泉に手をかざすと、源泉が左右に割れて、地下へと通じる階段が現れた。
そしてディル達は、下へと下ってくのであった――――
エンがここを使え―――とソファーの上に転がっていた物をどかした。
そして俺はそこに寝かされたのだった。
「さてと――――ディル、詳しく説明してもらおうじゃないの」
リュウは、そういって俺の寝ているソファーの近くに、椅子を持ってきてどかりと座り、ディルをにらみつけた。
ライはいつの間にか幼児化して、俺をひざまくらしながら、ディルを眺めている。
いつの間に――――
「分かった、説明する。 神魔法についてね―――――」
”伝承、文献――――様々な観点から見ても、神魔法と言うのは数少ない、というかほぼ無いに等しい情報量だった。 神魔法―――古き時代の遺産にして、絶対なる魔法の象徴。 かつて使用できた者は、ただ1人……神様だけだったらしい。 神魔法は絶大な力を与えるが、その分負荷が大きい。 精神力を鍛えた大魔導士が使うのならば、ある程度は身体の負担は抑えられると思うけどね――――”
「だいたいは分かった―――でも、翔琉ちゃんがあたしの魔法を受け付けなかったのは? 治療魔法がかき消されてしまったのはどういう原理なの?」
「それは、おそらく光属性の影響かな」
「光属性の影響?」
「そう――――光属性の魔法は、慈愛の心が強ければ強いほど、魔法の力は強くなる――――そして、翔琉は神魔法を使った直後だった……そのことから考えると、神魔法の光属性の影響が、その時にはまだ残っていたから、リュウの魔法はかき消されてしまったんじゃないかな? だから、今なら――――」
「――――治療魔法が使える。 分かった、やってみるわ」
リュウは俺の頭に手を置いた。
そして、リュウの手が光ったと思えば、俺はすぐに目を覚ましたのであった。
「――――あれ? みんなどうしたの? と言うか、ここはどこだ?」
「うわーい―――翔琉が起きた!」
そういって頭付近にいるライは、俺の顔を手繰り寄せて、自分の顔をこすりつけ、リュウは俺にそのまま抱き付いてきたのだった――――
エンは眼鏡を置いて、ディルと話を続けていた。
どうやら、俺の話らしい。
「しかし、何故こんな少年が、あの伝説の神魔法を使えるのだ?」
「分からないわよ。 それに翔琉は、実は異世界から来たのだけれど――――」
「ほう―――あの少年は、異世界から来たのか。 その割に、魔法を使えていたが……もしや……」
「うん。 教えてあげた。 他の魔法を覚えるために”地獄の特訓”もしてあげたけどね――――」
「――――翔琉君も、とんだ災難だな……んで、ディルが神魔法を教えたのか?」
「私にそんな事できるわけないでしょ? 私だって、神魔法使えないんだし―――。 それに一番初めに翔琉が覚えた魔法が、たまたま神魔法だったってだけよ。 いきなり、何の前触れもなく発動させたから、びっくりしたわよ」
「一番最初に神魔法を発動させたのか―――それは、驚くな。 うちなら、腰を抜かしてしまうかもしれないな」
はははっ、と談笑を行っている。
そろそろ本題に入らなければ―――と思い、俺はエンにソファーに座りながらではあるが、声をかけた。
「ん? なんだい翔琉君? うちに何か用かな?」
「はい。 本日は、お願いがあって、ここに来ました。 実は―――【オールドア】の封印を解いてほしいんです、7人の大魔導士が、かけた強力な封印を―――」
「ふむ―――それはつまりは、君が帰るために扉の封印を解く、という事だね。 それは別にかまわないけど……でもきっと、それだけじゃないんでしょ?」
「地獄炎瑠―――ここに、闇の大魔導士ホルブがいるのよ」
ディルがそういうと、エンの顔つきは一気に険しくなった。
「――――地獄炎瑠……龍族の聖域。 いったいホルブは何をしているんだ? まあいい。 分かった。 その地は俺以外は龍族しか立ち入ることが出来ない場所だ。 いいだろう、ついていってやる」
エンが仲間になった。
いい加減、仲間になった瞬間にはBGMが鳴ってほしいものである。
「―――という事で、翔琉君よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ところで、1つお願いがあるんだけど―――」
え?
なんだろう?
「封印解除と、大魔導士探索に協力する、その代わり――――」
「その代り?」
「―――その代り、君が持っている異世界の情報を、うちに教えてくれないか?」
ん?
「え? それって、どういうことですか?」
「実は、君が外で”硫黄”と言うものについて、説明していたのを、こっそり聞いていたんだ。 それで、その何というか―――」
「あーあ、化学に興味を持ったって言うことですか?」
「ほう―――そういう分野の事を、化学、と言うのか。 その化学について、君の知っている限りでいいから、是非ともご教授いただきたいのだよ――――情報屋としては、異世界の情報は貴重だからね」
「情報屋?」
俺が首をかしげていると、ライが咳払いをした。
何事かと思い、ライの方を向くと、にやりとしている。
「あのな、翔琉。 情報屋ってのはな――――」
と言って、話始めた。
どうやら、俺に”情報屋”と言うのを説明してくれるらしい。
そのために、咳払いしたのかな?
でもなんでニヤついていたんだ?
まあ、いいか、今はそんな事。
情報屋―――情報を売り買いする、商売で、表の情報から裏世界の情報まで、津々浦々に調べる仕事である。
エンはその情報屋の中でも、上位に位置するほどの実力者でもある、とのことだ。
そんな彼は、現在異世界の情報に興味津々なのである。
異世界からの来訪者―――正確には、迷い込んでしまったの、だが何にせよ、情報屋としてエンにとっては貴重な話が聞けるのであろう。
俺も、元の世界へ戻れるなら、自分の持っている化学の知識などは、出し惜しまずに提供することだろう―――
「さあて、翔琉の体調も戻ったことだし、そろそろ地獄炎瑠に向かいましょうか」
ディルは”外で、移動用の魔方陣を描いておくわ”と、そそくさと外へと出ていった。
「相変わらず、あいつはせっかちだな」
とエンや俺たちも、外へと赴くのであった。
いよいよこの後は、闇の大魔導士ホルブに接触することになるのだろう。
しかし、なんだろうか?
俺には胸騒ぎがして仕方がなかった。
この先に何か危険な事があるような気がして……そしてそれは俺が元の世界に帰るために、乗り越えなければならない困難であるような気がしたのだった―――――




