3rdステージ15:秘匿
「ワシは、そんなものは知らぬ……」
そういって、長老はそそくさと出ていかれてしまった。
あの態度、あの顔……。
絶対に、何か知ってるな。
「やれやれ、うちの前で隠し事なんて……暴いてくれって言ってるもんじゃん」
うちは、情報家。
何でも知ってる女、アニオンの一番弟子だ。
ここで食い下がるわけには行かない。
そう思って、長老の後を追おうとした時だった。
守護隊が、部屋の回りを囲んでいた。
まるで、何かをこれから捕縛するかのような鋭い眼だった。
「これはこれは、精鋭のみなさん。 どうなされました?」
そう、うちが言うと幼馴染みのファイが前に出てきた。
いつものデレデレした顔はなく、あからさまに険しい顔をした隊長の顔だった。
「炎の大魔導士にして、世界最高峰の情報家……そして、龍族王家のエンよ……」
と、ファイは口を開く。
「お前は、龍族の掟を1つ破ってしまった……それは、【長老のみに伝えられる秘匿技術を許可なく手に入れようとしたもの、極刑の上、死罪とする。】に該当する……残念だがエン……私は1人の龍族として、1人の隊長として、1人の幼馴染みとして……ここで貴様を倒さなければならんようだ……」
「ふーん……まあ、こうなることは見えていたさ。 でもね、恩人である天野翔琉を救うためにやってることだから仕方がないんだよね……」
「天野翔琉? ああ……あの時、光属性の魔法で我らを救った少年か……確かに。 命の借りとしては、ここにいる全員が該当する。 恩は返さねばなるい……しかしそれは、いずれだ。 今は、掟破りの裏切り者を始末してしまう方が先だ……」
「それ、本心で言ってる? 本当に自分の気持ちは、この結末でいいって言ってる? もし、納得してない。 納得したくないなら、未来は変えなきゃいけないよ、ファイ……」
「黙れ!」
そういって、ファイは腰にぶら下げていた長い剣を取り出した。
龍族の守護隊長に代々受け継がれる、神が作った宝具の1つ……【滅龍剣】。
全属性の魔力が、込められた剣は恐ろしい破壊力を持つ。
本来ならば有り得ない、全属性融合が可能な代物で、かつて神が創世時代にいたとされる邪龍を滅ぼすために作られた剣だ。
だから、あの剣は龍族にとっては致命的な剣と言える。
もしも、一太刀でも浴びてしまえば、瀕死の重症になってしまう。
「その剣を出したってことは……本気なんだね?」
「だから本気だと……いっておろうがぁぁぁ!!!」
そういって彼女は斬りかかってきた。
凄まじい速度。
流石は隊長。
目にも止まらぬ早さとは、まさしくこの事か。
ま、避けれるんだけどね。
「何!」
と、ファイは驚いていた。
どうやら、この一撃で仕留められると勘違いしていたようだ。
「ファイ……なめるなよ。 うちは、つい最近まで光になって移動できるやつと一緒に居たんだぜ。 それに比べたら、君の速さなんて遅く見えてしまう……それに……うちは、世界魔法連合の8人の大魔導士の1人【炎の大魔導士エン】だよ。 実力がないって訳じゃないんだから、もう少しまとまってかかってきなよ……」
「くっ……言われなくても‼ 全軍、エンを処刑せよ‼ 任務開始!」
そう彼女が剣をうちに向かって向けると、周りにいた守護隊が一斉に攻撃してきた。
遠距離魔法、中距離魔法、近距離魔法……
うん、まあ戦法としては正しい。
「でも、まだまだだね……みんな」
うちは舞うように戦う。
さながら、大空を舞うように飛ぶ龍のごとく。
「炎龍魔法:紅天の舞」
秒ごとに、大人数が地面に頭を垂れている。
数分後にこの場に立っていたのは、うちとファイだけだった。
「炎龍魔法だと……それは、長老にのみ口伝されるとされる秘伝魔法……お前、それをどこで!?」
と、ファイは憤りを露にしていた。
うちは、淡々と答えた。
「前に長老が使ってるところみて、覚えた」




