3rdステージ14:炎の龍
龍族の聖域である地獄炎瑠に、炎の大魔導士にして龍族の1人であるエンはやって来ていた。
以前に訪れた際には、暗黒賢者ボルによって荒らされていた神聖な聖域も、すっかりと神聖な場所として元に戻ったらしい。
相変わらず、激しい溶岩の川や滝が存在している危険地帯である。
しかしながら、龍族の一員であるエンにとってはぬるめのプールに見えるだろう。
前は生身の人間が多くいたので、素直に出来なかったが今はエン1人である。
いつものように、溶岩を泳いで聖域へと向かうことにした。
「うわ、これぬるいな……もう少し温かい方がうちは好きなんだけどな……まあ、仕方がないか」
と、愚痴をこぼしつつ彼は故郷にたどり着いた。
前回とは違い、警備は万全。
入り口の門番に、軽く会釈をして内部にある神殿に入っていくのだった。
壁の装飾や、炎の灯火もしっかりと機能している。
「うん、異常無さそうで良かった良かった」
辺りを見回しながら、彼はある人物を探していた。
今回の目的物である【生命針】の在処を知っているであろう人物。
「お! エン! 久しいな」
エンに不意に声をかけてきたのは、この神殿の守護隊の隊長にして、エンの幼馴染みであるファイである。
長い紅い髪に、金で装飾した釵を腰布に装着しているれっきとした女の子である。
服装は、東洋系の赤い服装に、黒色の羽織をしている。
「おお、ファイ。 元気だったかい?」
と、エンは彼女の元へ駆け寄る。
ファイは照れながら、髪をいじっている。
「まあ、一応元気だよ……」
「そうか、良かった♪ それにしても、髪だいぶ伸びたな♪ 前の時の短いのも似合ってるけど、うちは髪長いファイが一番可愛いと思うぜ♪」
「ば……ばか! いきなりそんなこというなよ……照れる」
顔を真っ赤にして、ファイは手で顔を覆い隠している。
なんとも、守護隊の隊長を任されている女の子と言うよりかは、恋する乙女と言ったような感じである。
「ところで、ファイ。 長老を見かけなかったか?」
と、エンはファイに聞く。
ファイは首を横にふり。
「いいえ、今日はまだ見てないわよ。 いつものように、部屋で何か作ってるんじゃないかな?」
「ふーん……分かった。 ありがとうな♪ んじゃ、またあとで」
そそくさとエンは長老のいるとされる部屋に向かう。
そんなエンをファイは見つめている。
「もう少し話しがしたかったな……ま、でもまた後でって言ってたんだから、少しの間はここにいるのかな?」
ファイは、エンの姿が見えなくなるまでずっと彼を見ていたのだった。
エンは長老のいるとされる部屋に辿り着いた。
そこは、魔法の力を道具魔法に宿すことのできる【造形の間】。
エンが以前、ここに来る前に溶岩に落とし入れた眼鏡は、実はここで作ったものである。
扉を勢いよく開け、エンは中へと進む。
すると、丁度長老が道具魔法を造っているところだった。
七色に輝く光が、1つの杖に吸い込まれるように入っていく。
そして、杖が輝きを放った。
どうやら、完成したようだ。
「長老……今度は何を作ったんですか?」
と、エンは長老の方に歩み寄る。
長老も、どうやらエンに気がついたらしく。
「おお、エンじゃないか。 息災であったか?」
と、笑みを溢して出来立ての杖をつきながら、立ち上がる。
「ええ、お陰さまで元気ですよ。 長老は?」
「ふふふ、ワシも元気じゃよ。 まだほんの198歳じゃからな。 龍族の寿命は300年が平均じゃから、まだまだこれからじゃわい」
「もう、相変わらずですね……ところで、それは?」
と、エンは改めて杖について聞こうとする。
先程はどうやら聞き流されてしまったようで、反応してもらえなかったようだ。
長老は、"おお、これか?"と、杖をエンの前に出す。
「これは、持っているだけで身体が温まる【灼杖】じゃよ。 最近冷え症なようでのう……手足が冷たいんじゃ」
「炎を司る龍族の長老が冷え症だなんて、他の種族に聞かれたら笑われてしまいますよ?」
ははっと、2人は笑った。
龍族特有のギャグだったようだ。
「コホン……さて、長老。 今日うちが来たのは、あなたに聞きたいことがあったからです」
「む? なんじゃ? ワシに聞きたいこととは?」
「ええ……実は、この神殿内にあるかもしれない道具魔法の事についてです」
「ふむ……して、それはなんじゃ?」
「【生命針】……この名に聞き覚えはありませんか?」
そうエンが長老に尋ねると、長老はギョッとしたような顔をした。
まるで、何故その事を知っているんだ?と言わんばかりの顔だった。




