3rdステージ19:初めて
長老の攻撃は恐ろしかった。
まるで、歯が立たない。
こんなに恐怖を抱いたのは初めてかもしれない。
そんな強さだった。
「はぁ……はぁ……」
うちは血まみれでふらつきながらも、必死に立ち上がっている。
そんな光景をよそに、長老は無傷であった。
それどころか、返り血冴えも浴びずに、鼻唄混じりで余裕だった。
「どうした? もう、御仕舞いかな? エン……」
「くっ……若返った途端にこの強さ……流石、元歴代最強と言われた炎の大魔導士……現役時代まで肉体が戻ったとたんに、強すぎだろ……」
「はっはっはっ……まあ、そう嘆くこともなかろうて……単純にお前が、現役時代の我より弱かったと言うだけだろ?」
「返す言葉もないな……どうやら、慢心していたようだね……己の力を過信して、日々の鍛練を怠って……挙げ句の果てに、人任せ……本当に緩みきっていたよ……うちは……」
こうなったら……。
あれをやるしかないか。
禁じて中の禁じて。
禁断中の禁断。
王家のみに口伝されていた、伝説の魔法。
龍化仙。
自身を、龍に変身させる魔法。
だけど、代償としていつ目覚めるか分からない眠りにつかされる。
即ち、死を覚悟しなければならない魔法。
翔琉君……。
君には、まだ聞きたいことが山ほどある。
そもそも、異世界の情報まだ貰ってないし。
それを聞くまでは、やられるわけには行かない。
でも、あの強い長老を破るにはこの魔法しかないのか?
考えろ。
考えるんだ。
"エン……その魔法は使ってはなりませんよ……"
不意に頭に声が響いた。
辺りを見回したが、うちと長老以外は誰もいない。
うちは心で、誰だ?
と聴いた。
ズキン、と頭が痛くなった。
気がつくと、白い景色になっていた。
無。
何もない。
そこに、白いドレスを来た、優しそうな顔をした女の人が立っていた。
"エン……私はあなたのお母さんよ……"
と彼女は言った。
「お母さん?」
"そう……あなたのお母さんよ……"
「確たる証拠は?」
"証拠……そうね……何がいいかしらね……"
「何がいいかしらね? 何を知っているんだ」
"うふふ……その、突っ掛かってくる喋り方……お父さんにそっくりね……"
「父? というか、あなたは今どこにいるんだ?」
"私は既に死んでいる……だから、魂の存在となってあなたのそばにずっといたわ……まあ、認識できないように魔法をかけてたんだけどね"
「なんで、魔法かけてたんだよ。 素直に出てくればいいじゃないか!」
"ごめんね……本当に……ごめんね……"
「なんで、謝るんだよ。 うちが、悪いみたいじゃないか」
"……エン……実はね、今のあなたは本来のあなたじゃないの……"
「それってどういうことだよ。 急にそんなこと言われても困るって言うか……」
"今のあなたは、本来の50%の力しか引き出せていないの……それは、お母さんとお父さんが、あなたに封印を施したからよ……"
「封印? なんで、そんなものを?」
"……あなたは強すぎたの。 生まれでたときから、強大な力に蝕まれていったの……だから、それを止めようとお母さんとお父さんは、あなたに封印をしたの。 いつか、それが制御出来るようになる日まで……その封印を施した次の日に、私たちは戦争に赴くことになってしまって、まあ死んでしまったんだけど……誤解しないでね、あなたのせいじゃないからね……私たちは死んだけど、幸せだった。 あなたと言う可愛い子供を授かったのだから……あなたは、私たちに愛されていた。 だからこそ、その命を大切にして欲しいの。 私たちの生きた証として、いつまでも……いつまでも……"
「母さん……」
"ありがとう……こんな、ダメな母を母と呼んでくれて……もう、あなたは力を制御できる年になった……そして、今あなたは長老を倒さなければならないんでしょ?"
「うん。 生命針っていう、道具魔法が必要なんだ。 それさえあれば、異世界の友人を助けられるかもしれないんだ」
"分かったわ……今こそ、あなたの枷を解いてあげる……それが、母さんに出来る最大の事……どうか、あなたは生きて……そして、全てが終わって母さんたちのところに来ることになったら、聞かせてよ。 あなたの人生を……私たちは、それまであなたの事を見守っているからね……"
ぎっと、うちを抱き締めて、女の人は……いいや、母は消えた。
初めて母の温もりを感じた気がする。
温かくて、優しい。
自然と涙が零れていた。
その涙は、炎となりうちの周りに集まる。
そして、やがてうちの身体の中に入って、一筋の光を与えてくれた。
パキン、と音をたてて、うちの中の封印は解けた。
今度こそ、長老を倒して見せる!




