3rdステージ35:運命をねじ曲げた女
「お前は……ドッペルゲンガー!」
と、私はまだ名前すら名乗らずに天野翔琉の姿をしたやつに叫んだ。
ドッペルゲンガーは、驚いていた。
それと同時に、姿を見破られたことに対して動揺した。
しかしながら、これは私とドッペルゲンガーにしか分からないこと。
他のフルートだったり、アニオンだったり、ジンライはこの事態を全くといっていいほど理解していなかった。
というか、理解するほどの情報がなかったのだ。
「え? あれって……天野翔琉くんじゃないの? ディル……」
そういって、フルートはやつを見る。
確かに、姿形は天野翔琉そのものだ。
「そ……そうだよ! 俺は天野翔琉だぜ! 何言ってるんだよディル!」
声も同じだ。
だけど……
「「でもこいつ、匂いが違うよ」」
と、私とジンライは声を揃えて言った。
ジンライは、えっと言うような顔をしている。
「天野翔琉の匂いは、ハーブとシャンプーの甘い香……それに引き換え、やつはタバコとヒョウの血の匂いがベットリとしている……でしょ? ジンライ」
「あ……あぁ……そうだ!」
ジンライは未だにきょとんとしている。
「でも、なんでディルがそんなこと知ってるんだ? これって、鼻のいい種族しか分からないはずなのに……」
「私は1度、この光景を目撃してるのよ……」
「え?」
「私は1度こいつを殺した……だけど、死ななかった。 天野翔琉の能力を持つこいつは死ななかった……私はこいつに人殺しのレッテルを貼られた……そのショックで無意識に過去に遡ってしまった。 だから、私にとってこれから起こることはデジャヴなのよ……」
くくくっと、ドッペルゲンガーは笑っている。
「あはぁぁぁあはぁぁぁ……なるほどね……それなら俺の正体や能力知ってても違和感ねーや……で? どうする? 魔法耐性の強い身体と能力……そして、不死身に近い主人公スキルまで会得してしまっている俺に……どう対応するのかな?」
「簡単よ……あなたが天野翔琉に近いものならば、天野翔琉が何に弱いのか……それを知ってるはずよ……」
「なに?」
「じゃあ、ジンライ……あのね……」
と、私は堂々と耳打ちをする。
「……! 確かに……翔琉なら、それに引っかかるけど……」
「うん、やってやって!」
「まあ、それであいつ倒せるなら……行くぞ! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ジンライの身体が光に包まれて行く。
そして、眩い光が消えた瞬間に彼は変身していた。
幼児の姿に。
そして、うるっとした目でドッペルゲンガーの方に向かって言った。
「翔琉は、俺の事嫌いなの? じゃあ、俺も嫌い! だいっ嫌いだよぉ!」
その瞬間に、翔琉の姿をしたドッペルゲンガーは鼻血を吹き出して倒れてしまった。
天野翔琉最大の弱点。
それは、自身の息子であるジンライである。
あの男は、幼児に極端に甘い。
更に言えば、ロリやショタにはかなり。
もっといえば、自身の息子には特に甘い。
子供の【おねだり】に、本気で取り組むんだから、子供から言われる罵倒なんてものには耐性があるわけない。
天野翔琉破り、ここにあり!




