3rdステージ33:好きな人をこの手で殺める
ドッペルゲンガー。
世間一般で言うと、もうひとりの自分。
みたら死ぬとされる、自身の影。
そんなやつは今、私たちの目の前で私たちの愛すべき仲間を痛め付け、私たちの愛した人物に変身していた。
そんなこんなで、怒りが限界まで達していた私たちは、口より先に手が出ていた。
まず、フルートの強力な蹴り。
水の壁に蹴り出されるドッペルゲンガーに対して、アニオンが追撃するように拳をふりおろす。
メキメキっと、骨が折れる音がした。
今度はアニオンのではなく、ドッペルゲンガーのものだった。
「ぐっ……」
と、呻き声をあげたドッペルゲンガーに更にジンライは旋風脚を3連続で食らわせる。
さながら、ゲームの中の世界にありがちなバグ技のような動きをしていた。
そしてトドメに私が、空中に奴を投げ出してそのあと地面に向かって思いっきり蹴り飛ばした。
砂塵と水しぶきが込み上げる中、ドッペルゲンガーは全くといっていいほど無傷で立ち上がる。
「やれやれ、とんだお嬢さんとお坊ちゃんだな……」
そういってニコリと笑っている。
翔琉の顔で……。
「なんで、こんなにもダメージがないんだよ!」
と、フルートが怒鳴っている。
普段ならば冷静な彼女なのだが、仲間を傷つけられた上に仲間の真似をしている敵を目前にしたことで鬼神のようになっている。
ドッペルゲンガーは、それに対して平然とにこやかに応える。
「それはね、天野翔琉の能力なんですよ」
という。
「天野翔琉……世界最高峰の知識と魔法……そして、運動能力を有する男。 彼ならば、スポーツや格闘技でも世界を狙えるかもしれないね……でも、残念ながら彼にはそんな気持ちは無いみたいだけど。 俺の能力【完全模範秘術】は、天野翔琉の記憶や思考まで完全に再現できる……俺はそれにのっとって、今までの攻撃は全て受けた。 直後に、光治ですぐに治した。 つまり、俺は無敵だ……」
「無敵? そういうのは、翔琉本人は絶対言わない台詞ね……あの男は、常に自分は劣ってると思って行動しているから……その辺は傲慢にはならないのよ……偽物野郎」
「偽物野郎で結構……だけど、俺は限りなく本人に近い人物だったりするんだぜ……だから……ぐぅ……」
ポタポタ、とドッペルゲンガーの胸を貫いた手から血が流れ落ちる。
ドッペルゲンガーを貫いた人物は、何を隠そう私だ。
もう、なんかこいつは見たくなくなった。
だから、殺すことにした。
「さようなら……私の好きな天野翔琉……の限りなく近い偽者さん……私は好きな人を真似されたり侮辱されたりすると、無性に殺したくなるのよね……だから、平気であなたを殺せるわ……ありがとう」
ズボッと、腕を引き抜いた手にはドッペルゲンガーの心臓が握られている。
それを私は近くに落ちてた石で潰してやった。
さようなら。
偽者野郎は死ね。




